ミスコン受賞、朝ドラ女優…美人落語家が“姉妹”同士で切磋琢磨中

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姐弟子の乃ゝ香さん(左)と妹弟子の杏壽さん(右)は金原亭世之介師匠の指導のもと、切磋琢磨している

「男社会」と言われる落語の世界に、女性落語家が増えているらしい。2019年9月の時点で東京にいる女性落語家は「真打&二ツ目」で25人。その他に前座が6人、人数が把握できない「見習い」も数人いる。東京の落語家全体では約600人といわれている中で約30名である。増えてきたとはいえまだ少数派と言えるだろう。

そんななかで、落語家として40年以上活躍している金原亭世之介師匠は2人の女性弟子をとっている。2人ともそろって美人と話題で、最近ではテレビ番組などにも出演し、“美人すぎる落語家”として取り上げられている。世之介師匠が言う。

「落語は何百年もの間、男が男のためにやってきた芸ですからね。私も以前は、女性には無理だと思ってました。ところが、彼女たちから弟子入りを志願された頃、たまたま私は女性ができる落語の創作に挑戦していた。それもあって、弟子入りを受け入れたんです。縁があったのかもしれませんね」

2人の若い女性は、落語家に弟子入りする前からタレントとしての道を歩み始めていた。なのに、いったいなぜ落語の世界に足を踏み入れたのか、話を聞いてみた。

アメリカで芽生えた「日本の文化を知りたい」 という思い

黒髪と落ち着いた声色が印象的なクール系美女ぼ金原亭乃々香さん。11月に二ツ目に昇進するという

「今年の11月に二ツ目に昇進することになりました。入門してから4年10ヶ月、やっとという感じでもあるんですが、過ぎてみると案外早かったなとも思います。でも、やっぱり嬉しいですね」

こう語るのは、金原亭世之介師匠の一番弟子、金原亭乃ゝ香(ののか)さんだ。長い黒髪が印象的な神奈川県生まれ東京育ちの26歳。彼女は大学生で世之介師匠に入門。学生時代には、大学のミスコンで審査員特別賞を受賞、またCMやミュージックビデオ、舞台に出演していた。

そんな乃ゝ香さんは、どういう経緯で落語家への道を選んだのだろうか。

「私は、大学入学前に2年間アメリカにいた時期があったんです。最初はアメリカの大学に行こうと思い、向こうの予備校のような学校で勉強してました。そんな時、自分があまりに日本の文化について知らないなと思ったんですね」

帰国した彼女は日本の大学に進学。学生生活を送りながら、着付けを習いに行ったり、剣術でもやってみたりしようかとぼんやり思っていた。そんな矢先に金原亭世之介師匠の落語と偶然出会う。

「当時、大学のほかに通っていた演技の学校で、(世之介)師匠の講義と落語を聞いたんです。落語は初体験でした。我が家は親の方針でテレビもラジオもなくて、落語というものがあるのは知ってはいたものの、師匠の高座を聴くまでは、恥ずかしいけれど1回もちゃんと落語というものを聴いたことがなかったんです」

師匠がそこで喋った落語は、『文七元結』という有名な人情噺だった。

「ちゃんとしたストーリーがあって、ものすごく感動できるのに、とても面白くて笑えて、聞いていて勉強になることがたくさんありました。こういう芸を自分でもやってみたいなと思ったんですね」

その後も、彼女は世之介師匠の高座を何度か聴きに行き、入門を決意したと言う。

「ずっと師匠は弟子をとらない方で、ましてや女性には落語はできないとおっしゃってた方でしたから、ダメ元でお願いしたんです」

コロナ禍の「二ツ目」昇進に抱く目標

「前座見習い」から「前座」に昇進すると、今度は毎日寄席に通う過酷な修行の日々が始まる。この前座時代、乃ゝ香さんはどんなことに気をつけて修行していたのか。

「楽屋は男性がほとんどで、女性は嫌われることもありました。でも、女性だからできる気遣いもあると思ってました。まあ、男みたいになろうと思っても無理なので、極力しくじらないようにちゃんとやろうというのは心がけていました」

