「15分で読み切れる」手越本との比較から見る諸星和己の尊さ | FRIDAYデジタル

「15分で読み切れる」手越本との比較から見る諸星和己の尊さ

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15分で読み切ってしまった。

先日ジャニーズ事務所を対処した手越祐也のフォトエッセイ『AVARANCHE~雪崩~』のことである。感動や感心はおろか、反発する感情すら生まれてこなかった。書かれていることは自慢と言い訳の連続で、2箇所だけ「それはその通り」と納得した点と、中居正広の素敵エピソードを除けば、ただただ薄っぺらい。

退社の報告会見があった6月下旬から、YouTubeやSNSでの活動をスタート。8月5日には自叙伝が発売されたのだが……
退社の報告会見があった6月下旬から、YouTubeやSNSでの活動をスタート。8月5日には自叙伝が発売されたのだが……

これまでのアイドル人生で何を学んできたのか…

スーパーポジティヴを自認していながら、メンバーのキャラクターを、(多分褒めているつもりなんだろうが)真面目で優等生などという言葉で片付けたり、ジャニーズのデビュー年齢が上がっていることについて、「アイドルはデビューが早ければ早いほどスーパースターになれる」と、最近のデビュー組の勢いに水を差すような持論を展開したり、「この人はこれまでのアイドル人生で一体何を見て、何を学んできたのだろう?」と憐憫を感じてしまうほど。

正直、これはお金を取れるレベルの本ではないと思った。自伝でもエッセイでも評論でも自己啓発本でもなければ、暴露本ですらない(暴露と呼べるほどの内情は書かれていない)。

ジャニーズ事務所や芸能人で関わりのあった人には言及しているが、エピソードも全て自分上げに終始している。ここまで愛されキャラである自分をアピールしないとスーパーポジティヴの設定が足元から崩れてしまうのだとしたら、手越祐也という人は、現時点ではかなり可哀想な人なのかもしれない。

ジャニーズ時代はともかく、今の彼の周りには、彼が生み出すお金が好きな人がいるだけで、彼のためを思い、嫌われる事を覚悟で「それは誰かを傷つける行為で、ひいては自分の首を締めることになるよ」と教えてくれる人は誰もいないのだろう。

筆者は手越を嫌いではない。が、ジャニーズを辞めてからの彼の言動すべてが、彼を嫌いにさせるどころか、もはや「どうでもいい」と無関心の領域へと向かわせるレベルである。たぶん、この本で実名をあげて感謝された人も、全員「もう関わり合いになりたくない」という気持ちだろう。

諸星和己の自伝との圧倒的な違い

ただ、この本がきっかけで、別の、素敵な本との出会いがあった。事務所の大先輩である光GENJI・諸星和己の自伝的エッセイ『くそ長~いプロフィール』を、「昔は嫌いじゃなかった」手越にぜひ読んで欲しいと思った。

『くそ長~いプロフィール』を筆者が手にとった理由は、かねがねどこか似ていると感じていた諸星と手越が、果たして本当に似ているのかを確認したかったからだ。

1987年に光GENJIのメンバーとして、文字通り彗星のごとくデビューした諸星は、(実はまだ筆者がジャニヲタになる前のことなので曖昧だが)かなりのお騒がせキャラだったと記憶していた。でも、本を読んでわかったことは、諸星と手越では、お騒がせのレベルからして違うということだ。

昭和末期から平成初期に一世を風靡し、ジャニーズの看板を背負って立っていた諸星のハングリーさに、すでに一大帝国と化し、スターシステムが確立した後にデビューした手越レベルの負けん気を重ね合わせようとしたことに、そもそも無理があったのかもしれない。

諸星の本の帯には、「断っておくが生きていく上でためになるようなことは一切書いてない。」とあるが、前半の生い立ちから、ジャニーズに入ってデビューし、解散するまでの流れは、「恥をかくこと」の大切さや、「ひとりになって初めて見えたきたこと」がユーモアたっぷりに描かれ、事務所の先輩も、ジャニーさんもメリーさんも、登場人物がそれぞれ人間的で魅力的だ。

諸星の本の中には、「心を許せる数少ない人間」として辰吉丈一郎の名前があげられている。ある時、辰吉は諸星に「かあくんなあ、もっと恥をかいたらどうや」と言ったという。その言葉を聞いて、諸星は「強烈なストレートパンチを喰らった気分になった」とある。

「俺は長くアイドルの世界で生きてきた。他人から自分がどう見えるか、それをいつも気にして生きてきた。たとえ失敗しても、俺は失敗してないよという顔をして、自分を取りつくろって生きてきた」(第3章・コイントスより)

