今季のプロ野球を面白くするのは「足のスペシャリスト」だった! | FRIDAYデジタル

今季のプロ野球を面白くするのは「足のスペシャリスト」だった!

低い指名順位から這い上がってきた男たち!

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最近は代走だけでなくスタメンでの起用も増えてきた和田康士朗(千葉ロッテ)。高校時代は野球部に所属していなかったという変わり種
最近は代走だけでなくスタメンでの起用も増えてきた和田康士朗(千葉ロッテ)。高校時代は野球部に所属していなかったという変わり種

このところ、プロ野球では「代走」が新たなトレンドになりつつある。試合終盤の重要なポイントで出場し、走塁で決定的な働きをする選手が目立っているのだ。

これまでも歴代の盗塁王はじめ、足が魅力の選手はたくさんいた。足が速いことは単打を二塁打、三塁打にできる。出塁すれば、次の安打で本塁を踏むことにつながる。「韋駄天」は長打がなくとも、そういう意味で貢献度が高い選手たちだ。

しかし今、売り出し中の選手たちは少し違っているのだ。

セ・パ両リーグの盗塁数10傑。各選手の安打数も付ける。8月19日時点。

〇セ・リーグ
1近本光司(神)13盗塁/49安打
2増田大輝(巨)11盗塁/5安打
3堂林翔太(広)7盗塁/54安打
4山田哲人(ヤ)6盗塁/28安打
4大島洋平(中)6盗塁/60安打
6梅野隆太郎(神)5盗塁/46安打
6梶谷隆幸(De)5盗塁/54安打
8西川龍馬(広)4盗塁/62安打
8神里和毅(De)4盗塁/19安打
8エスコバー(ヤ)4盗塁/43安打
8丸佳浩(巨)4盗塁/44安打
8吉川尚輝(巨)4盗塁/26安打
8植田海(神)4盗塁/8安打
8村上宗隆(ヤ)4盗塁/59安打

〇パ・リーグ
1和田康士朗(ロ)14盗塁/4安打
2西川遥輝(日)12盗塁/49安打
2荻野貴司(ロ)12盗塁/36安打
4佐野皓大(オ)10盗塁/5安打
4外崎修汰(西)10盗塁/53安打
6小深田大翔(楽)9盗塁/37安打
6源田壮亮(西)9盗塁/47安打
8周東佑京(ソ)8盗塁/19安打
8茂木栄五郎(楽)8盗塁/59安打
10上林誠知(ソ)7盗塁/24安打

おわかりだろうか。両リーグ10傑の中に「安打数より盗塁数が多い選手」が含まれているのだ。

セ・リーグは、先日緊急登板で名前が売れた巨人の増田大輝、パ・リーグはロッテの和田康士朗、オリックスの佐野皓大。

普通、足が速く盗塁が多い選手はリードオフマンと相場が決まるが、これらの選手はレギュラーではなく「代走」なのだ。

普通の「代走」は、試合終盤になってベテランの選手を休ませるとか、足が遅い選手が併殺になるのを防止するためとか、どちらかといえば「用心」「念押し」のために起用されるものだが、増田、和田、佐野は試合後半のここぞというときに「次の塁を奪う」ために起用されるのだ。

和田は19日のソフトバンク戦では一塁からシングルヒットで長躯本塁まで帰る離れ業も見せている。

こういう選手は、過去にもいた。

近い例でいえば、巨人の鈴木尚広。彼は点差が接近した状況の終盤に「秘密兵器」として起用され、ほぼ確実に次の塁を奪って見せた。

鈴木も以前は外野の準レギュラーだった時期もあり、スタメンに名を連ねていたが、キャリア後半は「代走」での起用が中心になった。

2010年からは毎年二けた盗塁を記録し、安打数は盗塁より少なかった。

2010年10盗塁/7安打
2011年18盗塁/11安打
2012年16盗塁/5安打
2013年13盗塁/5安打
2014年11盗塁/7安打
2015年10盗塁/5安打
2016年10盗塁/3安打

この時期には、鈴木が代走で一塁に立ち、屈伸運動をするだけで相手チームに緊張が走ったものだ。

次に思い出されるのが2019年のソフトバンク、周東佑京だ。彼も昨年25盗塁を記録、20安打だった。

周東の足は高く評価され、侍ジャパンにも選出され「プレミア12」に出場、大会記録の4盗塁をマークした。今季の周東は遊撃手として今宮健太と先発で併用されているので、安打数はやや多いが、ここにきて盗塁数が増えている。彼も「秘密兵器」に加えるべきだろう。

こうした「秘密兵器」的な選手に求められるのは、盗塁成功率の高さだ。
鈴木尚広は通算で228盗塁47盗塁死、成功率.829は200盗塁以上では最高だ。
今季の「秘密兵器」たちも

増田大輝(巨)11盗塁2盗塁死 成功率.846
和田康士朗(ロ)14盗塁1盗塁死 成功率.933
佐野皓大(オ)10盗塁0盗塁死 成功率1.000
周東佑京(ソ)8盗塁1盗塁死 成功率.889

と極めて高い。

今のプロ野球では、バッテリーの盗塁阻止技術は昔と比べ物にならないほど高くなっている。足が速いだけでは盗塁できない。彼らは高い「盗塁技術」も持っていると言えよう。

もう一つ今の「秘密兵器」たちに共通するのは、入団時の指名順位の低さ

増田大輝(巨)2015年育成ドラフト1位 独立L四国から入団
和田康士朗(ロ)2017年育成ドラフト1位 独立L富山から入団
佐野皓大(オ)2014年ドラフト3位 大分高から入団
周東佑京(ソ)2017年育成ドラフト2位 東農大オホーツクから入団

増田と和田は独立リーグから育成枠で入団。独立リーグ上りは支配下登録も果たさず3年程度で消えるのが普通だが、ここから這い上がってきた。

佐野はドラフト3位だが投手として入団。しかし結果を出せず2017年に育成枠に。内野手に転向して芽が出た。現在は外野手登録。

周東も育成ドラフトから支配下登録を果たしたのだ。

こうした選手は、入団時には目立つ部分はなかった。しかし「足」という天与の才能に磨きをかけて育成枠から支配下へと這い上がり、「秘密兵器」としてスポットを浴びつつあるのだ。

彼らの活躍は、小さくて非力な野球少年に勇気を与えると思う。盗塁は激しいプレーだ。大きな怪我をしないように頑張ってほしい。

  • 広尾 晃(ひろおこう)

    1959年大阪市生まれ。立命館大学卒業。コピーライターやプランナー、ライターとして活動。日米の野球記録を取り上げるブログ「野球の記録で話したい」を執筆している。著書に『野球崩壊 深刻化する「野球離れ」を食い止めろ!』『巨人軍の巨人 馬場正平』(ともにイーストプレス)、『球数制限 野球の未来が危ない!』(ビジネス社)など。Number Webでコラム「酒の肴に野球の記録」を執筆、東洋経済オンライン等で執筆活動を展開している。

  • 写真時事通信社

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