『MIU404』でやっぱり魅せた 綾野剛の「変幻自在」 | FRIDAYデジタル

『MIU404』でやっぱり魅せた 綾野剛の「変幻自在」

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「綾野剛は裏方」と自身が言う理由

TBSの連続ドラマ枠は3つあるが、好評なのは『半沢直樹』と『私の家政夫ナギサさん』だけではない。綾野剛(38)と星野源(39)がダブル主演している『MIU404』(TBS、金曜午後10時)も快調に回を重ねている。

初回から最新の9話まで全て2桁台の世帯視聴率をマーク。録画視聴率を合わせた総合視聴率の最新データ(8月3日~同9日)は全番組中3位で、『ポツンと一軒家』(テレビ朝日系)より上だ。

物語はすでに終盤。警視庁第4機動捜査隊に所属する伊吹藍(綾野)と志摩一未(星野)が捕らえなくてはならない真の悪党は、久住(菅田将暉、27)という謎の若者だった。だが、久住は狡猾。簡単には逮捕できそうにない・・・・・・。

ドラマの仕上がりは出色。辛口トークで知られる梅沢富美男(69)も絶賛し、「今ハマっている。DVD出たら買っちゃうかも」「やっぱり買う!DVD」と、SNS上で宣言したほど。

野木亜紀子さんによる脚本が絶妙で、出演陣がそろって好演し、演出もハイレベルだからにほかならないが、ここでは綾野にフォーカスを合わせてみたい。

綾野の演技はどの作品でもリアル。今回も相棒の志摩が「野生のバカ」と評する伊吹に成りきっている。ただし、真に迫った演技をするだけに、その役作りや仕事に臨む姿勢は半端じゃない。

主人公の悪徳刑事・諸星に扮した映画『日本で一番悪い奴ら』(2016年)では、体重を約10キロ落とした。もともと太ってないのだから、きつかったに違いない。

その上、諸星の暮らしが荒みきった場面の撮影では、目に塩をまぶし、血走らせた。まるで同『野獣死すべし』(1980年)の撮影前に10キロ減量し奥歯を抜いた故・松田優作さんのようだ。

逆に主人公の金髪スカウトマン・龍彦に扮した『新宿スワン』(2015年)では血気盛んな男という設定だったため、体重を増やした。確かに龍彦はふっくらしていたからこそ、やんちゃな感じがうまく出たのだろう。

その1年前の2014年、函館市を舞台にした同『そこのみにて光輝く』の撮影時には、市内で毎夜、酒を飲んだ。これは体重の増減とは無関係。演じた主人公・達夫が自堕落な生活を送っているという設定だったため、連夜の酒で顔をむくませたのだ。徹底しているのである。

その甲斐あって、この映画ではキネマ旬報ベスト・テンの主演男優賞や毎日映画コンクールの男優主演賞などの各賞を獲得した。総ナメ状態だった。

もっとも、役作りに懸命なのは自分の賞や評価が目的ではない。綾野は口癖のようにこう言い続けている。

「綾野剛は裏方。僕は役の人物に体を貸しているだけ」(2015年5月30日付読売新聞大阪夕刊)

参加した作品を良いものにしたい一心なのだ。

だから共演者とのチームワークも大切にする。妻夫木聡(39)とゲイのカップルを演じた同『怒り』(2016年)の撮影時には男同士で生活する雰囲気をしっかりと掴むため、妻夫木と一緒に暮らしたほど。

『コウノドリ』(TBS、2015年、2017年)で共演した星野とも仲がいい。道理で『MIU404』での2人は息が合っているわけである。

綾野は「憑依型」の役者とも評される。まるで役が憑依したかのように、綾野が成りきるからである。

実際、『コウノドリ』では、優しくて穏やかな産婦人科医・鴻鳥サクラにしか見えなかった。やはり優しいものの、粗野で無教養な伊吹とは大違い。同じ役者が演じているとは思えないくらいだ。

映画『楽園』(2019年)では気弱で内向的な青年を演じた。母親がヤクザから嫌がらせを受けても怯えるばかり。幼女誘拐事件の疑いをかけられると、狼狽し、釈明もせずに逃げ回った。『新宿スワン』で演じた強気一辺倒のスカウトマン・龍彦とは180度違う。あまりに見事な演じ分けなので、本当に役が憑依しているように思えてしまう。

運動神経の良さも強み。それは『MIU404』でも生かされている。

第9話を振り返りたい。伊吹は、闇カジノのオーナー・エトリ(水橋研二)にさらわれた羽野麦(黒川智花、31)の救出に向かった。

麦は闇カジノの情報を警察に流したことからエトリに狙われ、隊長の桔梗ゆづる(麻生久美子、42)に匿われていた。伊吹にとっても身内のような存在だった。

伊吹は暴力団・辰井組の事務所内で、麦がさらわれたことを知ると、怒りに震え、手がかりを知る男・澤部(福山翔大、25)を追い掛け始める。その際、辰井組のビルの2階から飛び降りた。

この場面はスロー再生で放送された。どう見ても飛び降りたのは綾野本人だ。スタントマンは使われていない。伊吹はその後、猛スピードで走り、澤部を追った。上半身が前屈みになっておらず、腕の振りも良く、中短距離走のお手本のような美しいフォームだった。

それもそのはず。綾野は中高時代、陸上部に所属。中学では岐阜県大会の800メートル走で優勝した。岐阜県でナンバーワンだった。高校でも準優勝。地域のトップアスリートだったのだ。

出身は岐阜市。地元の高校を卒業した2000年に上京した。モデルの仕事もした後、2003年に『仮面ライダー555』(テレビ朝日)で役者デビュー。人間の心を捨てきれない怪人・スパイダーオルフェノクに扮した。

ブレイク・ポイントはNHKの連続テレビ小説『カーネーション』(2011年度下半期)への出演だった。尾野真千子(38)が演じたヒロイン・糸子の恋の相手役、紳士服職人の龍一に扮した。

趣味で三味線を弾くなど優美な龍一が話題となり、わずか3週間限りの登場だったが、この間に『カーネーション』の最高視聴率(21・5%、ビデオリサーチ調べ、関東地区)が記録されている。

NHK大河ドラマ『八重の桜』(2013年)で演じた悲劇の会津藩主・松平容保もジャンピング・ボードとなった。知的で品があり、強い意思も感じさせた容保も耳目を集めた。

国民的番組とも称される朝ドラと大河によって綾野の存在と演技力が知れ渡った。

私生活はというと、独身。一方、星野をはじめ、同性の友人は多い。ドラマと映画の『闇金ウシジマくん』(TBS系)などで共演した山田孝之(36)とは一緒にバンド「THE XXXXXX」を組むほど親しく、同じ事務所の小栗旬(37)とも親密だ。

綾野の最大の楽しみはそんな仲間たちと飲み食いをすることなのだという。

気の早い話かもしれないが、伊吹の次は何を演じるのか? 演技の幅が途方もなく広いので、まったく読めない。

 

文:高堀冬彦 ライター、エディター。1964年、茨城県生まれ。スポーツニッポン新聞社編集局文化社会部記者、同専門委員、毎日新聞出版社サンデー毎日記者、同編集次長などを経て独立。スポニチ時代は放送記者クラブに所属

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