そうやって彼は、人生で気づきをくれた人の言葉や体験を、正直な言葉で文章に綴る。中でも、本の終盤に登場する世界の北野武(以下たけし)の言葉は、さり気ないけれど、いつもとても深い。

ジャニーズを辞めると相談に行った時、「おまえは何のために歌ってんだ。オネエチャンたちにキャーキャー言われたいからか。どういう気持ちで歌を歌っているんだ」と聞かれた。それから、「俺がここまで来たのは、いろいろ遠回りしたんだよ。苦労を知ってるからって、偉いわけでも何でもないよ。ただ、そこを知ってりゃ、おまえ、この先何があってもそう簡単には諦めたり、投げ出したりしないだろ」と話し、ついには、「お前、(たけし)軍団に入れ!」と言ったらしい。ただ、たけしがつけた名前が「諸モロ出し」だったことがどうしても嫌で、諸星は軍団入りを断ったのだそうだ。

また、ある時は、たけしの自宅で即席のストリップショーをやることになり、諸星が照明係を仰せつかった。その時にうまくできなかったことを、たけしは後になって、「おまえ、あのとき、照明ちゃんと考えながら当てなかったろ。光が当たらないと、モノは見えないんだよ。おまえの仕事もそうだよ」と言ったという

彼がやっていることは今のところ私生活の切り売りのみ

さて、冒頭で手越の本にも2箇所だけ納得する部分があったと書いたが、その1つは、彼がブラジルワールドカップに取材に行ったときに、原っぱで新聞紙を丸めたボールを素足で蹴る少年たちを見て、「幸福度、幸福感とは他人から決められるものではなく、自分が決めるものなのだ」と綴っていた部分。

もう1つが、「サイレント・マジョリティ(物言わぬ多数派)よりもノイジー・マイノリティ(クレームをつける少数派)の方が人数は少ないにもかかわらず、後者は前者の20倍も30倍も大きな声をあげるため、どうしてもノイジー・マイノリティの声ばかりが目立ってしまう」という一文である。でも、それに続く「現実には、何も言わず賛同してくれる人の方が多数派」という記述には、「いや、一番の多数派は無関心だろう」と突っ込みを入れてしまった。いずれにせよ、必要以上に声が大きいだけのアンチに振り回されてはいけないという意見には賛成だ。

また、冒頭で触れた中居の素敵な描写というのは、日テレのスタジオで、手越のサッカー番組を観たという中居が、わざわざ手越の楽屋にやってきて、インタビューの受け答えをするときの「はい」を使い分けてみろ、とアドバイスしたという下りだ。さすがに言葉の世界を持っている中居だけあって、最初に手越のMCをガッツリ褒めてから、「オレの目から見てそう思っただけ。生意気なことを言うようだけど、今の話は手越がいいと思ったら参考にすればいい。収録がんばれよ!」と言って去ったという。このエピソードに関しては丁寧な描写がなされていた。

とはいえ、最後の章で、「圧倒的影響力を与えられる人間になって、世界で成功を収めてみせる」と宣言しながら、今のところ彼がやっていることはプライベートの切り売りでしかないし、「幸福は自分で決めるもの」と言いながら、自分のためなら人に迷惑をかけることはお構いなしという圧倒的な想像力の欠如が、彼への失望を加速させる。

もう手越しのことはいいや、と思っている元ファンも多いだろう。ただ、諸星が『くそ長~いプロフィール』を書けたのは、事務所退所から10年後の2004年。この時期には、もうアイドル時代の自分を客観視できていただろうし、気兼ねなく書けるエピソードも多かったに違いない。終始自分のダメさ加減や未熟さと向きあっている彼は、本の中でとても魅力的だ。

どんな人生にも波はあり、どんな人間にも、いいタイミングと悪いタイミングがある。今の世の中、その悪いタイミングを目がけて、ノイジー・マイノリティたちの一斉攻撃が始まる傾向があるが、手越には「アンチの言葉」と「手越のことを少しでも思ってかける言葉」の違いを、ちゃんと汲み取れる人であってほしい。

ジャニーズには、事務所から離れた後も、オリジナルの人生を歩みながら、古参のファンにも新しいファンにも、夢や勇気を届けてくれるタレントが大勢いる。今じゃなくていい。5年後、10年後に、「さすがは手越、楽しそうに生きてるね」と思わせてほしい。ジャニーズ箱推しの筆者は、今はただそう願う。

  • 取材・文喜久坂京

    ジャニヲタ歴25年のライター。有名人のインタビュー記事を中心に執筆活動を行う。ジャニーズのライブが好きすぎて、最高で舞台やソロコンなども含め、年150公演に足を運んだことも。

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