大変なのは、寄席の楽屋での師匠たちのお世話である。

「人は誰でもそうなんですが、師匠方にもみんなそれぞれ癖がある。この師匠の場合は、お茶はここに置くとか。この師匠はあったかいお茶がいいとか、ぬるいお茶がいいとか、それを全部覚えておくんです。本当にいろんな方がいらっしゃるんで。常時、100人以上の師匠の皆さんですからね。しくじったことは何度もありますが、師匠方がみなさん優しくて、ちゃんと怒ってくださって『こういうのはこうするんだよ』と教えてくださったりしてありがたかったですね」

今回、取材に加えて2人に小噺を披露していただいた。乃ゝ香さんは見た目以上によく通る声の持ち主だった。

さて、「二ツ目」に昇進する抱負も聴いておこう。

「今後はこのコロナの影響で仕事もきっと減っているでしょうし、従来の二ツ目の方とは少し違うのかなと思います。それでも今までは前座で、修行の中でいろんな方にご迷惑をおかけしながら勉強してたんですけど、これからは自分のやることが自分の責任になっていきます。ちゃんとそれを受け止めていかないといけない。学ぶことの多かった前座時代の経験を生かして頑張りたいですね」

前座修行中は、協会からの指示に従って寄席に出たり、師匠の仕事についていくのが仕事だったが、これからは自分で落語会などの仕事をとってこなければならないのだ。しかし、乃ゝ香さんは楽しみの方が多いと顔を輝かせる。

「落語は、基本的には男性が喋るために作られた噺なんですが、女性にも表現できることがわかってきました。子供とか動物とか、女性がやることによって、男性とはまた違ったふうに素敵に見える噺もあります。ちょっと表現を和らげたりとか。いつか『文七元結』などの人情噺もやってみたい……」

すると、隣で聞いていた師匠が彼女を睨む。

「ああ、将来、遠い将来の話です(笑)」

NHKの朝ドラに出演した「ウチナー美女」

二番弟子の金原亭杏寿さんは、朝ドラに出演した経験も。沖縄出身の「ウチナー美女」だ

金原亭世之介一門の二番弟子は、金原亭杏寿(あんじゅ)さん。爽やかな笑顔が印象的な美人である。彼女は沖縄出身、かつては沖縄県を中心にマルチに活躍するタレントだった。さらに、沖縄を舞台にしたNHK連続テレビ小説『純と愛』(2012年)に出演した女優だったのだ。

「ヒロインオーディションを受けて最終審査まで行きました。何千人も参加したオーディションだったのですが、最終選考の12名に残ったんです。結局、ダメでしたが、幸運にも役がもらえました」

杏寿さんの役は、主人公役の夏菜さんの兄役・速水もこみちさんと政略結婚をする花嫁の役だった。

それにしても、またしても「なんで落語家に?」という疑問の沸く経歴である。

「沖縄のローカルタレントという枠は、何でもアリなんですね。モデル、女優、舞台、ラジオのパーソナリティ、CM、ドラマ、映画と手当たり次第に仕事をしていました。いろいろやらせていただいた中で、芝居が一番大好きでしたね。でも、沖縄では司会業に力を入れないといけなかったり、仕事が限られてしまうので、ちょっと違うかなという思いがあって、東京へ行こうと思い立ったんです」

そんな彼女に「落語家」という選択肢はあるはずもなかった。ところが、ある時、知り合いから世之介師匠の独演会に誘われたのだ。初めて足を踏み入れた寄席で、彼女は強い衝撃を受けた。

「まず、ずっと明るいことに驚きました(笑)。舞台では暗転や照明が演出の大きな要素でしたからね。で、お一人でずっと喋るというのも……。何となく落語という形態は知ってたんですが、『ああ、こういう世界があるんだ』と思って見てたんですね」

