澤村拓一「格差トレード」から見える”球界の働き方改革” | FRIDAYデジタル

澤村拓一「格差トレード」から見える”球界の働き方改革”

年俸1億5400万円と650万円の1対1トレードの背景に「選手は球界の大事な財産」の考え

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ロッテ『コアラのマーチ』を手に移籍会見に臨んだ澤村。巨人時代にはこんなシーンは見られなかったが……。
ロッテ『コアラのマーチ』を手に移籍会見に臨んだ澤村。巨人時代にはこんなシーンは見られなかったが……。

かねてから噂されていた巨人・澤村拓一のトレード話がついに現実のものとなった。

巨人で行き場を失っていた澤村。チームがトレードの“弾”とするのは理解できるが、驚いたのはトレード相手だった。

今季は不振をかこっていたとはいえ、澤村はドラフト1位入団で過去には新人王、セーブ王にも輝き、推定年俸も1億5400万円の一流プレーヤー。交換相手となったロッテの香月一也の通算出場試合数はプロ6年でわずか47試合、通算打率も.175、推定年俸は650万円という選手だ。

巨人は「左の強打者」を求めていたということだが、澤村を放出しての1対1のトレードというのは、いささか首をかしげざるを得ない。

実際、ネット上では「香月って誰?」「同じ左打者なら、平沢大河(2016年ドラフト1位の内野手)の方がよかった」という投稿が散見した。だが、こんな声も聞かれる。

「今季の巨人ベンチを見ると、右の代打は石川慎吾、楽天からトレードで獲得したウィーラーらがいて層が厚いけれど、左の代打となると一番手は俊足がウリの重信慎之介という状況で、いささか寂しい顔ぶれ。重信にはない長打を望むのであれば香月の需要はあると思われます」(プロ野球ライター)

確かに今季の重信の代打出場時の打率は.214(9月10日現在)と振るわず、本塁打も1本のみ。今季は代打での起用も多い左打者の亀井善行は打率.385と好調だが、7月で38歳。年齢を考えると、香月の獲得へと舵を取るのもうなずける。

2014年の高校日本代表が巨人にそろい踏み

しかし、もうひとつ、香月獲得の理由があった。それはなんと「現在の巨人になじみやすい」というのものである。

「大阪桐蔭出身の香月は、2014年夏の甲子園大会優勝メンバーですが、甲子園後に行われた第10回 BFA 18Uアジア選手権の日本代表としても出場しているんです。

全試合で5番打者を務めましたが、この時のクリーンナップは3番岸田行倫(捕手・当時報徳学園)、そして4番が岡本和真(内野手・当時智弁学園)。二人とも巨人に入団しています。

『顔馴染みが多いチームならプレーしやすいだろう』という配慮も多分にあったと思います。ロッテでくすぶっていた香月にとってはかなりプレーしやすい環境で、今季24歳という若さを考えても大化けしても不思議はありません」(同ライター)

JAPANのユニフォームを身にまとい、クリーンナップを打った3人がくしくも6年ぶりに同じユニフォームを着てプレーする――。アマチュア野球ファンからしたら、感慨深いトレード劇と言えるだろう。

大阪桐蔭時代の香月。高校日本代表でクリーンナップを打った岡本と岸田とは、プロでもチームメイトになる
大阪桐蔭時代の香月。高校日本代表でクリーンナップを打った岡本と岸田とは、プロでもチームメイトになる

“選手ファースト”なトレード

選手のトレード移籍は球団が主導になって決めるのが球界の常識。「選手の都合は二の次」と思われがちだ。しかし最近はトレード移籍でも選手の意向を汲み、「選手ファースト」なトレードを行うケースが増えているという。

「意にそぐわない移籍先だったとしても、昔は選手も時間が経てば順応していきましたが、最近の選手はナイーブなところがあるので、移籍先となるチーム内に学生時代のチームメイトがいるか、同郷の選手が多いかなど、選手がプレーしやすい環境のチームをトレード先にすることが増えています。

珍しいケースですが、シーズン前に都内にマイホームを買ったという選手をトレードに出すことになった際、自宅から通える在京のチームで何とかまとめようと苦心したこともあります」(球界関係者)

例えトレードで放出することになっても、チームにとって選手は学生時代から注目し、プロ入り後も手塩にかけて育てた大切な財産。事情によって手放すことになっても、せめて活躍できる環境へ行かせるという最後の親心と言えるだろう。近年の巨人がトレード相手に楽天、日本ハムなど元巨人の選手が多いチームを選びがちなのもそうした理由がありそうだ。

ちなみに澤村拓一の新天地となったロッテは2年先輩に美馬学、1年後輩に井上晴哉といった中央大学時代のチームメイトが主力を張るなど、香月一也と同様にプレーしやすい環境が整っている。その効果なのか、澤村はロッテでの初登板で三者連続三振のド派手なデビューをはたした。

球界を騒然とさせたトレードの主役となった両者だけに、新天地での奮起を期待したい。

  • 取材・文福嶌弘

    1986年横浜生まれ。日本ジャーナリスト専門学校卒業。フリーライターとして活動。幼少期より競馬・野球に興味を持ち、バイク、クルマ雑誌の編集部を経て2015年より独立。『がっつり!プロ野球』(日本文芸社)、『YOKOHAMA DeNA BAYSTARS SHOULDER BAG BOOK』(宝島社)WEBサイト「BASEBALL KING」などに執筆。

  • PHOTO時事、岡沢克郎/アフロ

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