東大医学部卒フリーター経由の異色医師が語る「幸福とはなにか」

これはもはや哲学の書~ビール、飲みたければ飲めばいいじゃないですか

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「ビールから飲んでいるプリン体の量なんて誤差の範囲」だから「ビール、飲みたければ飲めばいいじゃないですか」と説く「健康本」がある。『「健康」から生活をまもる 最新医学と12の迷信』。東大医学部卒の現役医師、大脇幸志郎さんが書いた。

「『プリン体ゼロ』をアピールした商品、ありますよね。プリン体は痛風の原因になるからなるべく減らそうということらしいです。でも、ビールに含まれるプリン体はごくわずか。重量当たりだと肉や魚のほうが十倍から百倍は多いんです。さらにプリン体はもともと体内で作られていて、その量は食べ物から入ってくる量よりも数倍多い。つまり、ビールに含まれるプリン体なんて、誤差程度の量なんです。

だったら、好きな銘柄のビールを『プリン体が多い』という理由で避けることは意味がないんです。アルコールそのものを気にするならまだわかりますが、ビールをやめて焼酎とかハイボールにしようというのは医学的には正しくないです。

コレステロールをめぐる迷信

ほかにも『迷信』はたくさんあります。たとえばコレステロールは、食事の内容に大きく関係していると思われてますよね。でも厚生労働省が出している『日本人の食事摂取基準』という本の2015年版では、『経口摂取されるコレステロールは体内で作られるコレステロールの1/31/7を占めるのに過ぎない(略)コレステロール摂取量が直接血中総コレステロール値に反映されるわけではない』と明記、食事のコレステロールに『目標設定はしない』としています。

つまり、食べ物のコレステロールはいちいち計算しなくていい、と。こんなふうに、『健康のため』といわれていることの多くは、いわば『迷信』なんです」

さらに「血圧」「認知症」「がん検診」など、我々の身近な「健康に関する常識」についても、さまざまな論文、データを挙げ、最新医学をもとに、ていねいにその「危うさ」を語ってくれる。目からウロコである。なんだ、ビール飲んでよかったんですね…。

「そうです。だってお酒は、楽しみのために飲むものでしょう? 幸福こそが、生きる目的のはずです。だから、『健康』から生活をまもるんです。この本の表紙、天から降ってくる薬から、傘で体を守っているという構図です。しかもドーナッツをかじりながら。いわゆる『健康本』を手に取るタイプの人にこそ読んでもらいたかったんです。だから一見、健康本のようなビジュアルだけれども、よく見ると、あれ?と(笑)」

空から、薬のカプセルや錠剤がぱらぱらと降り注ぐ… イラスト:あさののい

大脇さんは、東大医学部を卒業したあとフリーター、出版社勤務、医療情報サイト運営を経て医師になった。その間ずっと考え続けていたことが、この「健康より大事なことを思い出す」ための本に結集しているという。

「健康本」ではなく、「健康からまもる」本。優しげな外見に油断してはいけない

「執筆中に、新型コロナウイルスの感染が広がりました。社会が混乱して、それは今も続いています。わたしはウイルスの専門家ではありませんが、ウイルスによって起こる真の問題、一言でいえば『パニックに免疫をつける』方法を伝えたいと思っています。病気をとりまく現代の『文化』が『迷信』だということを」

コロナ禍、そして健康ブームのなか、テレビでは連日、「健康」に関する「情報」を流している。ダイエットは、そのなかでも人気のコンテンツだ。

20キロ、太ってみた

「3年前、少し太ってきたのでダイエットをしようかなと考えたとき、はっとしました。『俺がダイエットをしている場合か? 太っていてもいいじゃないか。むしろ太っている人の権利や生活を擁護せねばならんのではないか』と思ったんです。試しに太ってみました。

昼休みは毎日、『幸楽苑』でラーメン、餃子、チャーハンの3点セットを食べ、帰りにコンビニで甘いものを買い、仕事中もお腹に少しでも余裕ができたらお菓子やスナックを食べるという生活で、4ヵ月で20㎏の増量に成功しました。周りからは『そんなことはやめろ』と言われ続けましたけど」