落語ではそれまで杏寿さんが見てきた演劇の世界とは異なり、物語の情景は変わっても衣装もそのままで、メイクもない。

「高座で師匠がたった一人で話されている。なのに、情景がものすごくリアルだった。それが一番衝撃でしたね。今でもあの時聞いた場面のイメージは情景もストーリーも残っています。それがすごかったですね。芝居の舞台と同じ舞台なんだけど、最小限で、引き算をたくさんしていて、師匠ご自身、落語家の力だけでいろいろストーリーが見えるというのがすごいし、カッコ良かったです」

そして、もう一つ彼女の心を動かしたのが、前座で出ていた乃ゝ香さんの存在だった。

「実は人生で最初に高座で聞いた落語は、師匠じゃなくて姐さんの『元犬』なんです(笑)。それが最初の落語だった。ああ、女性もできるんだと思いました」

落語家になりたい——。そう決心した彼女は、独演会に誘ってくれた方に相談し、師匠と面談して、2017年10月末に一門入りを果たすこととなった。

”三遍稽古”では涙したことも

「前座見習いの期間は、朝、師匠や女将さんにご連絡して、その日師匠の何か落語会があればついて行ったり、身の回りのことなど雑用をこなします。また、基本的に事務所に来て掃除したり、稽古つけてもらったりします。それで姐さん(乃ゝ香さん)に楽屋入りに備えていろんなことを教えてもらいました。着物の着方や畳み方、太鼓の稽古などの基本ですね。

結局、見習いは1年半やりました。長かったですね。1年くらいは仕方がないと思っていたんですけど、最後の半年は『いったいいつになったら寄席に入れるんだろう?』とヤキモキしてました」

そして昨年5月、「見習い」から「前座」に昇格し、やっと楽屋入りが許されたのだ。杏寿さんは、高座での挨拶に沖縄弁を取り入れている。意味はわからずともなんだか楽しくなる挨拶だった。

「今後、挑戦したい噺はいっぱいありますが、まずは、前座で覚えるべき噺をやれるようにならなきゃ。関西弁の早口の口上のある『金明竹』を秋田弁でというのがあるように、いつかウチナーグチ(沖縄弁)を活かした話もやってみたいですね」

さて、肝心の落語の稽古はどうしているのか。

「一番最初に習ったのは『道灌』という噺。13分くらいあるんですよ。師匠が一通り話した後すぐに『じゃ杏寿、最初からやりなさい』と言われてやるんです。何とかやってみるんだけど、なかなかできなくて適当な言葉で繋いだりして、終わらなくなって、泣きながらやりました」

世之介師匠は自身が師事した古今亭流の指導をおこなっており、「三遍稽古」と言う教え方をしている。師匠が目の前で一席話し、直後に習い手がやってみる。これを日にちを空けて3回行うのだ。3回目に師匠が合格と認めてくれれば「上がり(合格)」となり、人前でその噺を披露することができる。しかし、「まだだ」と言われれば、また一人で稽古に励み、「上がり」を目指すのである。

「喋ることで話の筋だとか色々整理されていくので、それで録音した師匠の噺を何度も聴いて自分で直していくんです。私が挑戦した時は最後までたどり着けなかったんですが、『乃ゝ香はやったけどな』なんて言われちゃいました(笑)」

姐弟子の乃ゝ香さんの背中を追う杏寿さん。“姉妹”はいい刺激を与えあって切磋琢磨しているようだ。世之介師匠は彼女たちについてこう言う。

「男性社会ですから、それなりに苦労はあると思います。女性はただでさえ目立ちますから、落語以外の仕事の依頼も来ることもあるでしょう。落語以外の出演が悪いわけではありませんが、本業以外に出演していれば同じ業界で面白くないと思う人が出てくるのも当然です。だからこそ、落語とほかの仕事、どちらもしっかりやらなくてはというプレッシャーはあるでしょうね」

杏寿さんの前座修行はあと3年。乃ゝ香さんは、二ツ目昇進後約10年すれば、いよいよ「真打」を目指すことになる。2人がどんな落語家になっているか、今から楽しみである。

  • 取材・文小泉カツミ

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