支持率86%に急上昇したデンマーク政府の「驚きのコロナ対策」 | FRIDAYデジタル

支持率86%に急上昇したデンマーク政府の「驚きのコロナ対策」

一方日本は…

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打つ手打つ手が裏目に出る安倍晋三首相(写真:つのだよしお/アフロ)
打つ手打つ手が裏目に出る安倍晋三首相(写真:つのだよしお/アフロ)

北欧のデンマーク政府は、新型コロナ禍で早期にロックダウンを行い、ITを活かした早急な経済支援などを実施、国民から絶大な信頼を得た。一方、経済支援をめぐって混乱をきたした日本は、ポイント還元制度などでマイナンバーの早期普及を図る。コロナ対策で評価を受けたポイントは何だったのか?

そして、日本でIT化を進める上で欠かせない前提条件とは何か?デンマーク・ロラン島在住のニールセン北村朋子さんに伺った。

支持率を急上昇させたデンマーク政府のコロナ対策

Q:日本が緊急事態宣言を解除した同じ5月末に、デンマークでもロックダウンが解除されました。日本政府のコロナ対策の評価については、例えば共同通信の5月の調査では「評価する」が34.1%、「評価しない」が57.5%とあるように、いずれの調査でも「評価しない」が「評価する」を大きく上回っています。デンマークのコロナ対策は、なぜ国民から大きな支持を得たのでしょうか?

ニールセン北村:支持されたポイントは、大きく分けて3点あります。政府の姿勢、情報の一元化、そして迅速な経済補償です。

まずは政府の姿勢です。大事な決定の際には、必ず関係閣僚とその決定に携わった機関の責任者が出席して記者会見を行いました。いずれも自身の言葉で、どのような議論が行われ、なぜこの結論に至ったかという経緯を丁寧に説明していました。非常に透明感がありました。またメディアからの質問だけでなく、市民から出た疑問や不安にも向き合い、的確に回答していました。首相は子どもたち向けの記者会見も行い、子どもたちも社会の一員であるという姿勢を伝えました。そのような姿勢が評価され、4月上旬の調査で「政権のコロナ対策を支持する」と答えた人が86%に登りました。

2点目は情報の一元化です。当初は、新型コロナに関する様々な情報が飛び交いました。そこで政府は、情報収集からアクションまでワンストップで可能になるシステムをつくりました。健康や医療、検査や治療などに関しては保健省のホームページ、補償金や税制に関してはビジネス庁のホームページ、そして政府の記者会見など全般的なところは警察庁と、3つに集約したのです。国民は必要な情報がどこにあるかがすぐにわかるので、ストレスはありませんでした。

3つ目の迅速な経済補償も重要です。政府は早急に民間企業や個人事業主に向けた補償制度を立ち上げ、国民は安心して自粛に入ることができました。収入の減少に対する補償金は、民間企業でも個人事業主でも、3〜4か月分もらうことができると定められました。

もちろん、コロナ前の状況が悪かった企業は倒産しているところもありますが、こうした対策によって倒産件数を抑える効果は大きかったはずです。私のような個人事業主も、企業と同様に4ヶ月分が支給されています。申請はオンラインで5分から10分程度で終わり、約1か月後にはまとめて振り込まれました。

ロックダウンや補償手続き、そして情報の一元化がスムーズに行われた背景には、社会でIT化が進んでいたことが深く関わっています。デンマークでは、どこにいても働ける環境づくりをめざしたインフラづくりがほぼ整いつつありました。そのため、ロックダウンと同時に公務員はすべてリモートワークになり、一般企業も問題なく移行することができたのです。

新型コロナウイルスの感染拡大した5月中旬、市中視察で学校を訪問したデンマークのメッテ・フレデリクセン首相(奥の右から2人目、写真:ロイター/アフロ)
新型コロナウイルスの感染拡大した5月中旬、市中視察で学校を訪問したデンマークのメッテ・フレデリクセン首相(奥の右から2人目、写真:ロイター/アフロ)

日本のマイナンバー普及策はポイントがずれている?

Q:デンマークでは、マイナンバーのような制度が普及しているのでしょうか?

