原案はピンク映画?!震災の人間ドラマ『れいこいるか』の魅力

急死した階戸瑠李さんもTwitterに投稿していた

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伊智子役の武田暁(左)と夫の大助役を演じた河屋秀俊(右)。河屋は北野武監督の「HANA-BI」や阪本順治監督の「顔」など個性派監督の映画に出演してきた🄫国映株式会社

1995年『彗星まち』でピンク映画監督としてデビューをしたいまおかしんじ監督が、25年の節目を前に初の自主制作映画『れいこいるか』を公開。阪神・淡路震災で幼い一人娘を亡くした夫婦の23年間の軌跡を描いた同作は、8月8日から東京・大阪・神戸の3館で公開が始まった。

封切り直後からソーシャル満席状態が続き、すでに全国17か所で公開することも決まっている。なぜ客足がとまらない映画になったのか、その魅力の源泉に追るべく神戸の元町映画館でインタビュー取材を行った。

一度却下された原案を24年間温めてきた

監督デビューの翌年、震災をテーマにした『れいこいるか』の原案をピンク映画として制作を試みたといういまおか監督だが、当時の女性プロデューサーに「子供が死ぬような悲しいお話は嫌だ」と却下されたという。

以後このシナリオを形にできないかと思い続けていたある日、上映イベントなどを企画している朝日映劇の川本じゅんきプロデューサーから資金提供の申し出があった。「当時の脚本を撮るなら震災が起きてから今に至る20数年間のお話にすれば、撮る意味があるんじゃないか」といまおか監督は映画制作が再び始動した。

予算150万円で撮影を開始したが、夏頃には資金が足りなくなったという。川本氏が用意していた公開準備金の100万円を追加し、250万円で映画を完成させた。川本氏は「商用映画ではなく自主映画だからということに甘えて、スキルのあるスタッフやキャストの方々に低予算で映画制作をお願いして大変申し訳なかったという気持ちでいっぱいです」と心情を明かすが、その分、映画製作の過程で様々な工夫をこらした。

キャスティングは関西在住の俳優で固め、春夏秋冬の季節ごとに日にちを限定して撮影を進めた。関西演劇界で活躍、映画は初出演となる武田暁は「映画の世界もピンク映画の世界も知らなかったのですが、こんな経験は二度とないかもしれない」と引き受けた。本作品が完成し盛況が続いているのは、いまおか監督はじめ俳優陣やスタッフ全員の熱意があったからに他ならない。

阪神・淡路大震災により幼い一人娘のれいこを亡くした伊智子と太助。その後夫婦は離婚し、それぞれの道を歩んでいく。四季が巡るように、2人の関係も徐々に変わっていく。そして偶然再会した2人は、お互いに抱える心の傷に触れ合い、わだかまりが溶けてゆく、というストーリである。

🄫国映株式会社

「人間は誰しもが日々罪を犯しながら生きている」

原案の舞台は東京浅草辺り。震災から一年後、別れた妻は吉原のソープで働き、そこに元旦那が会いに行くお話だった。しかし「震災後の20数年間を東京で撮るのは違うんじゃないか、震災のあった神戸なら何か映るんじゃないか」と脚本家の佐藤稔氏と話し合い、神戸でシナリオハンティングを開始した。さて一見幸せそうな家族団らんの陰で妻の不貞がリアルに描かれているが、この設定には元ネタがあったのだろうか。

「映画の中で出てくる、娘を亡くし、妻の不倫が分かって離婚する話って…そういうのってタイミングが悪い時って悪いことが重なることって、現実の世界でもありますよね。そのことが「傷」にもなるというか……。タイミングがズレていれば悪いことかもしれんけど、助かったことかもしれんし……。ただあのシチュエーションは原案があったわけではなく、自然と出てきたものです」(いまおか監督)

いまおか監督が印象に残ったシーンのひとつに、伊智子と太助の最初で最後のラブシーンをあげた。妻の不貞で一度は離婚した2人が久しぶりに偶然再会し、愛を確かめ合うシーンでは、いまおか監督が考えていた演出の意味合いを超えた表現を俳優が演じてみせた。

