「レジ袋有料化」はなぜ必要?いま改めて知っておきたい本当のこと | FRIDAYデジタル

「レジ袋有料化」はなぜ必要?いま改めて知っておきたい本当のこと

現状はプラスチックを食べ続ける日常

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7月1日にはじまったレジ袋有料化(写真:AFP/アフロ)
7月1日にはじまったレジ袋有料化(写真:AFP/アフロ)

7月1日からレジ袋が有料化された。「プラスチック問題の解決につながるのか疑問」といった声が挙がったり、対象外とされたレジ袋を無料で配布するスーパーなどもあり、現場での理解のされ方はバラバラだ。しかし、オーストラリアの大学の研究によると、世界中の人々が毎週クレジットカード1枚分にあたる5グラムのマイクロプラスチックを摂取しているという。私たちはすでにプラスチック汚染のただ中にいるわけだ。そこでなぜレジ袋が有料化されたのかについて、国立環境研究所の田崎智宏さんに話を伺った。

海洋プラスチックごみが魚の量を上回る

Q:レジ袋有料化の背景にある、プラスチックの問題点を教えてください。

田崎氏(以下、田崎):プラスチックは、軽くて安い、しかも丈夫で便利なので、私たちの生活に根付いてきました。しかしあまりに大量につくられ、使われることで、様々な社会問題を生み出しています。

代表的なものが海洋プラスチック問題です。ごみとして海に流れていくものが増え、いつまでも分解されません。プラスチックごみを誤飲する、プラスチックごみに絡まるなどといった海洋生物への悪影響の研究報告は2000種類以上にも及びます。しかも、2050年には海中にあるプラスチックごみの量が海にいる魚の量を上回ると言われています。また、細かくなったマイクロプラスチックは、魚介類などを通して日々私たちの口にも入っており、マイクロプラスチックそのもの、ならびにそこに吸着した微量有害物質による健康影響リスクを懸念する声もあります。

新興国や途上国での問題が急増していることもあって、プラスチックに対する取り組みの必要性が世界的に理解され、プラスチックごみのリサイクルを徹底するだけでなく、無駄な利用を減らしていかなければならないと考えられています。

Q:消費者目線からは、レジ袋が突然有料化されたという印象を持つ人もいます。なぜレジ袋だったのでしょうか?

田崎:プラスチックの中で最初に減らすべきなのは、一度限りの使用で捨てられてしまう使い捨ての製品です。中でもレジ袋は、ほとんどの人が使う使い捨てプラスチックの象徴となっています。また、レジ袋は世界でもっとも規制が進んでいるものとして、手をつけやすいという点も重要です。すでにレジ袋の無料配布を規制したり禁止している国は、60カ国にも及んでいます。日本は世界の中でかなり遅れているということになります。

実は日本でも、2008年頃にレジ袋有料化の政策議論がされましたが、当時はコンビニ業界の反対などにより実現しませんでした。結論として企業が自主的に取り組むことになったものの、個別の地域では足並みがそろわず、有料化しないお店の方がお客の受けがよいという認識もあってうまくいきませんでした。その間に世界各国が先に規制をするようになったのです。今回は海洋プラスチック問題が注目されたこともあり、この機会にやろうという流れになりました。

Q:海に流れ出るプラスチックだけが問題なのでしょうか?

田崎:誤解されがちですが、レジ袋を有料化した理由は海洋プラスチック問題のためだけではありません。プラスチックは石油からつくられるので、資源問題の側面があります。また、燃やせば温室効果ガスが発生するため、気候変動の問題もあります。そして大量生産、大量消費、大量廃棄という社会の構造的な問題とも関連しています。レジ袋が有料化されたのは、そうした社会のあり方を見直し、無駄なものを使わない方向に舵を切る第一歩として実施されたと理解する必要があるのです。

世界自然保護基金(WWF)の研究でわかった、1人が6カ月間で体内に摂取しているマイクロプラスティックの分量を示したもの。コーヒーカップよりはるかに大きいシリアルカップがいっぱいになってしまう(ロイター/アフロ)
世界自然保護基金(WWF)の研究でわかった、1人が6カ月間で体内に摂取しているマイクロプラスティックの分量を示したもの。コーヒーカップよりはるかに大きいシリアルカップがいっぱいになってしまう(ロイター/アフロ)

Q:「重量ではプラスチックごみの2%に過ぎないレジ袋を減らしたところで、プラスチック問題の解決に効果があるのか?」という疑問も出ています。

田崎:それは問いの立て方が間違っています。確かに、海洋に出て細かくなるマイクロプラスチックの問題だけをとれば、重量と環境への影響は比例しているので、有効な指標となり得ます。しかし、海洋生物がレジ袋を飲み込んだり、絡まって死んでしまう問題については、表面積や容積が重要になってきます。「軽いから影響が少ない」とは言えません。また、プラスチックの袋を海から回収する際、泥がつきやすく困難になったり、リサイクルしにくい傾向があるので、海洋クリーンアップの面からすれば未然に防止したいものです。

重量という一つの指標だけで判断することは正確ではなく、悪影響というインパクトベースで考えなければなりません。また、プラスチックという象徴的なモノへの対策からの波及効果を期待するという意味で、プラスチックごみのリデュース(削減)対策の第一歩として、レジ袋を規制することには意義があると考えられます。

「3つの対象外」への疑問

Q:今回、3種類の袋が有料化の対象外とされました(厚めの袋、バイオ素材が25%以上使用された袋、海洋生分解性100%の袋)。これらはなぜ例外とされたのか、そしてどのような課題があるのでしょうか?

