漫画賞総ナメの板垣巴留が初エッセイ漫画で「普通」を描くワケ

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擬人化された動物たちの高校生活を描き、「マンガ大賞2018」や、第42回講談社漫画賞【少年部門】など数々の賞を受賞した漫画『BEASTARS』(ビースターズ)。

その作者として知られる板垣巴留(いたがき ぱる)氏が、エッセイ漫画を連載すると聞いて驚いたファンは多かったのではないだろうか。筆者も何を隠そうその一人だ。

板垣氏初のエッセイ漫画『パルノグラフィティ』(雑誌「Kiss」で2019年11月号から連載)では、これまで謎に包まれていた「漫画家・板垣巴留」の生まれ育った家庭環境や漫画家としての日常がユーモラスに、ゆる~~~く、しかし確かな画力で綴(つづ)られている。

『パルノグラフィティ』書影

就活エピソードや同窓会に出席した話、はたまた「コップの底のシールがうまく剥がせない」と奮闘する話や、よく行くコンビニの「推し店員さん」についての話など……アニメ化もされた人気漫画の作者でありながら、思わず「意外と普通だ……!」と驚いてしまう、そしてどこか親しみの持てる日常エピソードが満載の本エッセイ。

今回は『パルノグラフィティ』単行本1巻発売を記念し、板垣氏にスペシャルインタビューを決行! 連載にまつわるウラ話や、家族からの予想外の反応などについて語ってくれた。

この大判でサラサラの手触りの本に憧れ……

――まず初めに、『パルノグラフィティ』(※以下、「本作」)単行本を1冊分描かれての現在の心境を聞かせていただけますでしょうか。

板垣巴留(以下略):この大判でサラサラの手触りの本に憧れがあったので、手に取ってみるとまずはそれが嬉しいです。

少年漫画は単価を安くするために、表紙に加工を施したりすることは滅多にないので。ずっと触っていられますね、このサラサラ素材。

――漫画雑誌『Kiss』で本作を連載するにいたった経緯を教えてください

板垣 もともと大学時代に、Webに毎週エッセイ漫画をアップしていたんです。それを『BEASTARS』でデビューする前から『Kiss』の編集さんが読んでくれていて、満を持して声をかけてもらった次第です。

大学時代にやっていたその活動は、「小さなことでも何かやり遂げてみたい」という1年間の目標達成のためでしたが、それが今になって仕事に繋がるのか~という感慨深さから引き受けました。

――1話冒頭での「私はすごく普通の人間」という発言に、正直、「そんなまさか!」と思っていたんです(笑)。しかし読み進めていくにつれ、「あれ? 本当に普通かも」と良い意味で驚かされたというか。「普通」を面白く描くというのはなかなか難しいことだと思うのですが、板垣さんご自身はどんなことを考えながら描かれていましたか?

板垣 :ある人にとっての「普通」が、周りから見たらそうじゃないことって沢山あると思います。というかそういう”多様性”って、ありとあらゆる物語の始まりになりうる人生のテーマだなぁとすら思います。だから、本当に面白いのって、奇抜だったり突拍子もない人間像ではなく、様々な人間の普通像を紐解くことなんだろうなと。

そんな考えのもとエッセイ漫画を描いたら、自分でもビックリするくらい何の変哲もない人間のエッセイ漫画になりました。

第1話冒頭で、「私はすごく普通の人間」とエッセイ漫画執筆に悩む板垣さん/『パルノグラフィティ』1話より

『BEASTARS』よりよっぽど感想送ってきました(笑)

――週刊連載(※『BEASTARS』は『週刊少年チャンピオン』で連載中)と同時並行で本作を連載するのは、かなり大変だったのでは?

