土壇場生『半沢直樹ライブ』はなぜ成功したのか?数字で分析

視聴率22.2%を稼いだ秘密が見えてきた!

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スタジオバラエティとしても大成功した『半沢直樹』。もちろん堺雅人の力は大きいが、キャラの立った脇役も欠かせなかった

コロナ禍で撮影が遅れ、急遽放送となった『生放送!!半沢直樹の恩返し』。

どれだけ見られるか心配されたが、蓋を開けてみると平均世帯視聴率22・2%(ビデオリサーチ関東地区)と大成功だった。

視聴データを分析すると、ピンチヒッターがとんでもない大ホームランをかっ飛ばした様が浮き彫りになる。

なぜ成功したのか、考察してみた。

驚異の“つかみ”でロケットスタート!

実は同番組は、冒頭3分で大成功が保証された。

7月19日初回から8月30日第7話までと、緊急ライブの冒頭4分を比較してみよう。

ドラマの際には9時ちょうどからの4分間で、毎話6%前後の流入があった。それまで他局を見ていた人々が、『半沢直樹』を見るためにTBSに慌ててチャンネルを合わせている。

一方、それまでTBSを見ていて、9時からの裏番組へ流出していった人々は2%前後。結果として接触率は、冒頭4分で3%前後上昇するのが常だった。

ところが緊急ライブでは、冒頭4分で9%弱の人々が流入した。

ドラマの時の1.5倍ほど。流出は若干多めだが3%ほどで済んでいる。結果として接触率は、6%弱も急上昇したのである。

半沢直樹(堺雅人)の目元アップから、ゆっくりゆっくりズームバックするファーストカット。

音声は黒崎(片岡愛之助)の叱責する声。そして渡真利(及川光博)を含めた3人の演技では、「直樹ぃ~」「その手があったか!」「施されたら施し返す」など、ドラマで有名となったパワーワードが惜しげもなくポンポン飛び出す。

スタジオに戻った後、「あれを撮る時間があったら本編撮れるんじゃないか?」とアンジャッシュの児嶋一哉(議員秘書役)にツッコミを入れられていたが、それほど良く出来たオープニングドラマは、驚異の“つかみ”となって接触率を急伸させたのである。

これを見た瞬間、多くの人が「緊急ライブは絶対おもしろい」と確信したに違いない。

飽きない進行

スタジオに戻ってからの進行も見事だった。

ドラマが続いている中で裏話を披露してしまう従来にない企画は、『半沢直樹』ファンにとって魅力的な要素が満載となった。

 

振り返りのVTRでは、大和田(香川照之)と半沢の「お~ね~が~い~し~ま~す」のやりとり。

2020年版最初の登場で「おしまいDEATH!」とやる大和田と半沢のシーン。しかもその後に、堺雅人が笑いを堪えた後に崩れ落ちる未公開映像も披露された。

3つ目のVTRは、「さぁ」「さぁ」「さぁ」と曽根崎(佃典彦)を詰め寄るシーン。普通は一人でやるところを、大和田と半沢が絶妙な呼吸でやった歌舞伎の常套句も、皆がもう一度見たいと思っていたシーンだ。

さらにボツとなった歌舞伎の常套句シーンも紹介された。大和田と伊佐山(市川猿之助)が、料亭で交互に笑い、最後は一緒に哄笑する演技だ。

他にも渡真利や黒崎の名シーンをダイジェストにしたVTRもあったが、やはりベストシーンは大和田「おしまいDEATH!」の後に、我慢の限界を超えた堺雅人が崩れ落ちる瞬間となった。

全国で約210万台のインターネット接続テレビの視聴動向を調べるインテージ「Media Gauge」。

その視聴データでは、どの瞬間に視聴者が番組から流出しているか詳細な分析が可能だ。それによると、堺雅人の未公開シーンは、45秒に渡って流出率が0.04%を下回った。ドラマの際にも滅多に出ない記録だ。

