渦中の「大戸屋」従業員の間でコロワイドへの疑念が生まれるワケ

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およそ1年に及ぶ攻防を経て、9月9日、株式会社コロワイドが株式会社大戸屋ホールディングスに仕掛けた株式公開買い付け(TOB)が決着した。大戸屋ホールディングスがコロワイドの提案に反発し、敵対的TOBに発展した今回の騒動。特に、大戸屋ホールディングスの個人株主や看板ブランド「大戸屋」のファンなどの反発は凄まじく、当初、TOBは成立しないと見るマーケット関係者が多かった。

しかし、結果はコロワイドが約47%の株式を取得し、TOBは成立。一時、大戸屋ホールディングスが第三者割当増資などを検討しているというニュースもあったが、このまま子会社化が実現する見込みだ。 

今回、なぜ外食業界では珍しい敵対的TOBが起こり、今後、大戸屋はどこに向かっていくのだろうか。フードジャーナリスト三輪大輔が検証していく。

ここ数年、大戸屋はお家騒動やコロワイドの敵対的TOBなど、本業以外のことで話題になることが多かった

お家騒動で揺れた近年の大戸屋 

そもそも今回の敵対的TOBの遠因は、大戸屋ホールディングスの実質的な創業者、三森久実氏の死去と、その後のお家騒動にある。

2015年7月、肺がんとの闘病の末、三森久実氏が57歳の若さで亡くなった。同氏の人生は文字通り、波乱万丈だったと言って過言でない。中学卒業後、同氏は大戸屋創業者の三森栄一氏の養子となると20歳の若さで「大戸屋食堂」を継ぐ。その後、腕っぷしの強い職人たちのマネジメントに苦労しながらもどうにかまとめ上げて、1983年に株式会社大戸屋を設立。法人化し、さらに力強い歩みで成長を続けるが、1992年、吉祥寺店が全焼してしまう。それほど大きくない会社にとって、大きなピンチである。

しかし、同氏はそれをチャンスに変えて、大戸屋を“おしゃれな定食屋”というコンセプトに転換。そこから国内外に一気に店舗を拡大させ、2001年にはJASDAQに上場を果たす。その手腕はもちろん、現場を大切にした姿勢からカリスマ経営者としてファンも多い。

町の定食屋の良さを残しながらも、いくつもの付加価値を付け加え、根強い人気を集めるブランド「大戸屋」は誕生している。写真は、1930年代に撮影された定食屋

そんな同氏が2012年、次期社長に任命したのが窪田健一氏だ。三森久実氏と窪田健一氏はいとこ同士である。三森氏は窪田氏に社長の座を譲ると、自身は会長に就く。そして会長は海外事業、窪田氏は国内事業と役割を分担し、大戸屋ホールディングスを新たな成長軌道に乗せた。

しかし、三森久実氏の死後、ほどなくして息子の三森智仁氏と窪田社長の対立が表面化。三森智仁氏のポストをはじめ、不透明な役員人事や故・三森久実氏の想いが引き継がれない体制に異を唱えたのだ。二人の関係は修復不可能なところまで溝ができ、2016年、三森智仁氏が取締役を辞任し、お家騒動は一応の決着を見る。

一方で、その頃、大戸屋ホールディングスの業績は悪化の一途を辿っていた。人気メニューだった「大戸屋ランチ」を廃止したり、メニューの値上げが続いたりと迷走を繰り返す。とはいえ、人件費や食材の高騰を吸収するための苦肉の策だった。

ただマーケットには経営陣のメッセージが伝わらず、結果的に顧客離れを起こし、2019年度中間期決算では上場以来、初の赤字に転落した。そして2020年3月期には初の最終赤字となり、想像以上の業績の深刻さが浮き彫りとなる。新型コロナウイルスの感染拡大の影響がまだそれほど大きくない時期の数字なので、現経営陣の自滅に他ならない。

こうした事態に追い討ちを掛けるように2019年10月1日、今回の騒動が勃発する。ことの発端は筆頭株主の創業者の妻が発行済み株式の13.07%を、第2位の株主だった三森智仁氏が5.60%をコロワイドに売却。その結果、コロワイドは発行済み株式の18.67%を取得し筆頭株主となった。

