望まない妊娠…経験者が語る「中絶を決意した人に伝えたいこと」 | FRIDAYデジタル

望まない妊娠…経験者が語る「中絶を決意した人に伝えたいこと」

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新型コロナウイルスの感染拡大が収束しない中、一斉休校や外出自粛の長期化で、交際相手と過ごす時間が増えたことなどの影響か、10代を中心に「望まぬ妊娠」に悩む女性たちからの相談が増加しているという。

新型コロナによる一斉休校や外出自粛の長期化で、10代を中心に「望まぬ妊娠」に悩む女性たちからの相談が増加している 写真:田中庸介/アフロ
新型コロナによる一斉休校や外出自粛の長期化で、10代を中心に「望まぬ妊娠」に悩む女性たちからの相談が増加している 写真:田中庸介/アフロ

「中出ししなかったから大丈夫だと思っていた」という知識不足や、「コンドームをつけていたのに生理がこない」、そして不倫や性的暴行による結果……女性が望まぬ妊娠に至る経緯はさまざまだ。その際、カップルもしくは当事者である女性が中絶を選択した場合、その経験や、手術にまつわる情報をパートナー以外と共有することは非常に難しい。

そんななか、中絶手術を受けた自身の経験や中絶に関する情報をネットで発信している女性がいる。

maruko氏は、昨年春に中絶手術を受け、同年7月、コンテンツ配信サイトnoteに記事をアップ。今年に入ってから積極的に情報発信を続けている。女性にとって切実な問題でありながら、なかなか触れにくい情報を発信することを決めた背景にはどういう経験や思いがあったのか。

現在、パートナーとフランスで暮らすmaruko氏に、リモートで話をきいた。

——ご自身の経験をネットにアップしようと考えた理由をお聞かせください。(聞き手・高橋ユキ氏 以下同)

「中絶を経験する人は少なくないにもかかわらず、情報がまとまっていないように感じ、自分が決断した時に知りたかったことを書こうというのがシンプルな動機でした。

私自身、『中絶』という事実を受け止めるストレス以前に、『分からないことが多すぎる』ことへのストレスが大きかった。中絶を決断しても、手術が可能になるまでに2週間のタイムラグがあり、その間、『これからどうなるんだ』という不安がすごく大きかったんです。

病院のサイトを見たら、各々処置や手術の方法を書いてくれてはいますが、そもそも国内ではどのような手術の選択肢があるのか、それぞれどのような特徴があり、その病院がなぜその方法を選択しているのかという理由はあまり書かれていません。もっと体系的に手術について知ることができていたら、ストレスも少なかったのではないかと思いました。

あとは、中絶という経験を精神的にどう乗り越えていけばいいのかという悩みを抱えていた時、ネットを見ても、前向きなブログなどは全然見つからなかったんです。辛い経験談を読んで私も辛くなったり……。

中絶を決意した女性が抱える、人に話せない悩みや恐怖と、どう向き合えばいいのか。医療面だけでなく、精神的に、その選択を肯定して乗り越えていくためのヒントが欲しかった。経験者として発信することで同じような経験をした人が少しでも決断に自信を持てるようになったらいいなという思いも大きいです」(maruko氏 以下同)

——たしかにどの病院を選べば良いのかという観点でネットを見ても、なかなか決めづらいですし、体験者目線での情報は多くないように感じます。

「社会の中でこれまで情報を共有しにくかったトピックで、経験者の情報などもなかなかシェアされない現実があります。また経験者本人が罪悪感を抱いたりネガティブな感情を持ちつづけ、語りたいと思えないトピックでもある。社会のタブー視と、当事者の自責の感情により、情報が少ないのではと思っています。

私の症例はかなりレアなので経験者は多くないと思うんですが、2ヵ月に3回ほど中絶手術をしました。簡単に言えば最初の手術後も妊娠反応が消えなくて、2回目の手術を行いましたが、それでも消えず、大学病院でまた手術を行いました

手術は2回目からは流産扱いとなり、同じ手術をしても保険適用があったことで1回目とは費用が異なりました。『中絶』か『流産』かで、同じ処置にもかかわらずここまで経済的負担が異なる制度の在り方にも疑問を持ちました」

——記事を書かれてから、どのような感想が寄せられますか? また反響を受けて、こんな情報も求められていたのかと気づいたことなどはありましたか?

