宝塚歌劇団OGが明かす「私たちの第二の人生の歩き方」 | FRIDAYデジタル

宝塚歌劇団OGが明かす「私たちの第二の人生の歩き方」

「東の東大、西の宝塚」永遠のフェアリーたちのセカンドキャリア

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フリーアナウンサーでも多岐にわたる番組をこなすようになった瞳ゆゆさん(提供:宝塚OGサポーターズクラブ)
フリーアナウンサーでも多岐にわたる番組をこなすようになった瞳ゆゆさん(提供:宝塚OGサポーターズクラブ)

新型コロナウイルスのクラスターが発生し、8月2日以降、宝塚大劇場での花組公演『はいからさんが通る』を中止していた宝塚歌劇団が3日、公演を再開した。

1913年(大正2)の創設以来107年目を迎え、「夢」と「憧れ」を追求する同歌劇団の卒業生には、トップスターだった天海祐希を筆頭に真矢ミキ、檀れいなどがいるが、芸能界で活躍できる卒業生はひと握りもいない。毎年40~50人いる卒業生の多くが在籍年数は10年程度、ほとんどが20代後半から30歳前半に歌劇団を去る。一度はエリート街道に乗った彼女たちが、早ければ20代中盤で直面する第2の人生の苦労を乗り越えながら必死に生きる宝塚OGたちの話を聞いた。

「私、どんな時も最初は劣等生ではじまるんですよ」

宝塚歌劇団を2012年に退団した瞳ゆゆさんはドラマの台詞にもなるような、しかし意外な言葉を、笑顔も交えて発した。宝塚時代は、笑顔だけで10種類表現できるような厳しい訓練を繰り返し、現在はフリーアナウンサーとして経済、情報、医療、ラジオや司会業など多岐に渡って活躍するが、誰もが憧れる華やかな表舞台の陰で、泣くような思いもしてきた。

中学卒業後、毎年20倍以上の倍率がある宝塚音楽学校の入試に1回で合格。令和になった今も「東の東大、西の宝塚」という日本の難関校に入った、選ばれしエリートだ。2004年3月、90期生として歌劇団に入団。5つの組と専科がある歌劇団の中で「ダンスの花組」に配属された。劇団創設時に1番目に作られた伝統の「花組」への配属は嬉しかった。

「宝塚は毎年全国ツアーがあるんですが、小学校5年生の時に見た『風と共に去りぬ』に出演されていた安蘭けいさんに一目ぼれして入りたい、と思いました。でも音楽学校では、成績が50人中、49番の時もありました」

歌劇団には8年在籍。年数としては少ない部類に入る。セカンドキャリアとして、在団中に宝塚のCS番組で進行を担当したことがきっかけになり、フリーの女性アナウンサーを選んだ。

第2の人生が軌道に乗るまでの「試練」

ただ、宝塚OGのセカンドキャリアを見るとフリーアナウンサーは異色だ。天海祐希のように芸能界からオファーが来る人もいるが、多くは舞台関係の仕事につく。しかし舞台だけでは生活は成り立たず、アルバイトや契約社員との掛け持ちになる。

26歳からアナウンサー学校に1年間通った瞳さんも例外ではなく、1日働いても1万円に満たないようなサッカースクールの受付のアルバイトなどもしながら、目指す道の勉強を続けた。宝塚に在団中はSNSを禁止されていたため、パソコンにもほとんど触れられなかった。メールの送り方や領収書の切り方など社会人の基本をアルバイトの仕事を通して学ぶこともあった。

最初は大手の事務所に所属。希望する仕事のオーディションが回ってこなかったが、多数のフリーアナウンサーやキャスターを輩出するジョイスタッフに移ると、約2か月でレギュラー番組が決まった。ただ、決まる前までは誰もが経験する試練も味わった。

「5回連続して落ちてしまったこともあります。1日で2度、オーデション不合格の連絡が来たこともあって、その時はさすがに泣きましたね。でもマネジャーの方から『落ちることが普通だから大丈夫』という言葉に助けられました」

6回目のオーディションでつかみとったのは、それまでの人生でほとんど触れることがなかった競馬の番組だった。

「競馬にすごく詳しい方を求めているのではなく、競馬のイメージを変えられることが求められるのかなって思いました。競馬の知識もほとんどなかったので、オーディション前に競馬場にも行き、馬券も買いました。少額でしたが賭けた馬があたって、その楽しさをオーディションで伝え、採用になりました」

特に2016年からつとめた『草野仁のGate.Jプラス』のオーディションでは、事前に「倍率200倍」と聞かされて驚いたが、採用に至る過程で、汗と涙を流した宝塚時代の思い出が蘇ってきた。

「オーディションは宝塚時代の役作りととても似ているって思ったんです。自分のPRだけではなく、メインキャスターの方や番組から何を求められているのか、そこにどう貢献できるか、という視点を加えました。それは結局、与えられた役に近づけていく宝塚と重なります」

