「保育士ストーカー殺人」同僚達が被告を犯人と確信した理由

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昨年3月に東京都杉並区のアパートで保育士の同僚・照井津久美さん(32)を殺害したとして殺人と住居侵入の罪に問われた松岡佑輔被告(33)の裁判員裁判初公判が、8月24日に東京地裁(下津健司裁判長)で開かれた。

3月31日、荻窪署から送検される松岡容疑者。職場から警察への通報により彼が捜査線上に浮上したという

坊主頭にスーツで現れた松岡被告は、開廷前に、つけていたマスクを外してフェイスシールドに付け替えた。逮捕当時の映像よりも若干ふっくらした印象の顔立ちだ。

事件が起きたのは昨年3月26日の日中。照井さんの住んでいたアパート居室の窓は割れていた。屋根の上に残された足跡や現場の状況から、犯人は物件の屋根から照井さんの部屋のベランダに降り部屋に侵入、待ち伏せし、背部から包丁で照井さんを刺して殺害したと見られている。

松岡被告が逮捕されたのは同月30日。当時から「刺していません」と容疑を否認していた被告は、今回の罪状認否でも「私は最後まで黙秘します」と黙秘を宣言。弁護人は「事件当日に被害者宅に立ち入ったことについては争わない」と住居侵入罪は認めた一方、「被害者を刺して死亡させたのは第三者の可能性がある」と殺人罪について無罪を主張した。事件当時、照井さん宅にはいたが、そこには第三者もおり、照井さんはその第三者に殺されたというのだ。

事件の争点は「被害者を刺した犯人と被告人は同一人物か」。当然ながら検察側と弁護側それぞれの冒頭陳述での主張は全く異なっていた。

「被告人と被害者は乳児院の同僚で、2013年4月から被害者の勤める乳児院で働き始めた被告人は、2015年ごろから被害者に好意を抱き繰り返し飲みに誘うようになった。一方被害者は被告人に対して好意がなく、避ける態度をとっていた。しかし被告人は直近まで好意を抱き続けていた。

事件当日、被告人は自宅から被害者宅へ向かい、なんらかの方法で部屋に侵入し、待ち伏せした。

11時26分ごろ、夜勤を終えた被害者が自宅に帰宅すると、被告人はビニール紐やテープで被害者を拘束しようとして争いになった。12時ごろ、被害者方ベランダから助けを求める声を、アパート大家や配達中の郵便局員が聞きつけ、12時4分に110番通報がなされた。その頃被告人は被害者の背部を刺してアパートから立ち去った。10分後に到着した警察官が部屋に入り、意識不明の被害者を発見した」(検察側冒頭陳述)

また検察側は被告が着用していたコートに照井さんの血痕がついていたこと、凶器である包丁にもふたりの混合DNAが付着していたこと、部屋から立ち去った被告が携帯電話で「自首」「殺人の慰謝料」を検索するなど、“犯人でなければ説明のつかない行動”を取っていることなどを挙げ、被告が犯人である疑いが強いと主張していた。

対する弁護側は「被告人以外の第三者が部屋にいたのではないか。その人物が被害者を刺したのではないか。ビニール紐からは第三者のDNAが検出された。誰かが関与したのではないか。部屋には複数人がいたのではないか」など、被告と照井さん以外のDNAが検出されたビニール紐から“第三者が部屋にいたこと”や“その人物による犯行の可能性”を主張した。

とはいえ、この日続けて行われた証拠調べにおける検察官請求証拠からは、松岡被告が照井さんに長年好意を持っていたことや、事件後に乳児院の同僚たちから疑いを抱かれていたことが明らかになった。

まず法廷で検察官が読み上げた『松岡被告と被害者のLINEのやりとり』からは、被告が2015年から照井さんを度々飲みに誘っていたことがわかる。

「お疲れ様です! 飲み誘っていいでしょうか」
「先生こんばんは、そろそろ涼しくなってきたと思いませんか つまり飲みに行きましょう」
「お疲れ様っす 明日飲み行くテンションなってくださってますか」
「お疲れ様です 明日一瞬飲み行きませんか」
「こんばんは やってきましたお誘いのコーナー 8日どうでしょうか」

これに対して照井さんは「いきましょーか」と当初は応じていたものの、次第に「明日は飲む元気ないのでやめとく」「いやー明日はちょっと」と遠回しな断りを入れるようになり、終盤では「行きません」ときっぱり断るようになっていた。特に被告が“勤務先の乳児院の子供についての相談”と称して飲みに誘った際、照井さんは「子供をダシに使われてるようでとても嫌です」と不快感を示し、以降のやりとりは目に見えて堅苦しくなっている。

加えて、乳児院の同僚らの調書からは、松岡被告が事件翌日に出勤した際、顔や首、そして腕に怪我をしていたこともわかった。

「休暇で自宅にいた時テレビで、照井さんが殺害され犯人が逃走しているというニュースを見た。犯人の特徴として報道されていたように被告も身長160センチから165センチ、黒いコートを着ており、照井さんに告白して振られたことがあると聞いていたので不安に思った。

翌日に出勤すると、他の同僚も同じことを考えていた。

同日午後に被告と勤務先ですれ違うと、顔に引っ掻いた傷があることに気づいた。24日の夕方にはなかったものだった。被告は目に力がなくぼーっとしていて、今までにないくらい元気がなかった。傷は4〜5センチぐらいの長さがあり、かすり傷ではなかった」(同僚Aの調書)

松岡容疑者の首元には包丁で切れたような痕がある。警察は照井さんともみ合った際にできた傷と見ている

「当日の報道で津久美さんが殺害されたことを知った。被告は26日に休んでいたことなどから、逃走した犯人は被告ではないかと思った。翌日に夜勤に入った同僚から、被告に傷があったと連絡があった。3月25日の飲み会では、傷は全くなく、ますます『被告が犯人では』という疑いが色濃くなった」(同僚Bの調書)

実際に逮捕直後の被告の写真も証拠として法廷モニターに映し出されたが、確かに顔に傷があり、加えて首に大きく左右に、そして腕にも目立つ引っかき傷があった。

この日続けられた証拠調べでは、部屋から発見された手袋などの遺留物から被告のDNAが検出されたこと、被告が履いていたナイキのシューズと同一の足跡が被害者宅の屋根などから見つかっていること、そして被害者の両手指から採取された付着物からも、照井さんと被告のDNAが検出されていることなどが明らかになっている。

審理は引き続き行われ、判決言い渡しは9月に予定されている。裁判所は『第三者の犯行』を認めるか。

  • 取材・文高橋ユキ

    傍聴人。フリーライター。『つけびの村 噂が5人を殺したのか?』(晶文社)、『暴走老人・犯罪劇場』(洋泉社新書)、『木嶋佳苗 危険な愛の奥義』(徳間書店)、『木嶋佳苗劇場』(宝島社)、古くは『霞っ子クラブ 娘たちの裁判傍聴記』(新潮社)など殺人事件の取材や公判傍聴などを元にした著作多数。

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