「想像よりも反響が大きくて驚きました。昨年7月に最初の記事『中絶を決断した人に本当に知ってほしい3つのこと』を書いてから、約半年間更新していなかったのですが、その間に寄せられた記事へのコメントを見て、いかにたくさんの方が中絶の情報を検索してたどり着いてくれたのかということを実感しました。

同じ経験をこれからする方や、経験した方から『自分の決断を肯定してもらえた』という感想をよくいただきました。精神的にどう昇華させるかがやっぱり私たちの課題だし、それは社会の課題でもあるんだなと反響を受けて改めて感じています。

手術前に読んでくれた方からは『これで初めて手術方法や処置にも種類があることを知って、病院を選ぶ上で参考になった、抱えていた恐怖心が少し落ち着いた』という感想もいただきます。

一方で、『自分のところに来てくれた命に申し訳ない。自分がしてしまった過ちを自分が許せない。幸せに生きていいのか』という中絶経験で生じた心の傷を共有してくださる方も少なくなかったです」

——反響を伺っていると、同じ悩みを持って、情報を欲している人たちや、手術を終えて心の持ちようを考えてる人たちが、その思いを共有できないでいること、またそもそも表立って話せない話題でもあることを痛感します。

「そうですね、語りにくいトピックですよね。人々が無意識に中絶をタブー視しているので、リアルな人間関係の中では話しづらい内容ですし、本人もタブーと認識することで罪悪感を抱き続けていることが多いように思います。

私も1本目のブログを書くのに時間がかかりましたし、その後自分の記事をなかなか読み返せない時期もありました。中絶の経験を直視して自分の選択を心から肯定し、精神的に回復するための時間が必要だったんですね。経験者が語れることはたくさんあるけれど、辛い経験だったから語りたくないということもあるんだろうなと思います。難しいですよね」

——ご感想を受けて新たに書かれた記事などはありますか?

「2本めが『人工中絶の病院を選ぶポイント』です。病院によって、手術方法や手術前処置などが異なるので、病院を選ぶ際に特に気をつけてほしいことに重点をおいて書きました。また、病院によって中絶希望者への対応も様々であることを一経験者として知りました。

一人の女性の『産まない選択』に賛同して、一緒に乗り越えてもらえる先生に出会うということは、事前に見極めることは簡単ではないかもしれませんが、自分自身にトラウマを作らないために大切です。病院や先生との相性にも注視することが、メンタルケアにつながるということも書きました。

ほかにも、私自身が中絶手術を受けてから『1年後に抱える悩みについて』かなり赤裸々に書いてみたり、匿名で受け付ける『メール相談サービス』も始めました。

私自身の経験と他の方からの相談に共通していると痛感するのは、中絶とは手術だけで済むものではなく、その後精神的な治癒にとても時間がかかるということです。一方で、いろいろな方からの相談を通じて、その内容や悩みも十人十色だということも知りました」

——marukoさんに届くそのような感想や相談、反響からお感じになることはありましたか。

「やはり中絶経験者が受ける心の傷が大きいということです。短期的な情報提供だけではなくて、中長期的な心の拠り所、心の揺れ動きの受け皿の一部になれるような場所があったらいいなと思うようになりました。この7月からは『Talk About Abortion』というコミュニティをnote上で開始したのですが、そこが中長期的な情報交換の場や精神的な拠り所になればと思っています」

——記事にmarukoさんが書かれていた「私は今も、実名でこの文章を書くことを恐れているし、体験者であることを伏せたとしても、同じ内容を自分のプライベートなSNSで発信する勇気は持てません。この矛盾に、憤りと苛立ちすら抱きます」という文章には、中絶が日本でいかにタブー視されているかという空気を改めて感じました。

「私も当事者になって初めて気がつきました。病気ではないので勤め先や友人、ときには家族ともシェアしづらいですし。

でも日本では、年間16万件以上の人工妊娠中絶が行われています。決して少ないとはいえない数の女性たちが同じ経験や痛みを抱えながら生きているのだと思うと、一刻も早くこの状況を変えていかなければいけないと思います」

——手術の前後で価値観が変わった点などございますか?

