首都圏で災害発生!「コロナ時代の避難」実はこんなに大変です

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7月の豪雨で被害の大きかった熊本県球磨村の一勝地地区の避難所の様子

コロナ第2波に直面する中、各地で豪雨災害が続いた。各地の避難所では、感染症拡大防止策がとられているが、そこで明らかになったことは何か?そして、人口が密集する首都圏で災害、特に水害が発生したとき、私たちは何にどう気をつければ良いのか?コロナ時代の避難のあり方について、行政などに防災のアドバイスを続ける専門家のあんどうりすさん(アウトドア防災ガイド)に話を伺った。

日本の避難所は難民支援の基準以下

Q:コロナ以前と以後で、避難所の環境にはどのような変化がありましたか?

あんどうりす:当たり前ですが、災害時に避難所となる体育館などは人が密集するため、感染症のリスクが高まります。コロナ対策として、密集を避けて人とのスペースを最低2メートル空ける、人との境に仕切りを設ける、あるいは床に直接寝るのではなくダンボールベッドを導入する、裸足ではなくスリッパを履くといったことが、徐々に実施されるようになりました。

ただこうしたことは、コロナで初めて言われたことではありません。コロナ以前から内閣府や災害支援団体などがたびたび提言してきたことです。人道支援のための最低限の人権保障を提示している「スフィア基準」というものがあります。ここには、難民や被災者を支援する際の生活環境の最低基準が示されています。その基準では、日本の避難所はあまりにも環境が悪く、難民支援の基準以下だと言われ続けてきました。

スフィア基準では、例えば女性用トイレは男性の3倍にしたり、避難所の1人当たりの面積指標を3・5平方メートルにすることを求めています。ただ、この数値を画一的に守れというものではありません。大切なことは、「命さえあればいい」というレベルに止まることなく、人として尊厳を保つ避難生活をサポートしていくことです。

中でも、床から埃が舞い上がる事による感染症のリスクは第二次大戦中から指摘されおり、体育館での雑魚寝などは、先進国の避難所では考えられないことでした。日本は布団文化がもともとあったことに加え、辛くても我慢することが美徳であったこともあり、国際的水準から遅れていましたが、コロナ対策によってやっと最低基準に近づいてきたと言えます。

災害避難の「常識」が変わる

Q:ただ、一人当たりのスペースを広く取ると、避難所や避難場所に人が入りきらない問題が起こります。これからは避難についての考え方を切り替える必要があるでしょうか?

あんどうりす:分散避難に関しては、内閣府防災担当がコロナ禍での避難について「避難行動判定フロー」を作成しました。ここには、「自宅に留まり安全確保することも可能 」「安全な親戚や知人宅に避難しましょう」と明記しています。また、通達で自治体にホテルなどを避難場所や避難所として整えられるよう、分散避難を勧めています。

これまでは「災害が起こればとりあえず避難場所へ」と考えがちでした。しかし、体育館の多くは夏暑く冬寒い、断熱性に乏しい施工で、居住性は考慮されていません。エアコンが効きにくいので、電気の使えないことの多い災害時にデメリットが目立ってしまいます。そのため事前に自宅の安全性を高めたり、安全な親戚宅を確保することがより大切になってきます。

これからは、避難所や避難場所が今以上に安心で安全な場所になるよう努力しつつ、同時にそのスペースを本当に困っている人や遠くに逃げられない人のためにとっておくという考え方が大切になります。

とはいえ、地震のあと火災が起こった場合など、どうしても避難が必要になるケースは出てきます。その場合は、コロナが広まっていたとしても、迷わず避難所や避難場所に退避するようにしてください。

Q:人口の多い首都圏はさらに厳しいのではないでしょうか?

あんどうりす:首都圏については、そもそも避難所も避難場所もまったく足りていません。例えば東京都のある区では、近隣住民のほとんどが避難所に来たら立って寝なければならない状態になると想定されています。昨年の台風19号では、都内の避難場所が満員となり、さらに移動が必要になった所もありました。この状況でさらにコロナ対策をすれば、いままでの2割くらいしか入れなくなると言われています。

これからはまず自宅の危険性を知って、住む場所を選んだり、耐震補強をしておくなど、いままで以上に自宅を安全にする心がけをしてほしいと思います。例えば水害時には、家具が浮いて上層階に逃げられなくなるリスクもあります。家具を固定しておくことは、地震対策だけでなく、水害時にも役立ちます。

次に、避難所や避難場所以外に安全な場所を確保することです。避難所は、もちろん必要な時には行くべきですが、最後の手段として残しておいてください。避難の選択肢を増やすためにも、あらかじめ避難先を準備しておくことと、避難の判断を早めにすることは大切です。警戒レベルが3になる前や、台風が来る数日前に早めに判断できるのであれば、遠方の親戚の家に打診することもできるし、避難する時間も確保できます。

被害が大きかった熊本県流木が流れ込んだ駐車場から荷物を取り出す男性(写真:時事通信)

避難の判断は何を基準にするべき?

