まさかの2位…!ヤクルト「下馬評を覆す快進撃」5つのワケ

下馬評を覆す快進撃、その5つのワケ!

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セ・リーグの規定投球到達者の中では防御率最下位ながら、4勝0敗と快進撃を続ける小川泰弘(ヤクルト)

「……どうして、このチームは2位なのだろう?」

ときおり激しくなる大粒の雨を恨めしく思いながら、びしょ濡れとなっていた。スコアボードには「20」という文字が刻まれている。「20得点」ならば、いくら濡れようとも構わない。しかし、目の前の現実は「20失点」という非情なものだった。

さらに目を凝らすと「B12」とある。もちろん、「ビタミン12」のコアラビンのことではない。「B」とは、「フォアボール」のことであり、つまりは「12四球」を意味していた。この日、スコアボードに刻まれていたのは「20失点」「12与四球」という何とも言えない現実だった。大雨に打たれながら、僕はこんなことを思っていた。

(どうして、それでもこのチームは2位なのだろう……)

そう、東京ヤクルトスワローズは戦前の下馬評を覆して、7月30日終了時点で堂々の2位をキープしているのである(以下記録はすべて7月30日終了時)。防御率は4・82! 12球団堂々のワースト1位だ。ちなみに、20失点を喫した7月28日の試合終了時点のチーム防御率は5・09と、まさかの5点台! むしろ20失点ながら5点台で済んでいる方が不思議だよ。

攻撃陣を見ても、頼みの山田哲人は「上半身コンディション不良」でファーム落ちチーム打率は.256でリーグ4位。チーム本塁打は32本でリーグ5位と、バレンティン退団の影響をモロに受けている結果となっている注目すべきはチーム総得点が162点で、総失点が179点。実にマイナス17点という惨憺たる現状だ(一試合で20失点なので仕方ないけど)。

それでも、現実は3位に2ゲーム差をつけた2位なのだ。7月2日の対広島戦では村上宗隆のサヨナラ満塁ホームランで3位となり、11日の巨人戦に勝利して単独2位に、翌12日も勝利して単独首位となった。「一日天下」ではあったものの、それでも必死にトップを快走する巨人に食らいついている。「一体、野球評論家はどこを見ていたのか?」と憤りたくなるほどの快進撃を続けているのだ。

ヤクルトが好調な5つの理由

ここまでのヤクルトは昨年までと何が違うのか? なぜ、セ・リーグではヤクルトだけが「3連敗」が一度もないのか? どうして、2位を死守できているのか? さまざまな要因が挙げられるが、ここではあえて5つに絞って解説していきたい。

①村上宗隆の早すぎる覚醒

昨年、プロ2年目で36本塁打をたたき出し、19歳にして早くも一流スラッガーの仲間入りを果たした村上だが、そうは言ってもまだまだ粗が目立ち、真の意味での一流打者になるまでにはもう少し時間を要するだろうと思われていた。しかし、今年は抜群の選球眼を誇り、打点、四球、二塁打、さらには得点圏打率までリーグトップ打率も.3414と堂々の4位を記録している。たとえチーム打率は低迷していようとも、軸となる四番・村上の「早すぎる覚醒」がチームを勝利に導いているのだ。

②ライアン小川の不敗神話

開幕前には「先発陣のコマ不足」が指摘されていた。この点に関しては反論しようがなく、悔しい思いを噛みしめていた。しかし、先発投手不足を補うべく、現状では数少ない精鋭たちが必死に投げ続け、何とか勝ちを拾っている。その中心となっているのが「ミスターサタデー」、小川泰弘だ。昨年、5勝12敗に終わった右腕は6月20日の今季初登板から、きっちりと中6日のローテーションを守って、毎週土曜日の先発登板を続け、ここまで無傷の4連勝を記録。早くも昨年の勝ち星に並ぼうとしている。プロ8年目の小川が、ようやくひと皮むけたのだ。