ニールセン北村:デンマークには、「CPR」という市民登録システムがあります。生年月日+4桁の数字からなる、合計10桁のCPR番号です。デンマークでは、CPRナンバーがないと生活できません。登録内容は、社会保障番号、氏名、住所、婚姻状況、出生登録地、市民権、親族、権限、職業、国教会の所属関係、参政権、所属自治体、死亡などの情報など多岐にわたります。

特に頻繁に利用する行政サービスや医療サービスは、CPRなしでは受け付けてももらえません。また、賃貸物件の契約、銀行口座の開設、就職、起業、融資を受けるとき、電力会社やガス会社を変更するときにもCPRナンバーを申告する必要があります。それによって、あらゆるサービスをオンラインで済ませられるようになっています。今回、経済補償の申請が5分や10分でできたのも、このCPRの普及が大きく関係しています。

Q:日本では、コロナ禍で市民が手続きをするのに役所に出向いて紙の書類を提出しなければいけないことなどが問題になりました。政府はいま、ポイント還元という形でマイナンバー普及を目指していますが、それについてはどのように感じますか?

ニールセン北村:日本でも申請や登録がオンラインでスムーズにできるようになったらいいとは思います。ただ個人的には、買い物ポイント還元などは、本来の目的や目指すところからは少し外れている気がしています。大切なのは、どういう社会を目指すのかというしっかりとしたビジョンがあって、なぜそうしなければならないのかが国民と共有されているかどうかです。デンマーク国民にとっては、CPRを利用することによってオンライン化が進み、忙しい日々の暮らしの中で役所などに実際に足を運んだり、無駄な待ち時間や紙の書類づくりを省くことができるという大きなメリットがあります。インセンティブ(動機付け)が理解されているかどうか、という点で日本と違うのかなと思います。

このようなシステムでは、個人情報漏洩のリスクも懸念されます。デンマークではそれがしっかり守られる制度設計が行われ、行政と国民の間で信頼関係が構築されいることでスムーズな運用ができるようになっています。もちろん、さまざまな対策をしても個人情報漏洩のリスクはありますが、それが現れた時にできる限りの透明性を持って対策を講じている点が重要です。

欠かせないのは将来のビジョン

Q:透明性や説明責任という点では、日本政府は公文書のずさんな管理をはじめ様々な問題を抱えているため、国民から懸念を抱かれる要素が多そうです。IT化を浸透させるためには、単にテクノロジーを普及させるだけでなく、政府と国民との信頼関係がカギになりそうですね。

ニールセン北村:デンマークの政治では、何よりも公平性や透明性が重んじられています。また汚職・腐敗が世界で最も少ないことで知られています(※腐敗認識指数2019年より)。デンマーク国民にとって政治家は身近な存在です。自転車で通勤する議員も大勢いますし、政治家のメールや電話番号は常にホームページで公開されています。国民からすれば誰もが政治に参加しやすい雰囲気がある一方、政治家からすると無責任なことができないという緊張感があるということでもあります。

Q:デンマークと日本とでは政治に対する距離感が全く違いますね。これからの日本社会を考える上で、デンマークの考え方から学べることはどんなことだと思いますか?

最も大きな違いは、デンマークでは常に自分の国がどうありたいかというビジョンがはっきりしていることだと思います。と同時に、そのビジョン実現のために、しっかりと教育に落とし込まれていることも重要だと思います。IT化だけでなく、気候変動対策や農業、エネルギーなどあらゆる面で、自分たちの国はどんな特色を打ち出し、世界の中でどういうポジションを担いたいかという明確なビジョンを持っています。

それに比べると、日本の場合はぼやけている感じがします。将来の社会のあり方が議論されないし、わからないから、大人も子どもも不安になっている。どういう国になりたいかというビジョンを持つことは、コロナがあるかないかに関わらず、永遠のテーマではないでしょうか。私たち一人一人がきちんと議論して、どういう社会を目指すかについてみんなが思い描けるようにすることが、民主主義にとって大事なことかなと思います。

※トランスペアレンシー・インターナショナルが毎年公表する「国別腐敗認識指数(CPI)」(2019年)で、デンマークはニュージーランドと並び同率1位。日本は20位

ニールセン北村朋子

2001年よりロラン島在住のソーシャルコーディネーター・アドバイザー、ジャーナリスト。「地球と人にうれしい」ライフスタイルと社会づくりをテーマに、企業や団体のコンサルティングを行う。国家どうしの公的会談の際には通訳も務める。宮城県東松島市の復興支援のため、現地での取材や記事執筆、及び復興イベントの企画を継続して行っている。現在、ロラン島でのフォルケホイスコーレ開設プロジェクトに尽力。著書に『ロラン島のエコ・チャレンジ〜デンマーク発、自然エネルギー100%の島』がある。
  • 取材・文高橋真樹

    (たかはしまさき)ノンフィクションライター、放送大学非常勤講師。映画「おだやかな革命」アドバイザー。『ぼくの村は壁に囲まれた−パレスチナに生きる子どもたち』『そこが知りたい電力自由化』ほか著書多数。

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