如何に多くの視聴者が注目したかがわかる。

曽根崎を大和田と半沢が詰める歌舞伎の常套句シーンも圧巻だった。
1分半の流出率平均が0.06%。やはりドラマ本編に匹敵する記録となった。

こうした力のあるVTRと、その裏話をトークで展開する構成は見事だった。

スタジオ部分でも流出率が0.1%未満となるコーナーが続いた。大半の視聴者が飽きる暇がなかった証拠である。結果として番組は、接触率が右肩上がりとなり、急造のスタジオバラエティなのに世帯視聴率22・2%という驚異的な記録となったのである。

視聴者層の変化

視聴率や接触率など、全体の数字は極めて好調だった緊急ライブ。

特定の視聴者層別に接触率を分析できるスイッチメディアラボによると、緊急ライブはドラマとは変化していたことがわかる。まず男女年層別では、3+層(男女65歳以上)が目立って減少している。スタジオトークを中心としたガチャガチャした番組が苦手な高齢者が多いことを反映した数字と言えよう。

次に男女では、男性に大きな変化が見られないのに対して、女性はT層(13~19歳)から3-層(50~64歳)まで、軒並みドラマの平均より数字が高い。
ドラマ上の役と実際の役者とのギャップや、撮影秘話などを楽しみにしていた女性が多かったことがわかる。

続いて性年齢ではなく、特定のカテゴリーや関心事別に接触率をみると、一定の傾向が見えてくる。

まず中高生には変化が見られなかったが、大学生はライブで急伸した。

製造業や平社員では一般の人々同様ほぼ変化がないが、金融関係で働く人々や部課長などの管理職は、ライブで数字を落としている。ドラマでの情報性や生々しいやりとりに興味があっても、ドラマの裏話などには食指があまり動かないようだ。

その意味では、映画・ドラマ好きやお笑い・バラエティファンが、緊急ライブをよく見ている点も興味深い。

ドラマ継続途中で裏話が披露されることで、ドラマの楽しみ方が倍増したと感じている人が少なくないようだ。その意味では、今後こうしたやり方に可能性が出てくるかもしれない。

またお笑い・バラエティファンも歓迎した。スタジオバラエティとして、異常に高い数字となったことを勘案すると、『半沢直樹』という強いネタをベースにすると、バラエティも極上の出来になることを証明したと言えそうだ。

いずれにしても、緊急ライブは『半沢直樹』の新たな視聴者層を開拓していた可能性が高い。

実はその点は、視聴者がどう連続ドラマを見ているか、様々な観点から分析可能な東芝「TimeOn Analytics」でみると興味深い。

例えば視聴者が1話ももらさず見ているのか、見たり見なかったりしているのか、どの回から初めて見る人がどれだけいるのかのデータ。これによると、緊急ライブで初めて『半沢直樹』に触れた人が2.9%ほどいる。やはり視聴者層の新規開拓に成功していた。

こうした目先を変えたやり方は、話題に乗り遅れた視聴者の救済策に使えそうだ。

ただし懸念もある。

毎回欠かさず見ていた人々が1%弱減ってしまった。途中から見続け来た人も含めると2%弱となる。こうしたやり方を歓迎しない人もいるということだ。離脱者が増えている点からも証明される。

実は録画予約率も、ちょっと心配だ。

人々は連続ドラマをシリーズ予約している場合が多いが、今回は緊急ライブで別番組と録画機は認識した。結果として録画しなかった人が15%ほどに達する。
これまではライブで見逃しても、録画再生で12%前後が見逃し視聴していた。ところが今回はその過半が消える。つまり2週間開けてしまう人が5~10%ほど出る。

こうした人が第8話でどう反応するかが見ものである。

以上のように、大成功をおさめた緊急ライブは、新たな視聴者層を開拓しつつも、録画という落とし穴で躓いた。

このプラスとマイナスを経て、終盤3話がどうみられるか。話題の『半沢直樹』は、最後まで注目させる運命にあるようだ。

  • 鈴木祐司(すずきゆうじ)

    メディア・アナリスト。1958年愛知県出身。NHKを経て、2014年より次世代メディア研究所代表。デジタル化が進む中で、メディアがどう変貌するかを取材・分析。著作には「放送十五講」(2011年、共著)、「メディアの将来を探る」(2014年、共著)。

  • 写真時事通信社

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