浮気や破局も…悩みは人間と一緒「水族館のペンギン相関図」
東京スカイツリーに隣接する「すみだ水族館」(墨田区)で、話題の展示がある。人間関係ならぬ、館内の“鳥関係”をまとめた「ペンギン相関図」だ。ペンギン同士の恋愛模様、ご近所とのトラブル……。ペンギンが悩む理由は人間と一緒。飼育員が愛情込めて作成した、わかりやすくも複雑な動物の世界を紹介しよう。
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「オスのマロンとメスのバナナの夫婦に、今年4月ようやく赤ちゃんが2匹生まれました。友達のいないバナナと、マイペースのマロンを引き合わせて3年……。珍しく、メスのほうから猛アタックして成立したカップルです。待望の子どもができ、スタッフ一同感動しています」
すみだ水族館の飼育員・高嶋悠加里さんが笑顔で語る。
同館の中央に展示された「ペンギン相関図」。描かれているのは、マロンとバナナの夫婦関係だけではない。「1秒も離れたくないくらいラブラブ」「妻の死角で浮気」など、同館にいる48羽のペンギンたちの関係が、イラストや写真入りで赤裸々に紹介されているのだ。高嶋さんが続ける。
「もともとペンギンの健康管理のために、それぞれの性格や相性を書きとめていました。人間と一緒で、相性が悪い個体同士が一緒にいると精神衛生上良くないですからね。そうしたメモは、新人スタッフがペンギンを見分ける際の参考にもなります。ただメモをすべて読むのは一苦労。どうせならイラスト入りの、わかりやすい相関図にしようという話になったんです」
スタッフ受けが良かったので、18年には相関図を入館者への公開。図の前に常に人がいるほど好評だったため、今年は2作目を展示している(添付画像参照)。
新人スタッフにメンチ切り!

冒頭で紹介したマロンとバナナの夫婦には、子どもができてからの後日談がある。マロンに、父親としての意識が強くなってきたというのだ。
「赤ちゃんは上手く泳げません。プカプカ浮いて、足を不器用にバタつかせている。大人のペンギンたちは新参者が気になるのか、赤ちゃんの足を噛んだりしてちょっかいを出します。マロンは、それが許せない。我が子を守ろうとするんです。水槽を見回り、我が子にちょっかいを出すペンギンを追っ払っています。マイペースで周囲にあまり関心を示さなかったマロンが、父親になって成長したことに、スタッフも好感を持って見守っています。
ただ、マロンとバナナのように上手くいくカップルばかりではありません。ペンギンの男女を仲良くさせるのは大変なんです。友達もおらず寂しくしているメスに、イケメンのオスを引き合わせても、相性が合わずスグ逃げてしまうことも。逆に真逆な性格でも仲良くなり、四六時中一緒にいるほどラブラブなカップルもいます」(以下、発言は高嶋さん)
人間との関係も微妙だ。すみだ水族館にいるのはマゼランペンギンで、体調は大人で70cmほど。自分の倍以上も大きい人間と、良好な関係を築くのは簡単なことではない。いきなり近づけば恐怖心を抱くのも当然だろう。
「特に新人スタッフは、ペンギンに嫌われがちです。可愛いからと無遠慮に近づき、身体に触ろうとします。ペンギンからすれば、見たこともない巨大な生物が現れ警戒心が強まるばかり。これでもかというくらい首を回転させ、新人を睨みつけます。いわゆるメンチ切りですね。それでも近づくようなら威嚇のために高い声をあげ、クチバシで相手をつつくんです。
新人には『ペンギンとの距離感が大事』と教えています。人間でも、初対面の人にいきなり抱きつかれたらイヤですよね。だから『人はペンギンにとって進撃の巨人と同じ。しゃがんでゆっくり近づくなど工夫をして』と注意しているんです。少しずつ距離感を詰めることで、ペンギンも安心する。慣れれば、他のペンギンと接していると嫉妬して、不貞腐れた態度をとるぐらい懐いてくれますよ」
「のぞきが好き」「甘ったれ」と、相関図にはペンギンたちの性格がユーモアを交え細かく記されている。
「個々の性格や関係は、毎年変わります。破局したり、子どもが生まれたり……。スタッフは若い女性が多く、恋話をするノリで『あのコ、フラれちゃったね』『アイツ、浮気していたよ』とペンギンの噂話をしているんです。雑談から得た新情報をもとに、来年も相関図を更新しようと考えています」
相関図のキャッチコピーは「3分くらいでなんとなく分かって、1時間くらい見ていられる!」。じっくり関係性を見て、奥の深〜いペンギンの世界を堪能してみてはいかが?




撮影:桐島 瞬