歌舞伎町ホストが詠んだ『ホスト万葉集』が教えてくれること

短歌は最強のコミュニケーション&恋愛ツール

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歌舞伎町のホストたちが短歌を詠んでいるという。それが、歌集になった。『ホスト万葉集』。短歌専門の出版社から7月に刊行、歌集としてはたいへんよく売れて、2度目の重版が決まった。

歌舞伎町 夢と希望と欲望に うずまく町、町、人、人、町、町(桜木開)

眠らない街といわれる歌舞伎町 なのに寝ている 道路に人が(ゆきや)

詠み人は歌舞伎町のホスト75人。巻末には、彼らの顔写真も掲載されている

新型コロナの感染対策が右往左往するなか、悪者呼ばわりされている「夜街」の代表格、新宿・歌舞伎町。なかでもホストクラブは「危ない」感じを湛えている。

見つめ合い あ、これダメだね 照れ笑い カラダは話すもココロは密で(MUSASHI

もともとは「密」であることが常態だったんだと思う。そしてそこでは

「伝えたい 会えない日々が続くから」振込先の口座番号(宮野真守)

という、恋のような営業のようなやりとりがなされているようだ。なぜ、ホストたちが短歌を?

「短歌ってなに?」というホストもいたけれど

『ホスト万葉集』の選者で、歌人の小佐野彈(おさのだん)さんはいう。

ホストと短歌って、親和性が高い。短歌はもともと、恋のツールですから」

きっかけは、コロナ以前の2018年7月。

「歌舞伎町ブックセンターで、僕の歌集『メタリック』のリリースイベントをしました。そのとき『ホストたちの短歌詠み』企画をやったんです。5人のホストが登壇して、その場で短歌を作る企画。ホストが文芸とか短歌とかってどうかなと思ったんだけど、できた歌が、ふつうに『うまっ!』って。驚いたんです。翌日、俵万智さんに会ったときにその話をしたらおもしろがってくれた。それから、月1回くらいのペースで、ホストたちと歌会をはじめました。2年やって900首くらい集まったので、歌集を出そう!ということになって」

開店前のホストクラブで歌会を重ねた。選者の歌人3人をかこむホストたち。中央が俵万智さん、向かって右が野口あや子さん。左はホストではなく小佐野彈さん(2019年撮影)

2020年、新型コロナで歌舞伎町が死んだ

歌舞伎町 東洋一の繁華街 不要不急に殺される街(江川冬依)

そんな矢先のコロナショック。歌舞伎町は仮死状態に。「営業できない期間を『自分磨き』の時考え」て、ホストたちはzoomで歌会を続けたという。

「ごめんね」と泣かせて俺は何様だ誰の一位に俺はなるんだ(手塚マキ)

手塚さんは、ナンバーワンホストから26歳で起業。今は歌舞伎町でホストクラブ、BAR、美容室、歌舞伎町初の書店も経営している。この歌集の中心作者だ。

『ホスト万葉集』に収録された295首には、ホストクラブで取り交わされる、恋のような営業のような、クールなようでむせ返るような濃密なやりとりが横溢している。駆け引き上手のようでいて、ストレートなのだ。

追いついて追い抜かれての繰り返し恋なんてもうそれでいいのに

人を剥き殻を探して閉じこもる そういう街なの孵化などしない

錆びてなお耐えて耐えて耐え抜いて磨き続ける 輝く日まで

ホストと客の恋情だけでなく、あんがい「体育会系」だというホストクラブの内情や、ホストたちの仕事にかける思いが赤裸々に歌われているところも興味深い。歌には、「姫」「被り」「シャンコ」など、聴き慣れないホストクラブ用語が使われていて、丁寧な「注」がついていたりする。

一人(いちにん)の客として会ふ夜なれば胸に顔出すちひさき阿修羅(小佐野彈『メタリック』より)

歌人で作家の小佐野さんは台北在住。この半年、日本に帰れず「zoomでのホスト歌会、日本との繋がりが愛おしい」という。「読者として読んで、彼らの歌にものすごく救われている」

愚直なホストの放つ「言葉の瞬発力」が思いを伝える

「まさか彼らと、短歌で接点ができるとは。文芸にはぜんぜん触れてなかった人がほとんどですから。ホストたちって、愚直なんです。文学的素養もとくにない。だから、使う言葉がストレート。奇を衒(てら)うんじゃなく、期せずして奇が生まれるような。でもね、言葉に瞬発力があります。お客さんとの会話や、営業LINEで鍛えた力。

通信ツールがメールからLINEになって、短文で人とやりとりすることが増えた現代社会と短歌って、めちゃめちゃ相性がいいと思う。短歌は、ホストに限らず現代人にとって、すごく便利な実用的なツールだと思いますよ。思いを伝える手段として、短歌、とてもいいです」(小佐野さん)

短歌を「たしなみ」として精進する歌舞伎町のホストたち。悪者扱いにもめげず、今日も姫に「愛」を語り「恋」を詠む。第2弾も、すでに計画中だという。

愛してる口先だけで言われたと分かっていても魔法の言葉(佑哉)

彼らのココロのうちが覗ける『ホスト万葉集』。その歌に触れて、わたしたちが日々交わす言葉も、もっともっと鋭敏になれるかもしれない。

■本文中の歌は『ホスト万葉集』(1300円+税/短歌研究社刊)より。

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