暑い国生まれの動物なのに、なぜ夏バテ!?「パンク町田」氏が解説 | FRIDAYデジタル

暑い国生まれの動物なのに、なぜ夏バテ!?「パンク町田」氏が解説

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木の上でぐったりしている動物園のヒョウの映像を目にすると、不思議に思う。寒い国の動物は、寒さに震えたりしない。だったら、暑い国の動物は、炎天下でも元気に走り回っていそうなものではないか。

ある程度、暑さに適応するものの、残念なことに哺乳類である以上、どんな動物も暑さに弱いと、動物研究家のパンク町田氏は言う。まだまだ残暑が続くなか、動物園の動物たちにも厳しい季節が続く。いったい暑い国の動物たちは、どのようにして暑さから身を守っているのか、パンク町田氏に聞いてみた。 

写真:Alamy/アフロ
写真:Alamy/アフロ

動物の体温は37~38度。体温より気温が高くなればアフリカの動物も熱中症になることも

「動物たちは、さまざまな方法で、その土地の環境に適した体に進化していきます。その一つが体の大きさ。たとえば、同じトラでも寒い地域に生息しているシベリアトラは、熱いインドネシアにいるスマトラトラの倍近い体重です。ホッキョクグマもヒグマより大きい。なぜ寒い地域に住む哺乳類が大型化するかと言うと、体内でつくった熱を蓄積するため。逆に、効率よく熱を放射できるように、暑い地域の動物は小型化するんです」(パンク町田氏 以下同)

しかし、体の大小だけで、その土地の環境に適応できるかというと、そうはいかない。

「哺乳類である限り、暑さに対応できる限度というものがあります。ある程度の限界を超えると、バテるし、日射病にも熱中症にもなります」

人間と同じように、体温より気温が高くなると危険。動物は人間より体温が高いが、それでも37~38度。アフリカでは、乾季になると50度を超えることもある。暑さに慣れているはずのアフリカに住んでいる動物も夏バテするのだ。

写真:日本パンダ保護協会/アフロ
写真:日本パンダ保護協会/アフロ

猛暑の中、獲物を狙って全力疾走! が、体温が下がるまで食べられない… 

暑くなれば食欲がなくなるのは、動物も人間も同じ。だからといって、何も食べなければ死んでしまう。猛暑の中、全力疾走して獲物を仕留めなければいけない肉食獣は、本当にたいへんだ。

「動物にも汗腺がある動物がいます。でも、人間は全身の汗腺から汗を出し、汗が蒸発するときに奪われる気化熱によって体温調節していますが、ネコ科の動物は汗腺が足の裏に集中しています。人間が緊張すると手に汗をかくように、ネコ科の動物は獲物を狙うとき、緊張して汗をかき、それが滑り止めになっているんです」

走れば体温が上がる。人間なら汗をかいてクールダウンできるが、チータやヒョウは上がりっぱなし。時速110㎞と地上最速の足を誇るチータが、全力で走れるのは、せいぜい5~10秒。狩りに成功しても、体温が上がり過ぎて、すぐ食べることができないという。ようやく食事ができるのは、しばらく木陰で涼んで、体を冷やしてから。1年中暑い地域での、狩りはとても過酷なのだ。

写真:robertharding/アフロ
写真:robertharding/アフロ

犬が夏に涙を流しているのは、暑いから… 

ネコ科の動物は長距離走が苦手だそうだが、猟犬などは獲物を追って、比較的長く走っている。イヌも汗腺がなく、ハアハアと浅く速い呼吸によって体温調節しているという。 

「それだけでなく、イヌは汗の代わりに涙や唾液を流します。これらを気化させて体温調節をしているのです」 

イヌが泣いていると思ったら、それは悲しいからではなく、暑いかららしい。

「もう一つ、体温調節で大きな役割を果たしているのが、イヌ科の動物たちの長い鼻先です。

人間は口と鼻の両方で息を吐いたりできますが、犬は鼻から吸って口から吐くという一方通行。鼻から吸った空気によって冷やされた静脈血は、脳の下にある奇網(きもう・網状の血管組織)という器官で、脳に向かう酸素を多く含む動脈血と熱交換されます。それによって脳のオーバーヒートを防いでいるんです。 