田崎:まず、これらを有料化の対象外としたことは妥当ではない、というのが私の意見です。そもそもレジ袋有料化を始めた理由のひとつは、大量消費を避けるというメッセージを投げかけることです。でもこれらを対象外としたことで「これならたくさん使ってもいいんだ」と誤って受け止められてしまう危険性があり、問題です。

まず厚めの袋ですが、何回も繰り返して使えるから対象外にしたとの説明がされています。でも繰り返し物理的に何回も使えることと、実際に何回も使うかどうかは別の話です。使うことを担保しないまま、無料で配るのは問題です。繰り返し使えるものを有料化すれば、何回も使ってもらえるようになり、消費者も一回あたりの費用が安くなり、より多くの回数を使おうというインセンティブが働きます。有料化する方が、削減効果が出るはずなのです。万が一、無料だからと厚い袋を使い捨てる人が続出すれば、むしろプラスチック消費量は増大してしまいます。

Q:バイオマス素材の袋はどうでしょうか?

田崎:バイオマス素材の袋は、基本的には、燃やした時に出る温室効果ガスを減らす狙いで開発されています。また、石油を使わないので再生可能な資源という面でも役立ちます。しかし、25%配合されていればいいということなので、燃やせば残る75%からは温室効果ガスが出るわけですし、非再生資源を使い続けることになります。また、自然分解しないので、例え割合を100%に高めたところで、海洋プラスチック汚染の被害は減らせません。

Q:最後の、海洋生分解性プラスチックの袋についても教えてください

田崎:海洋生分解性プラスチックは、海に出たら自然分解するというものです。しかし何をもって海洋生分解性とするかという基準が、日本国内にはありません。海外の認証制度もありますが、水温が30度という条件下で分解するといったものです。日本の近海は水温が30度もあるのか、本当に分解するのかという部分で疑問が残ります。例外とするには、まだまだ研究やルールづくりが必要というのが実態です。

有料化対象外の袋を無料配布してい埼玉県内のスーパー
有料化対象外の袋を無料配布してい埼玉県内のスーパー

市民の努力と技術開発ではもう限界

Q:レジ袋の次は、どんな点に注目すれば良いでしょうか?

田崎:レジ袋の規制は第一歩にすぎません。欧州連合(EU)では、レジ袋だけでなく使い捨てプラスチックそのものを禁止、あるいは有料化する方向性が打ち出されています。特に一度きりで使い捨てるスプーンやマドラーなどは禁止するというEU指令が2018年に出されています。大量のプラスチックが使用されている漁具の問題も世界的に着目されています。日本でも政府や企業、市民がもっと議論をして、使い捨てプラスチック対策の第二歩、第三歩をロードマップに落とし込んで取り組みを進める必要があります。

Q:日本に最も欠けているのはどのようなことでしょうか?

田崎:2019年に大阪で行われたG20では、「大阪ブルー・オーシャン・ビジョン」が打ち出されています。これは、2050年には海洋へのプラスチックごみの流出をゼロにするというビジョンで、開催国である日本のリーダーシップによる宣言です。日本ではこれまで、プラスチック問題に対し、技術開発と人々の良心に訴える啓発で乗り切ろうとしてきました。しかし、大阪ブルー・オーシャン・ビジョンが掲げる野心的な目標を達成するには、市民の自発的努力だけでは限界があります。もっと制度的な変革が不可欠です。具体的には、経済的にインセンティブが働く仕組みを創出する必要があります。

Q:「経済的な仕組み」というのは、どのようなものでしょうか?

例えばペットボトルで言えば、デポジット制や回収のポイント制度を導入することです。現状では、環境中へ流出したプラスチック製品のクリーンアップや処理のための費用が税金でまかなわれています。ポイ捨てする人が損する仕組みに全くなっていないのです。ペットボトルを販売店に返却したらお金やポイントが戻ってくるようにすれば、環境中への流出量を減らし、環境中からのクリーンアップ量を増やすことができます。日本では産業界の反対でデポジット制度が実現してきませんでしたが、ペットボトル飲料を飲む人やその販売で儲けている企業が、クリーンアップや廃棄物処理の費用の一部を負担するシステムを作らなければ、これ以上先の段階には進めないでしょう。

田崎智宏

国立環境研究所で資源循環・廃棄物研究センターの循環型社会システム研究室長を務める。リサイクル問題・ごみ問題を研究しつつ、持続可能な社会を目指す研究に取り組んできた。システム工学と環境政策学が専門で、家電や容器包装などのリサイクル制度やごみ発生抑制・長期使用の取り組みの評価、リサイクルの責任論としての拡大生産者責任の研究などについて学問領域を超えたアプローチで研究を行う。博士(学術)。中央環境審議会などの委員も務めている。
  • 取材・文高橋真樹

    ノンフィクションライター、放送大学非常勤講師。映画「おだやかな革命」アドバイザー。『ぼくの村は壁に囲まれた−パレスチナに生きる子どもたち』『そこが知りたい電力自由化』ほか著書多数。

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