宝塚時代、いつも台本は他の人の台詞もすべて覚えた。するとある公演の開始2時間前に突然、「代役の代役」が回ってきた。成績が下から2番目だと普通は回ってこないというが、台詞、動きを覚えていた瞳さんは千秋楽までの残り10日間、役をそのまままっとうした。

競馬の番組でも、一戦一戦に人生を賭けている人の存在を心に留め、払戻金、馬体重、馬番、馬の名前は絶対に間違えないことを肝に銘じ、出走馬の過去の成績もすべて把握してからのぞんだ。さらに、血統を学ぶことで出走する馬への愛着もわいた。宝塚時代から血肉になっているひたむきな努力によって、共演する厳しい解説者からも認められる存在になった。最初は挨拶しても返事もしてくれなかった番組スタッフの態度も、ガラリと変わったという。

宝塚音楽学校が水面下で迎えている危機

瞳さんが競馬番組でのキャリアを元に、現在のような多岐に渡る活躍ができるようになったのは、それぞれの仕事場で求められることが何かを考え、そこにどう近づけていくか、という努力の積み重ねたからだ。その経験を、他の多くの宝塚OGに伝えたいという想いから、コロナ禍の6月、「宝塚OGサポーターズクラブ」を結成した。

宝塚歌劇団は創設100周年を迎えた2014年以降、今に至るまでチケットがなかなか手に入らないほど「熱」は冷めないが、実は音楽学校への受験者数に異変がおきている。ここ数年、その受験者数が少子化の影響もあり右肩下がりの年が続いているというのだ。瞳さんが続ける。

「受験する生徒さんのご両親から『(瞳さんは)宝塚を受験するときに、セカンドキャリアのことを考えていましたか?』と聞かれ、返す言葉に詰まりました。今から宝塚を受験されるお子さんの親御さんは不景気の時代を過ごしてきて、将来に不安を抱えています。私が聞かれた質問を一歩踏み込んで考えると『私たちOGの活躍がまだまだ』と言われていることに等しい。だからOGサポーターズクラブを通して、OG同士や外部の方と情報交換して、セカンドキャリアでも輝けるような連携をとれればと思っているんです」

花咲あいりさんは宝塚歌劇団を退団後、ピラティスで第2の人生を歩みはじめた(提供:宝塚OGサポーターズクラブ)

「舞台は宝塚で十分すぎるほど立てた……」

瞳さんと同様、娘役として宝塚に12年在籍した花咲あいりさんもOGサポーターズクラブのひとりだ。不特定多数の人から注目される仕事と一線を画して、第2の人生をスタートさせた。2018年に宝塚歌劇団を離れてから、半年間でピラティスのインストラクターの資格を取得。その後、日本母子運動協会が発行する産後運動指導者の資格も取った。宝塚OGの間でもインストラクターの道に進む人は増えているが、安定した収入を得るために1日に3か所を掛け持ちする人もいるという。花咲さんが明かす。

「セカンドキャリアにスムーズに入っていけたのは、『卒業してから何をしようか、と探すことだけはやめて』と、両親から言われていたんです。私の中では宝塚より大きな舞台はなかった。小さい頃はバレエで海外留学したい、と夢を持った時期もありましたが、バレエだったらこれだけの舞台には立てなかった。宝塚で十分すぎるほど立てたと思っています」

花咲さんの両親はともにプロのバイオリニスト。幼い時期からクラッシックバレエをはじめたが、「日本人のバレエ留学は並大抵ではない」と諭され、ミュージカルへの挑戦に切り替えた。2006年、音楽学校の入試は1発で合格したが、2008年に歌劇団へ進んだ後、在団生で一番背が小さいかったこと(157cm)によって、配役に恵まれない経験もした。

「成績通りに役柄をいただけるわけではないのでもどかしい時期もありました。ちょうど試験前だったんですが、プロデューサーに聞きに行くと、『特に悪いことは無い。でも、何かで目立って“君をキャスティングしたい”と思わせてほしい』と。さらに『次の試験で貴女の結果が見えなかったら、私たちも言わせてもらいます』と言われてやるっきゃない!と。あの出来事が分岐点でしたね」

その後、劇団レッスンを誰よりも多く受け続けるような努力の甲斐もあり、その試験で成績を残すことが出来た。「大きな才能を与えられたかどうかはわからない。でも努力する才能は与えられたと思う」という両親の言葉は、今後も花咲さんの生きる糧になるだろう。

宝塚音楽学校の校訓「清く、正しく、美しく」をもとに、厳しい稽古や規律の中で磨かれた彼女たちが、舞台を離れても輝き続けられる場を提供したい。そう考える瞳さんの「母校愛」を形にできれば、チケットがなかなかとれない宝塚の魅力は、舞台の枠を超えて今以上に広く社会に認められるはずだ。

瞳ゆゆさん

提供:宝塚OGサポーターズクラブ
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提供:宝塚OGサポーターズクラブ
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インタビューに応じる瞳ゆゆさん
インタビューに応じる瞳ゆゆさん

花咲あいりさん

提供:宝塚OGサポーターズクラブ
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インタビューに応じる花咲あいりさん
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