Q:分散避難については、これまでの災害で車中泊や在宅避難した被災者への支援が遅れるといった課題も出ています。その辺りの注意点はあるでしょうか?

あんどうりす:内閣府男女共同参画局の避難所チェックシートには、「車中泊や在宅避難者の登録」や「食料・物資配布の時間や場所」があるかどうか、「支援情報等を伝達する体制が整っているか」といった項目があります。しかし同局の資料に、車中泊避難者の対応について「検討ができている・検討中」と回答した地方公共団体が、約 7.9%しかないことも記載されています。

今までは車中泊などの人たちの状況を把握することは難しかったのですが、この豪雨では、物資を取りに来た際、車中泊や在宅避難者の登録を実施した自治体もあります。また避難所運営にLINEなどSNSのグループ利用で連絡をとる訓練をしている所もあり、少しづつ改善はされてきています。

Q:迅速な避難をするためには何が必要でしょうか?

あんどうりす:何を持っていけばいいかという話が注目されることが多いのですが、その前に準備すべきことがあります。豪雨や台風の場合、基本中の基本はハザードマップのチェックです。

ただ、マップの色だけ見て「自分の住んでいるところが白だから安心」と思ってはいけません。そこに書いてある想定雨量を確認して、そのとき予測される雨量がそれよりも多ければ、ハザードマップの想定を越えた被害が出る可能性もあります。想定雨量が避難を判断する基準と言えます。なお、中小河川や内水氾濫については、まだハザードマップ化されていない地域が多いことにも注意しておいてください。

また、ハザードマップは自治体によっても表記が異なります。例えば東京都葛飾区のハザードマップは、「堤防のここで決壊したらここが浸水する」とか、「その場合は何分後までは大丈夫だからこっちの方向に逃げればいい」といった情報が、視覚的にもイメージしやすい形で掲載されています。

東京都江戸川区では、大規模な水害が発生すると区全体が水没する可能性があるため、ハザードマップの表紙に「ここにいてはダメです」と表記し、広域避難を呼びかけています。同区では海抜ゼロメートル以下のエリアも多く、場所によってはマンションの4階まで水が来て、2週間水が引かないという想定もされています。そうなれば電気、ガス、水道などが全て止まり、人口が多いため救助もままならない事態も考えられます。

そのため、今までに経験したことがないような巨大台風による高潮氾濫や、⻑期間の豪雨による荒川及び江戸川の大規模洪水氾濫が予測されると、災害の3日〜1日前に、東京東部の低地帯に位置する江東5区(墨田区、江東区、足立区、葛飾区、江戸川区)で広域避難の呼びかけが出されることになっています。なぜ数日前かというと、人口密集地では当日に避難しようとしても、渋滞や交通機関の停止などで避難が間に合わなくなるからです。

昨年の台風19号ではなんとかギリギリ持ちこたえましたが、その呼びかけが出る寸前の状態までいきました。自分の住む地域の特徴を把握しておくことは、避難の判断に役立ちます。ただし、災害の最中にハザードマップをダウンロードしようとしても、アクセスが殺到してフリーズするケースもありました。マップなどは事前にダウンロードしておくことをお勧めします。

私は、避難の判断のために自治体が発する警戒レベル情報や、上流での河川の氾濫危険情報、降雨など天気情報を一括で見ることができる「Yahoo!防災速報」のアプリを強くお勧めしています。避難情報の警戒レベル4は、危険な場所にいる人の全員避難を伝えていますが、高齢者などの避難開始を伝える警戒レベル3で避難していれば助かっていたケースも多くありました。警戒レベルの情報は、高齢者だけのものと思わず、3が出たらすぐに動ける事前準備を検討してほしいと思っています。

・マンガでわかる「水害から命を守る行動」(「江戸川区みんなの防災プロジェクト」)
アウトドア流防災ガイド(リスク対策.com)

◆あんどうりす
2003年、阪神淡路大震災の経験とアウトドアスキルを使った日常にも役立つ防災テクを、赤ちゃん子育て仲間に話したことを機に本格的に活動をはじめる。「ゆるくて楽しい防災」を信条としており、子育てバックをそのまま防災バックにしたり、防水バックで水着入れ&給水バックになど実践的な技をいち早く紹介。技だけなく仕組みと知恵が得られると好評で、口コミで全国に広がる。現在、企業研修など多様な講演、FM西東京パーソナリティ、リスク対策.comなど防災記事も執筆中

上の2枚は2016年、イタリア中部地震の時の被災者支援。各家族に8人用テントが設置され、冷暖房完備。人数分のベッドも入る。食事はキッチンカーが運び込まれ、プロのシェフが暖かい手料理を振る舞った(2枚とも時事通信)
  • 取材・文高橋真樹

    (たかはしまさき)ノンフィクションライター、放送大学非常勤講師。映画「おだやかな革命」アドバイザー。『ぼくの村は壁に囲まれた−パレスチナに生きる子どもたち』『そこが知りたい電力自由化』ほか著書多数。

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