「これまで法律や医療のあり方を疑ったことはあまりなかったんですが、まだまだ良くできることがたくさんあるんだなと思い、それらの不完全さに気づいたことが大きい変化です。人々がそれぞれ生きやすい世の中になるように、声をあげられる人があげていかなければいけないと考えるようになりましたね。

あとは、セックスは避妊をしたとしても『絶対安全』ではないということです。たとえば『中出ししてないのに』とか『コンドームつけたのに』など……それでも妊娠してしまい、中絶する場合もある。たとえ正しい避妊をしても、成功率100%ではないことを知り、女性のみならず、男性にも避妊や中絶についてもっと知ってほしいと思うようになりました。

世間の声のなかに『産めないならセックスするなよ』みたいな意見もあると思いますが、ポイント違いだなと思います。生きている限り、人間同士が関係を持っていく時に、性行為に至るのはごく自然なことですし、産む準備ができるまで性行為をしないのがいいのかというと絶対そうじゃない。そうではなくていざというときのセーフティネットを張りたいだけなんだけどなと思っています」

——ご自身が中絶の決断に至るまでにパートナーが果たした役割、支えになった点、逆に分かり合えなかった点などございましたら教えてください。

「辛かった部分で言うと……妊娠という事実を受け止めてから、どんな良いパートナーでもやはり、距離を感じました。『あなたには分からない』と思うところがすごくありました。やっぱり手術に対する恐怖も違う。

あとは、赤ちゃんを見るだけで泣けてきたりすることもあったんです。決断に間違いはないけど自分の10ヵ月後に待っている未来は二択だったんだよな……という事実を受け止めるのに時間がかかって。でも彼はそこまで分からなかった。その温度差はやっぱり結構辛かったです。

一方で、罪悪感のなかで浮き沈みする感情を一緒に分かち合ってくれたこと、それはすごく大きな支えになりました。彼がいなかったらもしかしたら自分を肯定することにもう少し時間がかかっていただろうなとは思いますね。

中絶という辛い経験に際し、パートナーにはただ寄り添って、同じ時間を過ごしてほしい。家族にも友人にも、話しづらい内容だから、唯一の理解者になってほしいし、精神的な回復に時間がかかることを理解してもらいたいと感じています」

——中絶を考える女性や、また決めてからも不安が募る女性、手術後に孤独を抱える女性たちへのメッセージがございましたらぜひお聞かせください。

「『産むことと、産まないこと、どっちが正しいですか』って聞かれることがあります。でも、私は決められない。何回も考えるけどやっぱり思うのは、産んで幸せになった人もいるし、産まないで幸せになった人もいて、中絶や出産に正解不正解はないということです。

周りの人でもなく本人にとって『自分が幸せに生きていけそうだ』と思うほうを選び、それを信じて生きていくことが唯一大切なことだと思います。その権利が、すべての女性にあります。

そしてまた、それぞれの選択が尊重される医療のあり方、社会であってほしいです。だから、中絶を選択しても罪悪感を抱かなくていいし、むしろ自分をより大切に、時間をかけて幸せになってほしいですね」

  • 取材・文高橋ユキ

    傍聴人。フリーライター。『つけびの村 噂が5人を殺したのか?』(晶文社)、『暴走老人・犯罪劇場』(洋泉社新書)、『木嶋佳苗 危険な愛の奥義』(徳間書店)、『木嶋佳苗劇場』(宝島社)、古くは『霞っ子クラブ 娘たちの裁判傍聴記』(新潮社)など殺人事件の取材や公判傍聴などを元にした著作多数。

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