172件の観察研究解析でわかった!「マスクの効果」一つの答え

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“マスクなんて意味ない”と言ってたくせに、たった4ヵ月で奨励! WHOの指針変更に「信じてよかった」と思った日本人

帰宅後にマスクをはずすことも家庭内感染の一因として挙がっている昨今。果たしてマスクの効力はどの程度?

風邪をひいたといえばマスク、給食当番といえばマスク。日本人は幼少時からマスクに多大な信頼を寄せてきた。だから今年の2月、WHOが「新型コロナウイルスの感染予防にマスクを着用する必要はない」と発表したときには、その信頼関係が音を立てて崩れ落ちるような、惨憺たる気持ちになったものだ。 

ところが6月、WHOはてのひらを返したように指針を変更。「一般市民のマスク着用を奨励する」と発表した。 

イギリスでは6月15日以降、公共の交通機関でのマスク着用が義務づけられ、フランスでも9月1日より、複数の人が屋内で働く職場では、原則としてマスクの着用が義務づけられた。WHOの変わり身の早さ、そしてヨーロッパの対応に、「それ見たことか」と溜飲を下げた人も多いだろう。 

WHOが指針を変更した背景には世界で最も権威ある専門誌のひとつ、英医学誌『ランセット』で発表された、マスクに関する新たな研究結果などがあるという。マスクが市民権を得ることになった理由とは? 内科医の谷本哲也先生にお話をうかがった。

アムールの都パリも甘いことは言っていられない。観光地など混雑する場所でも、マスク着用が義務づけられることになった

なぜ今まで研究されなかったのか。その理由はマスクの値段にあった!?

「英医学誌『ランセット』で発表されたのは、カナダのマックスマスター大学などの研究者たちが、系統的レビューとメタ解析という方法を用いて分析した研究結果です。 

6大陸・16ヵ国で行われた172件の観察研究の解析で、参加者の数としては2万6千人という広範囲のデータになります。その結果、マスクにはコロナウイルスなどの感染リスクを減少させる効果が認められ、その値は85%であると公表されました」(谷本哲也先生 以下同)

WHOの新指針の発表は“ここ数週間の複数の研究に後押しされたもの”となっている。数週間? てことは、これまではマスクの研究って、全然されてこなかったのか?

「元々マスク自体、医者の間ではあまり効果があるとは思われていなかったんです。特に症状がない一般の人がつける場合ですが。マスクは医薬品や医療機器に比べるとすごく安く、あまり儲かるものではないので、これまではそんなに一生懸命研究もされませんでした。 

実際、今回の『ランセット』の研究でも、過去には質が劣る観察研究しかないことがわかりました。手間や費用がかかるものの医学研究で質の高い結果が得られ、医薬品などでは必須となるランダム化比較試験はひとつもなかったのです」

マスクをする習慣がなかった国では、マスク着用の義務化が大きな波紋を呼んでいる。中には“自由の侵害だ”とデモを行う人たちも。写真は、ドイツ西部のドルトムントでの様子

172件の観察研究の解析でわかった「マスクの感染予防効果」とは

思えば1918年にインフルエンザ(通称スペイン風邪)がパンデミックを引き起こした時から、マスクは世界中で活躍していた。なのに100年経っても厳密な研究が進んでいなかったのは、谷本先生も正直意外だったという。それが一転して見直された理由には、新型コロナウイルスの特性があった。

「2月から3月に、新型コロナはかなり感染しやすいということがわかってきました。 

しかも感染しても症状が出ない人が多い。さらに症状が出始める1.8日前にウイルスの量が増え、この時期がいちばん人にうつしやすいということ、そして唾の中にけっこうウイルスが含まれるので、しゃべったりするだけでうつることもわかりました。これは医療関係者にとって意外なことでした。 

普通の風邪やインフルエンザ以上に周りに広がりやすいウイルスだと判明したことが、マスクが見直されるきっかけになりました」

でも待って! 確かマスクの穴に比べてウイルスはめちゃくちゃ小さいから、簡単に通り抜けてしまうと聞きましたよ?

「ウイルスの粒子は一般的に0.1マイクロメーター以下、不織布マスクの穴は50マイクロメーターなので、当然スースー抜けてしまいます。けれど多層構造であれば、ある程度ウイルスを含む唾などの飛沫の量を減らすことは可能です。飛沫の大きさは大体穴と同じ50マイクロメーターですから、マスクをつけていれば表面に付着し、中には容易には入ってきません。感染するにはウイルスの量も関係してくるので、不完全でも量を減らす意味があるわけです」

今回の研究結果として、“眼の防護”の感染予防効果が算出されたことも重要な点だ。ゴーグルやフェイスシールドなどで眼をガードすることで、感染リスクは78%も減少するという。

「ただ、フェイスシールドに関してはマスクよりもさらにデータがなく、今後の研究が待たれるところです。 

フェイスシールド類にもいろいろ種類があり、目、鼻、口からあご、それから側面も含め、全体的に覆ったものなら効果はあるでしょう。しかし、よくテレビで芸能人などがつけている口のあたりだけ覆ったようなマウスシールド等は、どの程度飛沫が防げるのかよくわからないので過信しすぎないことです」

