「鳥取に新幹線を」サッカー元代表・岡野雅行が目指す“ゴール”

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1997年11月16日、イラン戦で決勝Vゴールを決め、日本代表をワールドカップ初出場に導いた直後の岡野雅行。今度は経営者として”ゴール”を決める

日本サッカー界の歴史を変えるゴールを決めた岡野雅行がサッカーJ3ガイナーレ鳥取のゼネラルマネジャー(GM)になって7年目のシーズンを迎えた。自らの今の仕事内容について、こう明かす。

「役所にたとえるなら“すぐやる課”みたいなものですかね」

プロサッカークラブのGMといえば選手の補強、海外選手の獲得、チーム編成や監督の人選が主なもの。しかし、クラブの昨年度の営業収益が4億5500万円。全国56クラブあるJリーグで40番以下の数字である。そんな中でも岡野GMは、「鳥取に来る選手に少しでもいい環境でやらせたい」とチーム運営費を捻出するための営業活動に励む。

3年連続で赤字になったら自動的にJリーグのライセンスを返上しなければいけないシビアな仕事だが、野人GMの仕事は“二刀流”では収まらない、実にバラエティーに富む役回りを楽しんでいるようにさえ見える。

「どんなことでも、常に相手とWINWIN(ウィンウィン)の関係を作り上げることをとても大切にしてきました。そこで鳥取で『野人プロジェクト』を始めたんです。クラブを経由して鳥取の名産物を買ってもらうことで、それをクラブの強化費に充てようという試みです」

取り入れたのはふるさと納税のノウハウだった。鳥取には蟹だけではなく、おいしいものがたくさんあり、全国的にはあまり知られてはいなかった。

「営業回りで鳥取の境港に行った時に『お金でチームは支援できないけど蟹や魚なら山ほどあるよ』と言われて、『それなら俺が漁師になって宣伝しちゃおう』と考えてスタートしたんです。“あの野人が漁師になった”とマスコミの皆さんにも取り上げてもらった。すると、他府県からも境港に来てくれるようになって……。古巣の浦和レッズのサポーターの皆さんも、鳥取の名産をたくさん買ってくれたんですよ。おかげで海外選手の補強まで実現しました」

このプロジェクトが軌道にのった。初年度(2014年度)には2600万円を超える寄付が集まり、今年も「野人プロジェクト」は継続中だ。最初に獲得したのがG大阪などで活躍したフェルナンジーニョ。さらに2017年オフに獲得したブラジル人FWレオナルドが大当たりだった。J3鳥取で得点王、J2新潟でも得点王を取ったストライカーは、今季からJ1浦和に移籍して主力FWとして活躍。すでにJリーグで得点ランク2位の8得点をあげている。

「外国人選手を獲得する時は、代理人の人たちが編集したビデオで確認することが多い。でもそれじゃ、嫌だったんです。事件も現場で起きているっていう名言もあるじゃないですか!だから自分で単身ブラジルに行きました。2泊4日、片道30時間。背筋のばしてエコノミーシートに座り続けるっていうのはなかなかのもんでしたよ。遠かったなぁ(苦笑)。

行き先は、サッカー界で神様と称されるペレやカズさん(三浦知良・横浜FC)が在籍したサントスでした。『日本のGMがわざわざ来てくれたのはオカノ、君が初めてだ!』と大歓迎してくれまして、この言葉を聞いた瞬間、WINWINの関係になれたなぁって、実感しましたね」

20歳のレオナルドのプレーを見て、すぐに「コイツは行ける」とピンと来た。

「ユニフォームの着こなし、立ち振る舞い、顔つき、目つき、あとは一瞬の動きでわかります。着こなしがカッコよく見える選手は伸びますよ。それと同じぐらいいいな、と思ったのは彼のハングリーさです。『J3は給料が安いけどそれでもいいのか?』と聞いたら、当時スラム街に住んでいた彼の家族が2回ぐらい命の危険にさらされていたことを聞きました。『ここは治安が悪すぎる。僕は家族をいずれ日本に呼びたい。そのアシストもしても欲しい』と。今季から浦和でプレーしているのも何かの縁ですよね。きっと浦和を強くしてくれると思います」