「伊智子と太助が旅館でセックスしようとしたけど、太助が“勃たへんのや”というシーンでは、台本上では今現在“勃たない”という意味に受け取れるんですけども、芝居をやってみると、太助はもう子供が死んでから23年間1回も“勃ってない”んだという風に見える。ああ、そうかー、と」(いまおか監督)

この作品は劇伴も好評で、イルカの鳴き声や波の音を遠くに感じるほどに、あまりにも自然と作品の世界に入り込んだ曲や、セリフや効果音もなく劇伴のみでシーンを観せる。エンディングテーマ曲「REIKOIRUKA」は、心の中に大切にしまっている想いに優しく話し掛けるような楽曲である。この作品の音楽を担当し、8月28日に急死した階戸瑠李さんも出演する現在公開中の映画『東京の恋人』を制作した下社敦郎監督はこう明かす。

「劇伴は芝居の邪魔にならないようにしてます。『え、鳴ってたっけ?』と言われるくらいが実はいいのかもなと。エンディング曲は僕の趣味ですけど、この作品のことやいまおかさんの雰囲気を踏まえて作りました。

わりとこの映画は、作家が『世界』に対して捉えている眼差しに近いのかなと思います。いまおかさんが日常的によく言っている『どうでもいい』『どうなってもいい』といった言葉は、額面どおり投げやりな意味ではない。しっかり人間を描き、肯定することにおいて昇華された作品のように思えました」

さらに、全国順次公開中の映画『アルプススタンドのはしの方』の城定秀夫監督はこう明かす。

「大切なものを亡くし、なすすべなく残されてしまった人たちの喪失と再生、罪と罰、そして赦しの物語を、いまおか監督ならではの柔らかな手つきで粛々と紡いだこの映画を前に自分はただ涙を流すことしか出来ませんでした。

人生は苦行で、人間は誰しもが日々罪を犯しながら生きており、その報いとして与えられた絶望を前にして出来るのは祈ることだけなのかもしれないということを、映画は包み隠さず突きつけてきます。でも、信じて生き続けてほしい。赦しの時は必ず訪れます。時の流れは残酷ですが、いずれは『まーイーカ……』という神様の声が聞こえてきます。そんな、すべての人たちをそっと肯定してくれる、このうえない優しさに満ち溢れた映画です」

いまおか監督は自身の映画づくりについてこう語る。

「映画の多くは題材やテーマがあり、ある種の感動を持つものもありますが、僕は観ていてわかることはそんなに面白くはないというか…何かをわからすために映画はあるんじゃないというか。よくわからないけど、何か心に残るというか言葉にできないものを90分とか長い時間をかけて一つのことを伝えるイメージで作っています」

 

◆いまおか監督と親交があり、2021年に松坂桃李主演『あの頃。』などを全国公開予定の今泉力哉監督

「人間を描くってこういうことだと思う。悲しいことを面白おかしく湿っぽくならずに描く。ずっとふざけてて。いまおか監督の「照れの美学」がかっこよくて。あんなファーストカットとあんなラストカットが撮れたら。あんな映画が撮れたら」

映画『れいこいるか』予告編リンク

いるかの人形を抱いて気持ちよさそうに眠る娘のれいこ 🄫国映株式会社
伊智子を演じた武田暁(中央)。いまおか監督(手前)から京都の飲み屋に呼び出されて、「脱ぐ」ことを説得されたという
神戸の元町映画館で行われた舞台挨拶。左から、天才卓球少年の母親役の西山真来、伊智子役の武田暁、大助役の河屋秀俊、いまおかしんじ監督

いまおかしんじ


1965年生まれ、大阪府出身。瀬々敬久、神代辰巳らの助監督を経て『彗星まち』(95)で監督デビュー。2011年にはクリストファー・ドイルを撮影にむかえた日独合作映画『UNDERWATER LOVE おんなの河童』を発表。代表作に『たまもの』(04)、『つぐない 新宿ゴールデン街の女』(14)、『あなたを待っています』(16)など。脚本家としても活動し、『苦役列車』(12)、『超能力研究部の3人』(14)『こえをきかせて』(18)などがある。

  • 取材・文椙浦菖子撮影菊地弘一(舞台挨拶、映画製作、監督インタビュー)

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