新型コロナウイルスの実態が明らかになるにつれて、発言が二転三転してきたWHO。マスクのように初歩的なアイテムに対する認識ですら、専門家であるはずの医療関係者の間で大きく変化してきたということか

【重要】高齢者や持病がある人は、「布マスク」より「不織布マスク」を

ランセット誌に掲載された研究結果では、マスクの種類によっても感染予防効果に違いがあることも明らかにされた。

「いちばん効果があるのは、やはり医療現場で使うN95マスクで、感染の減少効果は96%でした。ウイルスと同程度の大きさの粒子状物質を95%以上キャッチしますが、ピッタリとしていて医者でもつけ続けるのは呼吸が辛く、普段の生活で使うのはまず無理です。

それよりは67%と数割効果が落ちるけれど有効なのが、医療用マスクやサージカルマスクと呼ばれる、いわゆる不織布のマスクです。網目状の不織布が少なくとも3層構造になっていて、ウイルスが含まれる飛沫を通しにくくしています。

もうひとつ、よく使われている布マスクには種類がいろいろあって、ある程度効果があるのは12〜15層になっているものといわれています」

ちなみにアベノマスクは5層の折り畳み式。1層がさらに3つぐらいの層になっているので12〜15層はクリアしているとのこと。

「布マスクはすぐに汚れるし雑菌も繁殖しやすく、医学的には使い捨ての医療用マスクのほうがベターです。ただ、みんなが医療用マスクを使って供給が滞ると医療現場が困ってしまうし、コストや環境汚染の問題もよく言われていますから、妥協して一般の方は布マスクでなんとか凌ぎましょう、というのが現状でしょうか」

いくら効果的といっても、一般人がN95マスクに手を出すのは避けたいところ。プロ仕様のマスクと心得よう

日本ではあまり知られていないが、WHOの見解では不織布マスクと布マスクでは、使い方がしっかりと分けられている。高齢者、それから癌や糖尿病、潰瘍性大腸炎でステロイド使用中などの持病をもつ人で1m以上の社会的距離がとれず、新型コロナの流行地域にいる場合には、布ではなく不織布マスクの着用を推奨しているのだ。

「最近も厚労省のサイトを見ていたら、要望があれば介護施設などに、まだアベノマスクを配るとなっていましたが、あれはどうなのかなと。介護施設は集団感染や重症化リスクが高いので、布マスクより、不織布のマスクを配ってくれたほうがいいと思うのですが…。 

マスク不足の状況下では、布マスクでもなんでもいいから、とりあえずつけておこうというざっくりとした政策でも仕方がなかったかもしれません。けれどマスクの供給が充足してきた今後は、もう少し精緻な政策が必要です。感染の流行状況に応じ、リスクの高い方々を守る方法について、もっと目を向けなければなりません」

たかがマスク、されどマスク。正しく使うのは、実はけっこう難しい

「マスクって、実は使い方がけっこう難しいんです。つける前、はずしたあとには手洗いをしっかりしないといけないし、そもそもマスクの表面を触ってはダメです。夏場は熱中症も心配で、鼻を出したり、上にずらして水分をとったりもしますので、本来の理想的な使い方に比べると効果は落ちているはずです。ただ、物理的に飛沫感染を防ぐ効果はありますから、つけないよりはましということです。

ただし、すぐ近くに誰もいない場所や状況で律儀にマスクをしておく必要はありません。社会的距離(ソーシャルディスタンス)が1〜2メートル以上保てない混み合った状況、特に公共の交通機関や店舗内などで、換気が不十分な室内環境では、マスクを心がけていただければと思います」

いずれにしても、これまでお金にならないからと医学研究から捨て置かれていたマスクにスポットライトが当たったのは、日本人としてなんだか誇らしい気分ではある。

しかし、くれぐれも過信してはいけない。汚い手でむやみに触ったり、食事中にポイとテーブルに置いたりすると、いつ何時ウイルスが忍び込んでくるかもわからない。3密を避け、手洗いはしっかりしたうえで、さらにマスクで感染予防に努めよう。

谷本哲也(たにもと・てつや) 内科医。ナビタスクリニック川崎、ときわ会常磐病院、社会福祉法人尚徳福祉会にて診療。霞クリニック・株式会社エムネス・バイオニクス株式会社を通じて遠隔診療などにも携わる。特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所に所属し、海外の医学専門誌への論文発表にも取り組んでいる。著書に『知ってはいけない薬のカラクリ』(小学館)、『生涯論文!忙しい臨床医でもできる英語論文アクセプトまでの道のり』(金芳堂)、『エキスパートが疑問に答える ワクチン診療入門』(金芳堂)がある。ジャーナリズムNGO・ワセダクロニクルで『コロナ世界最前線』連載中。

  • 取材・文井出千昌

    フリーライター。「ナニコレ面白そう〜」だけでウン十年もライターを続けている。ファッション誌・情報誌・音楽雑誌・ウェブなどジャンルはさまざま。コロナ騒動で家に眠っていたマスクを総動員させるが、唯一手をつけていないのが、鼻が当たる部分にイカついノーズクッションがついているタイプ。「メガネのくもり99%カット。花粉・ウイルスを含む飛沫99%カット」の謳い文句に魅かれつつも、こんな形のマスクをつけている人はあまり見たことがなく、つける勇気がないまま今に至る。

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