外部とWINWINな関係を築く、という意味では芝生事業も同じだ。2017年、ガイナーレ鳥取は「しばふる」というプロジェクトをスタートさせた。もともと鳥取県は「芝生王国」だ。

その栽培には60年近い歴史があり、出荷量は茨城県についで全国2位。東京五輪の開会式が行われる新国立競技場(東京都新宿区)や昨年W杯で沸いた熊谷ラクビー場(埼玉県熊谷市)、Jリーグでは味の素スタジアム(東京都調布市)、プロ野球も甲子園球場(兵庫県西宮市)、マツダスタジアム(広島市)など、このすべてにMade in 鳥取の芝生が使われている。

「うちが販売している芝生は無農薬のものもあるのですが、無農薬の芝生、というのは普通では考えられないことです。だから、学校や小さい子供がいる保育園などでも安心安全で使ってもらえます。ガイナーレ鳥取では年間で250回近く選手達が“ガキ大将のお兄ちゃん役”を買って出て、「復活!公園遊び」という芝生の上で子供達と遊ぶ地域貢献事業もしています。2018年に地元の「つばさ保育園」(鳥取県境港市)の園庭を初めて芝生化した時には、子供たちが大喜びで芝生の上ではしゃいだ、あの姿を見たらどんどん芝生化を広げたくなります」

 芝生は毎日刈り込む作業が必要で、メンテナンスがとても大変。その分、費用もかかるため、敬遠されがちだ。都内でも芝生化した学校の芝がすぐに枯れてしまった話もよく聞かれる。そのため、鳥取が芝生を販売する時は、専用の「ロボット掃除機」も提供し、芝生のメンテナンスにかけていた無駄な時間を省けることも訴える。子供達にも安全に使える機械のため、自分たちの手で芝生を育てることができる喜びも提供できるのだ。

今季のJ3は新型コロナウイルスの影響で開幕が遅れたが、鳥取は開幕ダッシュに成功。10節(8月15日)終了時点で2位につけている。岡野GMは再び、感染拡大の影響もあり、鳥取に入りづらい状況が続いても、頭の中は未来の構想で埋め尽くされている。

「もしJ2に行けたら、皆さんが考えている以上にJ1に行くことを現実的に考えられると思いますよ。J2にあがれば、Jリーグから分配金(J2は1.5億円)が入ってくるので、鳥取の地元だけでなく、大阪、名古屋、東京の企業の方々にも夢のある話がたくさんできるようになると思っているんです。

僕は鳥取に新幹線を走らせたいんです。鳥取県の人口は約57万人で、全国の都道府県で一番人口が少ない県です。チームは今季J3ですが、これまでも観客動員も大きく落ち込んではいない。鳥取の皆さんってとにかく情が厚い。だからJ2、J1に昇格したら日本中に鳥取フィーバーが起きるでしょう。

たとえばJ1にあがって浦和レッズをホームに迎えることを考えれば、あの熱狂的なサポーターが宿泊できるホテルも作らないといけない。サッカーの1クラブ単位の話ではなくて、大変な街おこしになると思っているんですよ」

コロナ禍でサッカーのみならず、あらゆる経済活動がストップし、閉店、倒産、失業という言葉が連日踊る。「こうしたい」という思いがあったとしても、現実社会の厳しさを感じると、願望は遠い夢物語に感じられることもある。しかし、岡野が語るとなぜか、現実味を帯びてくるから不思議だ。

「先ほど言ったことは願望ではなく、確信しています。今まで思ってきたことってほぼ実現しているんです。人生って困難ばかりですが、それをありがたいって思える。それは今までいろいろ経験してきたからですかね。

コロナになんか負けるつもりはありませんよ。もちろん体は作っています。腹筋、腕立てをそれぞれ100回してね(笑)太って鳥取に戻ったら、GMとしての説得力も無くなりますから」

 最後は岡野らしく冗談で締めたが、現役時代に続き、経営者としてもサッカー界に新しい歴史を刻もうとしている。

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