沖縄経済本が話題の著者が語る「僕が沖縄で『愛』を叫ぶワケ」 | FRIDAYデジタル

沖縄経済本が話題の著者が語る「僕が沖縄で『愛』を叫ぶワケ」

日本が抱える本質的な問題を明らかにした話題の書 『沖縄から貧困がなくならない本当の理由』の著者インタビュー

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樋口氏は沖縄大学人文学部国際コミュニケーション学科で「観光経営論」なども担当する
樋口氏は沖縄大学人文学部国際コミュニケーション学科で「観光経営論」なども担当する

一冊の本が沖縄で物議を醸している。沖縄大学准教授・樋口耕太郎氏(55)の初めての著書『沖縄から貧困がなくならない本当の理由』がそれだ。樋口氏に話を聞いた。

「沖縄は現状維持が優先される社会で、物事を変えようとする人に対して、有形無形の同調圧力がかかります。『出る杭』は打たれるので、人間関係は『譲り合い』が原則です。労働者が、『責任のある立場になって目立つくらいなら……』と昇進を断ることも珍しくないし、消費者も、周りの目を気にして、当たり障りのない定番商品を買い続ける。経営者は従業員を低賃金で雇いながら、現状維持を続けることが『合理的』になってしまっている。

つまり、『沖縄の人が努力をしないのではなく、ある意味、同調圧力によって、努力することが(したくても)できないのだ』という見方なのです。

しかし、なぜ沖縄の人はあえて現状維持を好むのか。私は貧困を生み出す根本原因に『自尊心の低さ』が存在するのではないかと思っています。自尊心とは、ありのままの自分を愛する力のこと。自分を愛せなければ、人と関わることが怖くなり、失敗を避けるようになるから、イノベーションが起こりえないのです」

貧困問題を「自尊心」で論じた本書は賛否両論を巻き起こした。ただ、樋口氏はこの問題は沖縄特有のものではなく、日本全体の問題であるとも指摘する。

「沖縄は同調圧力が強く、現状維持を好む。でもそれは沖縄以外の日本も同じでしょう。多くの日本人も自分を大切にできず、日々、生きづらさを感じているのではないでしょうか」

樋口氏はそうした生きづらさの原因が自尊心の低さ、つまり「自分を愛せないこと」である以上、この問題の解決方法は、「愛」以外にない、と言い切る。

「私は16年前に沖縄に来るまで、本土ではバリバリの金融マンでした。当時は、『どこまでも利益を追及するヤツ』という雰囲気で見られていたと思います。その私が沖縄のサンマリーナホテルを買収し、ひょんなことから未経験のホテル経営をすることになった。従来の経営手法でしゃかりきになって働きましたが、沖縄ではまったく機能しませんでした。

そんなとき、沖縄で出会ったある人からこう言われたんです。『樋口さん、両手にたくさん荷物を持っているようですけれど、それは本当に大切なものですか。一度手放さないと、本当に大切なものを見つけたときに、手に取ることができませんよ』と。私はそのとき、『自分は沖縄で、本当に大切なものに出会うのかな』と妙に納得する感覚があったんです。

『両手の荷物を捨てて、本当に大切なものを選ぶ』――その『本当に大切なこと』とは何だろうか、とずっと考え、最終的に私には『愛』という言葉しか浮かばなかった。そうしたら、自分が一番関心のあるホテル経営で、どうしても『愛』を実践してみたくなりました」 

樋口氏はこの出会いを経て、「愛の経営」に目覚める。企業理念を「いま、愛なら何をするだろうか?」と定め、仕事のルールは「心からしたいことか?」「人の役に立つか?」の2つだけに絞った。

この「愛の経営」は樋口氏の想像を上回る成果を生み出す。10年間赤字だったホテルは2年足らずで1億3000万円の経常利益を生む高収益企業へと再生した。取得額が30億円だったこのホテルに対して60億円の売却話が起こり、樋口氏はこれに反対して解雇された。

「金融の世界で『安く買って高く売る』ということを徹底的にやっていた人間がある日突然、『愛の経営』を実践し始めたら、会社は『樋口は頭がおかしくなった』としか思わないですよね。半年休職するか、精神科にかかるかと言われて、結局、クビになりました。億を超える年収もゼロになりましたが、惜しいとは思いませんでした。『本当に大切なもの』を選ぶことができましたから。

今、沖縄も世界も、新型コロナで大変なことになっていますが、この環境を個人が変えることはできません。できることは、本当に大切なものは何かを考え直すことだけ。不謹慎かもしれませんが、仕事が減ってホッとしている人もいるんじゃないでしょうか。

最近料理をするようになった、家族の会話が増えた、お父さんが遊んでくれるようになった、という声がずいぶん増えました。おカネを粗末にするべきではありませんが、それよりももっと大切なものは必ずある。みんなが気づいていないかもしれないけれど、それぞれの人を幸せにする生き方に至る道筋があるということが、この本で伝えたかったんです」 

この夏、必読の一冊である。

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『FRIDAY』2020年8月14日号より

  • 撮影飯野亮一(樋口氏、ジュンク堂書店)写真(3、4枚目)時事

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