太った人の気持ちを理解すべく実際に太り、その状態で1ヵ月ほど生活をして、気づいた。

「とくに体調は変わらなかったのですが、膝が痛くなりました。私の体格では80キロという体重には耐えられないということです。太っていても、活発な人もいます。人間には『神が与えた体型』があって、それぞれ違うものなんだということに気づいたんです。その体型を無理やり変えるのは大変だぞということを思い知りました。あと、急にお腹が大きくなったものですから呼吸も苦しくなったりして、妊婦の方の気持ちが、5%くらいわかったんじゃないかと……

その後、3、4ヶ月かけて元の体重に戻したという。得るものは大きかったが、そんな文字通り体をはった無茶な実験も、独り身だったから?

「この本を仕上げている時期に、結婚しました。妻は、寛容な人なんです。僕はもともとこんなことを言ってる人間ですから、妻から健康に関してなにか言われることはありません。でもはじめのころは、例えば食品についている『成分表』は読まないといって驚かれましたね。

買い物をするとき、ラベルの成分表を必ずチェックする妻からしたら信じられないようです。でも、カロリーが高いかもとか、体に悪いかもって気にすると、食べることを楽しめないじゃないですか。けれど一方で『これを食べたら健康によさそう』と思って食べるのは、うれしいんですよね。そのうれしさまでは否定したくないです。気にするのが好きな人は、気にすればいいんです」

寛容さが最重要

「今、世の中には『健康禍』がはびこっていると感じます。『健康にいい』のほとんどは迷信だし、健康の定義は人によって違っていい。

感染者を責める=弱い人を追い詰めるような風潮や、感染症治療に優先順位をつける=生きる価値に線を引くことが、人類にとって幸せなはずはありません。

本の感想で一番うれしかったのが『体にいいものを、食べても食べなくてもいんだって。なんかそんな感じのことを書いていた気がする』って、いかにも適当に読んでくれているようなコメントです(笑)。健康は、流動的で場当たり的な言葉で、それは人によって違うし、もっといえば同じ人でも昨日と今日で違ってもいいんですよ。体によさそうなものを選んだり、悪そうでも好きなものを食べたり。日常の生活や幸福って、そうして彩られていくものだと思うんです」

先生自身も、優しげな風貌。だが、その発言はシャープで、コロナ禍から生活をまもるためにどうすべきかなど、現状に鋭く切り込む。目指すのは「彩り豊かな幸福」

コロナ禍で結婚式の準備が止まってしまい、親族との調整にとても苦労したという大脇さん。

「同じように、感染対策の名のもとに諦めさせられた多くの人の楽しみが、彩り豊かな生活が、早く取り戻されるようにと願ってやみません。そして『新しい生活様式』の横暴さ、『健康第一』主義の迷信を捨てて、自由で幸福な生活をできる世界を実現したい」

「要するに好きに生きればいい」と思ってくれれば

「まあ、こういうことを言ってると医者の友達が離れていくんですけど。東大の同期は、研究者として実績を上げたり、人脈で横のつながりを広げたりしている人が多い。だから、SNSでつながっていても、同級生は誰も本の感想を書いてくれません(笑)」

医師に、医学に、自分の体を丸投げにするのは、考えてみればとても危ういことだ。

「自分の身をまもるためには、パニックに免疫をつけ、迷信を見抜き、人と人の関わりに上から割り込んでくる権力には毅然と抗議する。簡単にいえば、食べたいものを食べて、好きに生きること。我々は、健康のために生きているのではなく、自由な幸せのために生きているんですから」

大脇幸志郎:1983年生まれ。初の著書『「健康」から生活をまもる 最新医学と12の迷信」(生活の医療社)が大きな話題を呼ぶ。訳書『健康禍 人間的医学の終焉と強制的健康主義の台頭』(ペトル・シュクラバーネク著)も7月に刊行された。今、もっともホットな「発言する医師」。新婚。

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