しかし、大戸屋ホールディングスの経営陣は創業家が株式を売却することを事前に聞かされていない。まさに寝耳に水の事態だった。お家騒動はまだ終わっていない。第2ラウンドのゴングがなった瞬間だった。

居酒屋新御三家、コロワイドの成長戦略 

筆頭株主となったコロワイドは、大戸屋ホールディングスに対して傘下に入って経営再建を進める案を提示した。一方で、大戸屋ホールディングス側はあくまでも独立を維持した上で経営再建を行う旨を主張し、両者の交渉は平行線を辿る。こうして事態は敵対的TOBに発展。コロワイドは三森智仁氏を含めた7人を役員に加えるよう、取締役の刷新を迫った。

大戸屋ホールディングスの経営はうまくいっていない。業界大手からの買収案の提案は渡りに船のはずだ。それに乗らないのはコロワイドに対する不信感からだろう。不安要素は大きく2つある。それが「(1)コロワイドのマネジメント力」と「(2)セントラルキッチンなどによる合理化」だ。

そもそも株式会社コロワイドの歴史は古い。一般的に日本では1970年が外食産業元年と呼ばれている。日本ケンタッキーフライドが設立されたり、日本初のファミリーレストラン「すかいらーく」が誕生したりと、同年を境にして外食産業の展開が始まった。そうした中、同社は1963年に山本商事として会社を設立し、飲食店の運営に乗り出す。しかし、当時は、町の食堂に過ぎなかった。

マーケットに存在感を放つようになるのは、現代表取締役会長の蔵人金男氏が入社してからだ。同氏は父が経営していた会社に入ると、1977年に看板ブランドの「甘太郎」を立ち上げる。その後、セントラルキッチンをつくり、経営の効率化をはかりながら急成長を遂げると、1990年代後半にはモンテローザ、ワタミ、コロワイドの、いわゆる居酒屋新御三家として台頭。そして2000年代に入ると積極的なM &Aで、その成長をさらに加速させていく。

その結果、同社の傘下には「フレッシュネスバーガー」や「牛角」「かっぱ寿司」と、業界を代表する有名ブランドが多い。

焼肉のマーケットを広げ、一時代を築いた「牛角」を展開する株式会社レインズインターナショナルも2012年にコロワイドの傘下に入った

しかし、ここで一つ目の不安要素(1)コロワイドのマネジメント力が関わってくる。

(1)コロワイドのマネジメント力

コロワイドはさまざまな企業を買収したが、その後の経営が好調かというと決してそうではない。

例えば、2014年に買収した「かっぱ寿司」だ。かっぱ寿司といえば「スシロー」、「くら寿司」、「はま寿司」と合わせて4大チェーンと呼ばれ、かつては業界トップに君臨するブランドだった。しかし、食材への投資を惜しんだことなどから、他店の低価格でクオリティの高いメニューについていけなくなり、現在では業界4番手が定位置となっている。コロワイドが買収後、社長が4回交代するなど混迷を極め、浮上のきっかけを掴めていない。

2018年に前年割れが続いていた売上がプラスに転じたり、2020年2月には全店舗売上が前年比107.2%伸びたりと、ともすると好調に見えるデータもある。だが2020年2月はうるう年であっただけでなく、土曜日が前年より1日多かったため他店の業績も好調だった。実際、スシローは全店舗売上が前年比117.8%、くら寿司も118.7%伸びているので、上位との差はむしろ広がっていると言っていい。

つまり、コロワイドはかっぱ寿司のブランド価値を上げるような決定打を何も持っていない、ともいえるのだ。数年で業界トップに返り咲く。買収時、そう豪語した会長の言葉は虚しく響くばかりだ。

今回の大戸屋も、かっぱ寿司のケースと似ている。果たして定食ブランドとして再び輝くことができるのか。その成否は2つ目の「セントラルキッチンなどによる合理化」と関わってくる。

(2)セントラルキッチンなどによる合理化

コロワイドは徹底した合理化で成長を遂げてきた。一方で、大戸屋の強みは店内調理に他ならない。一品一品オーダーが入ってから丁寧に作り上げてきたからこそ、大戸屋は一大チェーンに成長できたのだ。しかし、コロワイド傘下になったことで、セントラルキッチンを活用し経営改善を図るのはほぼ間違いない。店内調理でなくなると味が変わる。大戸屋が大戸屋でなくなるといっても過言でない。

