『MIU404』が語り継がれる傑作ドラマだと言い切れるワケ | FRIDAYデジタル

『MIU404』が語り継がれる傑作ドラマだと言い切れるワケ

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PHOTO/AFLO
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これはヒューマンストーリーだ

名推理によって事件が解決するわけではない。犯人との銃撃戦もない。おまけに主人公の伊吹藍刑事(綾野剛、38)と志摩一未刑事(星野源、39)が乗っているのは「まるごとメロンパン」の移動販売車……。

TBSの異色刑事ドラマ『MIU404』(TBS、金曜午後10時)が9月4日に最終回を迎える。いや、刑事ドラマと称するのは間違いなのかもしれない。単純に事件と捜査を描くドラマではないのだから。

水と油の関係だった伊吹と志摩に強固な信頼関係が生まれるまでのプロセスが浮き彫りにされた。相棒を死なせてしまったことによる喪失感と罪悪感にさいなまれ続けていた志摩の再生も描き出された。

恩人の失意と大罪に気づいてやれなかった伊吹の悔悟もまざまざと示された。なので、警視庁第4機動捜査隊を舞台にしたヒューマンストーリーと考えるのが正しいのかもしれない。

刑事ドラマの保守本流である『相棒』(テレビ朝日)のような完全1話完結方式でもない。最終回で伊吹と志摩が対峙する久住(菅田将暉、27)は第3話の時点で既に登場していた。

久住は当初、若者を言葉たくみに利用する小悪党に見えたが、回を重ねるに連れて、徐々に正体が見えてきた。他人を自分が利益を得るための道具としか考えず、人殺しも平気でやる根っからの悪党だ。人間のクズである。

前回第10話で伊吹と志摩は、久住にあと一歩まで迫りながら、取り逃がす。久住がありもしない同時多発爆弾テロを喧伝したため、2人はフェイクの爆弾テロ現場のひとつである病院に急行してしまった。犯人逮捕より被害者の救出を考えた。それが2人の譲れないポリシーであるものの、裏目に出た。

久住の策略にはまった伊吹は憤怒。無線連絡でこう叫ぶ。

「機捜404から1機捜本部、北目黒病院の爆発は確認できず。港区の爆弾使用殺人事件の犯人による攪乱だ!容疑者は20代。通称、久住!」

だが、久住の逮捕は簡単ではないはず。伊吹自身、無線連絡の最後でこう言っている。

「見た目の特徴は……。分かんねーよぉ、くそぉ!」

頼みの綱は久住の使い走りをやっていた高校生・成川岳(鈴鹿央士、20)の証言だ。久住の正確な似顔絵を作成できるかどうかがカギになるだろう。成川は虚偽の110番通報を行った事件の容疑などで、4機捜の仲間である九重世人(岡田健史、21)が逮捕した。

久住の逮捕以上に気になるのは同じく4機捜・陣馬耕平刑事(橋本じゅん、56)の生死である。同じく第10話の終盤で、久住が運営するドラッグ製造工場から逃走を図ったトラックと衝突した。体を張って証人と証拠を押さえようとしたのだ――。

このドラマはクール。米津玄師(29)による主題歌『感電』は無論のこと、登場人物のキャラクター、セリフ、映像で、野暮ったいところが全くない。ここまでクールなドラマは近年、なかったのではないか。

テーマは深遠。煽り運転問題(第1話)、パワハラ問題と父子の断絶(第2話)、居場所を失った少年たちの空虚(第3話)、一度犯罪をおかした者の社会復帰問題(第4話)、外国人の労働力を搾取する日本の精神的貧困(第5話)、喪失感と罪悪感からの再生(第6話)、逃亡生活の哀しみ(第7話)、最愛の人の命が奪われるということ(第8話)、愛する人を守る、救うということ(第9話)、フェイクニュース(第10話)。現代社会に横たわる病理を中心にさまざまな問題が描かれた。

これらの問題とは別に、脚本を書いた野木亜紀子さんは、ネット社会における「善意」と「正義」の危うさを訴えかけているに違いない。誰にとっても身近な問題だ。

例えば第3話。虚偽の110番を繰り返していた高校の元陸上部員たちを4機捜が逮捕した。成川の仲間たちだ。その後、4機捜の隊長・桔梗ゆづる(麻生久美子、42)は、こう憤った。

「未成年にもかかわらず、ネットで実名と顔写真が出回った。ネットで広まったおかげで、本来、受けるべき以上の社会的制裁を受けている。罪を裁くのは司法の仕事。世間が好き勝手に私的制裁を加えていい理由にならない」

桔梗が言う通り、日本は罪刑法定主義。私的制裁は憲法が禁じている。だが、今は罪を犯したり、反道徳的な行為を働いたりすると、ネットによって重い仕打ちを受ける。制裁を与えるのは特別な人ではなく、善意と正義の人たちだ。

また、闇カジノのオーナーだったエトリ(水橋研二、45)は、自分を警察に売った羽野麦(黒川智花、31)を探すため、麦に1000万円の懸賞金をかけた。それに釣られた成川岳は第9話で、ニュースサイトを運営する特派員REC(渡邊圭祐、26)に対し、一緒に探そうと持ち掛ける。

誘いに乗ったRECは麦の写真に「娘と孫を探しています」などと嘘の情報を付け、SNSで流布し、簡単に居場所を突き止めた。情報をRECに提供したのはやはり善意と正義の人である。

ネットはビジネスを進化させ、暮らしを豊かにしたが、いつの間にか人間を危険にさらすようになり、傷付けるようにもなっている。このドラマを見ていると、それを思い知らされる。野木さんの問題提起なのだろう。

第10話では久住もネットの善意と正義を悪用した。同時多発爆弾テロの犯人が乗っているのは、メロンパンの車だとSNSで流した。伊吹と志摩の車だ。

すると、メロンパンの車の位置情報が次々とSNSに上げられたため、久住は2人の居場所や異動ルートを難なくキャッチ。逃走に成功する。やはり情報提供者は善意と正義の人たちだった。

ほかにもドラマからメッセージを感じる。それは「スイッチ」である。「出会い」と訳してもいいはずだし、「転機」「分岐点」と捉えてもいいに違いない。

第6話で伊吹は志摩が着せられた「相棒殺し」の汚名を晴らそうとした。若手刑事が転落死した原因を突き止め、志摩を罪の意識から解放しようと考えた。桔梗から志摩との相棒関係なんて一時的なものなのにとたしなめられると、伊吹は1個1個のスイッチを大事にしたいと反論した。

一方、志摩も伊吹とのスイッチを特別なものと考えた。知力は欠けるが、人を愛する力と情熱は突出している伊吹と組んでいけば、誰かの未来を良い方向に導けると思い至る。

最終回では陣馬の生死が判明する。伊吹と志摩のいい兄貴分であり、息子の結婚が決まったばかりの陣馬に万一のことがあったら、2人の久住への怒りは沸点に達するに違いない。かつては陣馬の相棒だった桔梗も思いは同じはず。4機捜で過ごすうちに鼻持ちならない合理主義者から人間味に満ちた男に変容した九重だってそうだ。

4機捜メンバーは熱くてカッコイイ。メロンパンの車に乗っているのに、見る側をシビれさせる。放送終了後には「『MIU404』ロス状態」に陥るファンが続出するに違いない。

<文:高堀冬彦 ライター、エディター。1964年、茨城県生まれ。スポーツニッポン新聞社編集局文化社会部記者、同専門委員、毎日新聞出版社サンデー毎日記者、同編集次長などを経て独立。スポニチ時代は放送記者クラブに所属>

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