「猫に、狂わされて」猫写真家の優しすぎる撮影術と猫の裏切り
「ぶさにゃん先輩。との出会いがなければ、僕はこの仕事はしていないと思います」
猫写真家の沖昌之さんの「人生を狂わせた」のは、婦人服の販売員だった2013年の大晦日、休憩時間にくつろぎに行った公園で出会った、猫だった。

「グレーのアメショ柄で、エキゾチックショートのようなつぶれた顔の猫がいたんです。体型がとてもふくよかで印象的だったこともありますが、雰囲気がすごく気になったんです。生き方が、余裕というか。翌日、休憩時間にカメラを持って公園にでかけました。
そこで、かってに『ぶさにゃん先輩。』って名前をつけて。見れば見るほど、引き込まれた。仕事の合間と休日に猫たちを撮影するようになって、15年に、猫写真家という全く想像もしていなかった道へ進みはじめました」
運命の出会いから6年あまり。沖さんは東京都内を中心に、主に街の外猫の写真を撮り続け、発表した写真集は10冊になった。その作品は、猫写真界隈で圧倒的な人気を集めている。



「撮影のこつは、被写体となる猫たちに過度なストレスを与えないこと。だから、僕の存在を可能な限りわからせないようにしています。そうすることで、猫たちの大切な日常が守られ、日頃の生活で出している自然な仕草が撮影できるんです」


けれども、猫がかわいすぎるあまり我慢できずに、近づいて撫でることもあるという。身長180cmの沖さん。はっきりいって存在感は「ある」ほうだろう。
「撮影のときは、気づくと数時間、同じ場所にいることもあります。だから、猫に対してもそうですが、近隣の住民に不審がられないように積極的に挨拶をしたり『猫ってかわいいですよねー』と、撮影していることをアピールしたりして、コミュニケーションをはかっています(笑)」
猫たちの「自然な仕草」を撮影するように心がけている、といっても。

「猫って、こちらの想像を越える動きをすることがあるんです。じゃれ合ったり、毛づくろいをしたり、ジャンプしたりと、一見よく見られる光景に思えるのですが、よく見ると、こんなことまでしてたのって思うことが。『必死すぎる』ようす、想定を越える動き、表情が、まだまだある。猫たちの日常を守りながら、そんな外猫たちの姿を撮っています」


沖さんの猫写真が魅力的なのは、猫たちの日常にある、想像を裏切るほどの「生きる姿」が、そこに写されているからなのだろう。






撮影:沖昌之
1978年神戸生まれ。猫写真家。2017年刊行の写真集『必死すぎるネコ』は、5万部越えのベストセラーに。新刊『猫から目線』が8月19日発売になる。また、9月6日(土)まで、東京・渋谷のヒカリエホール(渋谷ヒカリエ9F)とオンラインで開催中の『ネコがかわいいだけ展 ザ・ディスタンス』(https://nekogakawaii.com/)にも多数の作品を展示している。公式Instagram&Twitter(ユーザー名はいずれも、okirakuoki)で、多くの猫写真を掲載中。
撮影:沖昌之取材・文:松野友克