手作りだからできる素材を生かした調理は、セントラルキッチンを活用しても実現するのか。同じくセントラルキッチンを活用し、価格競争力のある「やよい軒」に勝つことができるのか。課題は山積している

敵対的TOBで、個人株主が特に反対したのもその点だった。そもそも大戸屋の株を購入すると食事券がもらえるので、個人投資家には人気が高かった。ある意味、熱狂的なファンイコール個人株主という図式も成り立つ。彼らにとっては、もし大戸屋の味が守られなかったら株を持っている意味がない。だからこそ敵対的TOBに大反対だったのだ。

それは従業員も変わらない。店内調理を守りたいという理由から、今回の敵対的TOBに対する従業員の反対も大きかった。店内調理は、それだけやりがいが大きいということに他ならない。

だが、コロワイド側は破格の買い付け価格で“ファン”でない個人株主を引き付け、TOBを狙い通り成立させた。定食業態は、コロワイドにとってそれほど魅力的であるのだ。

コロナの影響もあり、コロワイドの2020年3月期の連結決算は、純損益が64億円の赤字。2020年4〜6月期の連結決算でも純損益が41億8900万円の赤字になるなど、苦しい経営が続く。

宴会の激減や二軒目需要の消失などから「甘太郎」をはじめとしたアルコールを提供する業態の売上はしばらく戻らない。そこで堅調な売上を叩き出す定食業態はのどから手が出るほどほしい。実際、「塚田農場」を展開するエーピーカンパニーが「つかだ食堂」を出店させたり、株式会社NATTY SWANKYの展開する「ダンダダン酒場」が「ダンダダン」に改名し食事処としてのイメージを明確にしたりと、各社が定食業態に乗り出す。

6年前、焼肉業態の「牛角」との相乗効果も狙い「かっぱ寿司」を買収したが、現在のところ思惑通りにはなっていない。果たして、大戸屋がコロワイドの業態ポートフォリオを豊かにするのか。その同行に多くの視線が注がれている。

WITHコロナのフェーズは2、3年続くと見られている。その間、居酒屋の需要は完全に戻らないと見る経営者も多い。だからこそ、非アルコール業態の定食屋の存在感は高まっている(写真はイメージ)

大戸屋の今後

TOBの完了までおよそ1年あったので、大戸屋も反撃のチャンスがなかったわけではない。2020年5月には3ヵ年の中期経営計画を発表したり、オイシックス・ラ・大地と業務提携したりと自主的な経営改革を進めたが、遅きに失した。

同社の経営理念は「人々の心と体の健康を促進し、フードサービス業を通じ人類の生成発展に貢献する。」だ。噛み砕けば「身体のいいものを提供して、お客様に喜んでいただく」といった内容だろう。それに続く、基本方針の一番上には「私たちは心のこもった親切さ優しさでお客様に感動していただこう。」と、さらに詳細な内容が記されている。

こうした言葉は、いわば三森久実氏の遺産に他ならない。同氏は理念を大切にしながら、現場第一主義を掲げていた。死の直前まで海外を飛び回っていたほどだ。今こそ、その姿勢から学ぶべきではないだろうか。

店内調理は手段に過ぎない。目的はお客様の感動だ。そして理念を徹底させるからこそ、それをスムーズに、よりダイナミックに実現できる。近年の経営陣の判断を見ていると、現場の声が届いたようには思えない。買収劇が終盤を迎えて初めて、顧客視点と現場主義に立ち返ることができたのではないだろうか。

希望があるとすれば、現在の大戸屋ブランドは吉祥寺店の火災から誕生したことだ。会社の大きなピンチの中でチャンスを掴んだからこそ、新たな時代をつくることができたといって過言ではない。少しでも創業者のDNAが残っていれば、敵対的TOBをされたという悔しさを乗り越えて、大戸屋が次世代を牽引するブランドに生まれ変わるはずだ。

  • 取材・文三輪大輔

    フードジャーナリスト。1982年生まれ、福岡県出身。2007年法政大学経済学部卒業。歓楽街情報誌や放射線技師専門誌、歯科衛生士求人誌などを経て、2014年に独立。外食業界を中心に取材活動を行い、2019年7月からは「月刊飲食店経営」の副編集長を務める。

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