ネコ科の動物も同じようなシステムをもっていますが、彼らは鼻先が短いために血液を十分冷やすことができないのです」 

パグやブルドッグなど、鼻がペチャンコな犬も暑さに弱い。それはこんなわけなのだ。

反対にネコ科でも、この器官が発達しているのがライオン。そう言われてみれば、チータやヒョウより鼻先が長い。そのため他のネコ科の動物より長く走ることができるとか。

写真:mauritius images/アフロ
写真:mauritius images/アフロ

草食動物の細くて長い足は冷却器官

ならば、草食動物はどうだろう。鼻先が長い動物が多いようだが、それなら長距離を走って逃げきれるような気がする。

「残念ながら、草食動物の多くは脳近辺の奇網器官が発達していないので、長距離を走ると脳内の温度が上がってしまう。オオカミよりシカのほうが足が速いのに、オオカミがシカを仕留めることができるのは、走っているうちにシカの脳がオーバーヒートし、思考回路が停止してしまうからです」

せっかく鼻先が長いのに、なんて残念なこと。では、草食動物がどうやって体温調節をしているかというと、 

「草食動物には脚が長くて細いタイプが多いですよね。暖かい地域に生息している草食動物の脚には脂肪もほとんどないので、皮膚のすぐ下にある血管を涼しい外気温にさらすことによって体温をコントロールしています。さらに、カンガルーは前肢をなめて気化熱で体温を下げたりもします。 

ゾウは暑いとき耳をパタパタさせますが、あれは体に風を送ると同時に、耳に走っている毛細血管を冷やしているのです」 

写真:imagebroker/アフロ
写真:imagebroker/アフロ

カバの“赤い汗”は殺菌効果もあるUVローション!

ゾウの暑さ対策はもう一つ。それは水に入ること。

「ゾウは水辺で暮らしていたことがあるため、汗腺がありません。だから、暑いときは水の中に入ったり、泥浴びをしたりします。ゾウと同じように、カバ、サイ、バクなど水辺で暮らしている動物には汗腺がありません。水の中で生活しているから、汗を出す必要がないからです」

カバは“赤い汗”を流すと聞いたことがあるが……。

「あれは汗じゃないんです。“ヒポスドール酸”といって、透明の液体ですが、空気にあたることで酸化し紫外線に当たると赤くなります。水場から水場へ移動するときなど、陸上を歩かなければいけないとき、カバはヒポスドール酸を分泌して、乾燥や紫外線から皮膚を守るんです」 

粘液状で流れ落ちず、殺菌効果もあるという。すばらしいUVカットのローションを自ら作り出しているのだ。うらやましい機能だが、これがなければ皮膚がひび割れてしまうそう。巨体に似合わず、なかなかデリケートなのだ。

アフリカにいるときより、日本の夏はぐっと過ごしやすいはずなのに、夏、動物園に行くと、みんなぐったりしている。それは日本の気候に適応したためなのだとか。それにしても、動物たちがじつにさまざまな方法で暑さから身を守っていることに驚く。 

「動物たちを動物園という狭く、人工的な空間で飼うことに疑問を投げかける人もいるけれど、生きた動物たちを見ることは大切なことだと思っています。『この動物たちを守りたい』という気持ちになってくれる人が一人でも多くなることが、僕の望みです」
「動物たちを動物園という狭く、人工的な空間で飼うことに疑問を投げかける人もいるけれど、生きた動物たちを見ることは大切なことだと思っています。『この動物たちを守りたい』という気持ちになってくれる人が一人でも多くなることが、僕の望みです」

パンク町田 NPO法人生物坑道進化研究センター理事長。アジア動物医療研究センターセンター長。昆虫から爬虫類、鳥類、猛獣など、ありとあらゆる生物を扱える動物の専門家。野生動物の生態を探るために世界中に探索に行った経験をもち、3000種以上の飼育と治療経験をもつ。輸入された動物はアジア動物医療研究センターで日本の気候や食べ物に慣らされ、各地の動物園に送られている。著書に『さわるな危険! 毒のある生きもの超百科』(ポプラ社)、『ヒトを喰う生き物』(ビジネス社)など多数。

  • 取材・文中川いづみ

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