③中継ぎ陣の奮闘、奮闘、大奮闘

前述したように、「先発陣のコマ不足」は、依然として解消していない。ならば、足りない分は中継ぎ陣で補うしかない。現役時代、不世出のクローザーとして活躍した高津臣吾監督は、継投策にその才を存分に発揮している。ホールド記録を見ると、プロ2年目の清水昇が堂々の1位で、さらに、2位タイに梅野雄吾とマクガフが並び、上位を独占しているのだ。そして、各チーム「クローザー大崩壊」の現状において、ヤクルトだけが石山泰稚で固定。セーブ記録もトップをマーク。数少ないリードをみんなで必死に守り抜く。これが、今年のヤクルトの泥臭い勝利の方程式なのだ。

④長谷川宙輝、寺島成輝のプロ初勝利

6月25日の対阪神戦では三番手としてマウンドに上がった長谷川宙輝が、さらに7月7日の対中日戦では六番手の寺島成輝が、それぞれプロ初勝利を飾っている。ご存知の通り、長谷川はソフトバンクの育成枠を経て、今季からヤクルト入り。支配下選手となり、その才能を開花させた。一方の寺島はドラフト1位で期待されながらの入団も、未勝利のまま4年目を迎えていたが、今年は見違えるような制球力とスピンの利いたストレートを武器に好投を続けている。さらに、いまだ勝利は挙げていないものの、24日の巨人戦ではルーキーの吉田大喜も先発で好投を見せた。ファームには「世界の宝」奥川恭伸も控えている。今シーズンは空前の「プロ初勝利」の当たり年となるのは間違いない。新戦力が台頭しやすいチーム事情を、若き選手たちはぜひ有効に活用してほしい。

⑤さぁ、廣岡大志の「覚醒前夜」がやってきた!

今季から加入した、ショートのエスコバーは前評判通りの堅実な守備で、課題だった「センターライン強化」に大きく貢献している。その一方で、「未完の大器」として期待され続けている廣岡大志がショートから押し出される形となった。キャンプでは本職のショートだけではなく、サードでのノックも受け続けていた。そして、開幕後にはさらに、レフトを守り、ファーストでも起用された。「何とか、廣岡にチャンスを与えたい」という高津監督の親心が透けて見えるような起用が続いている。わかるよ、監督! ほれぼれするような飛距離、彼の潜在能力を見れば廣岡に期待したくなるのは当然のこと。同じ背番号《36》を背負っていた池山隆寛の覚醒前夜を彷彿させる、廣岡には要注目だ。

……さぁ、いかがだろうか? 個人的願望と楽観的観測が入り混じった実に緻密な考察に大いに共感されたことだろう。「先発投手陣のコマ不足」という現状は変わらないけれども、ファームでは大ベテランの石川雅規ゴールデンルーキーの奥川恭伸が控えている。原樹理も「勝ち運」を引っ提げて、見事に復活を遂げた。30日の高橋奎二の今季初勝利をアナタは見たか?中継ぎ陣の疲弊が気にならないといえばウソになるけれども、ここは高津監督、斎藤隆ピッチングコーチのやりくりを信じよう。

勝負の8月を迎えて「貯金」とか「Aクラス」と言っている現状を喜びつつ、「あわよくば……」の思いとともに、もうしばらくの間は浮かれ気分で美酒に酔っていたい。

 

  • 長谷川晶一

    1970年東京都生まれ。早稲田大学卒業後、出版社勤務を経てノンフィクションライターに。転身後、野球を中心とした著作を発表している。主な著書に『いつも、気づけば神宮に 東京ヤクルトスワローズ「9つの系譜」』(集英社)、『幸運な男 伊藤智仁 悲運のエースの幸福な人生』(インプレス)など多数。文春オンライン内の文春野球ではヤクルト担当として2年連続優勝を飾る。Number Webでコラム「ツバメの観察日記」連載中。

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