板垣 :時と場合によっては結構大変でしたが、忙しさって気づかないフリをしていればやり過ごせるので、ずっととぼけながら仕事してました。「あれ? 『BEASTARS』の原稿が上がったのに、何でまだ私机に向かって仕事してるんだろう? ま、いっか~」って。

――本作で、ご自身で思い入れの深い回や、印象的だった回を教えてください

板垣 古本屋さんで『バガボンド』を立ち読みしてたら痴漢されたって回です(笑)

あの回を描くにあたって、私の担当さんから『バガボンド』の担当編集さんに直談判して内容の許可を取ってもらったのですが、承諾してくれたようでしたのでとても安心しました。あと、憧れの作品と一瞬だけ距離が近くなったような気がしてそれも嬉しかったです。

高校時代、友人たちと痴漢について話し合っていた板垣さん。古本屋で痴漢にあった衝撃の体験談が、驚きのタッチで描かれる/『パルノグラフィティ』18話より

――本作には「板垣家」の皆さんも登場しますが、ご家族の本作への反応はどんな感じだったのでしょう? 描くにあたり、相談などもしていたのでしょうか?

板垣 :一応世間に発表する作品ではあるので、家族の許可は取りました。
自分たちが出演しているから当たり前ですが、『BEASTARS』よりよっぽど感想送ってきました(笑) 喜んでもらえて何よりです。

伸び伸びと育ててくれた母、いつでも穏やかな長女、流行好きなギャルだった次女、
自分が生まれる前から『バキ』シリーズを描き続ける漫画家の父。作中では個性の強い家族とのエピソードも盛り沢山。/『パルノグラフィティ』26話より

もうミステリアスな漫画家にはなれない

――手書きで緻密に描き込まれた画も、本作の魅力のひとつかと思います。これは原稿はどんな画材を使って描かれていたのでしょう?

板垣 :主線はミリペンで、影はコピックを3種類くらいの濃淡で塗り分けました。かなりタッチを残した塗り方でしたが、ちゃんと誌面に反映されてて嬉しかったですね。少年誌の印刷ではこうはいかないので、感動しました。

――もともとエッセイ漫画がお好きだと担当編集さんから伺っております。板垣さんの感じるエッセイの魅力とは何でしょうか?

板垣 :作られたストーリーではない生っぽさがある分、人間が持つ”凄み”を感じられるところです。

――エッセイのジャンルで、好きな作品や影響を受けた作品はなんですか?

板垣 :沢山ありますが、今頭に浮かんだのは、けらえいこさんの『セキララ結婚生活』山本さほさんの『岡崎に捧ぐ』朝井リョウさんの『学生時代にやらなくていい20のこと』です。

面白いエッセイ漫画について、「作者が珍しい経歴を持っていたり、特徴的な日常生活を送っているものが多いけど、私は…」と作中で描いている板垣さん。影響を受けたという様々なエッセイ漫画が頭の中にあったのかもしれない/『パルノグラフィティ』1話より

――本作を描いたことで、板垣さんのなかで変化はあったでしょうか?

板垣 :このエッセイきっかけで私に起きた変化といえば、「もうミステリアスな漫画家にはなれない」くらいでしょうか。

――最後に、単行本発売にあたり、読者やファンの皆さんへのメッセージをお願いいたします!

板垣 :あなたの家のトイレに置いてほしくて描きました。用を足すお供にどうぞ!

 

ユーモアを交えつつインタビューに答えてくれた板垣氏。その飾らなさや自然体の感覚は、まさにエッセイのなかで描かれていた姿そのもの。

等身大の「板垣巴留」に触れられる貴重なエッセイ漫画『パルノグラフィティ』だが、もちろんトイレに限らず、様々な場所で気ままにページをめくりつつ楽しんでほしい。

クスッと笑い、時に「わかる~」と共感し、はたまた「いやそんな経験は自分には無いわ(笑)」とツッコミを入れながら読んでいくうち、自分の「普通」は、誰かにとっては「普通」じゃないかもしれない、とふとそんな”多様性”に想いを馳せるきっかけになるかもしれない一冊だ。

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