コロナ禍でもプロレス界を牽引する新日本・メイ社長の戦略

王者・新日本プロレスが愛され続ける理由

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「プロレスには、国境や言葉の壁を乗り越えられるパワーがある」

新日本プロレスの社長兼CEO、ハロルド・ジョージ・メイさん(56)は開口一番こう言う。オランダ出身のメイ社長は、父の仕事の関係で8歳から13歳まで日本で暮らしていた。はじめは日本語が全くわからず、テレビでニュースやドラマを見ても理解できなかったが、唯一プロレスだけは楽しめたのだという。

内藤哲也選手の熱闘にファンは沸いた 写真提供:新日本プロレスリング株式会社

「実況や解説者が話している言葉はわかりませんでしたが、画面を見ているだけでワクワクして、元気になりましたね。ルールも単純明快で素直に面白いと思い、大ファンになりました。今、プロレスファンの方から、『勇気がもらえました』と言われるのですが、それ、すごく共感するんです」

メイ社長の言葉を聞いて、アントニオ猪木の試合に熱狂し、長州力やスタン・ハンセンなどのモノマネをしてプロレスごっこを楽しんでいた子どもの頃を思い出した。たしかに、プロレスを見ると高揚感を覚え、元気な気分になれる。それは、なぜなのか。

「プロレスの試合で、普通じゃない異空間で行われている雰囲気を味わえるからではないでしょうか。男女も年齢も、国籍も関係なく、一般的な娯楽ではなかなか得られない体験や感動ができる。こんなスポーツは他にないと思います」

プロレスが、大好きなのだ。苦境のプロレス界にあって、人気を保ち続けている新日本の力は、メイ社長自身がプロレスの魅力を体験したからこそ。それをベースに、経営者としてプロレスが持つ発信力の強さ、新日本が培ってきたブランド力を活かすことができている。

子どものころから、日本のプロレスが大好きだったというメイ社長。数々の企業を再建してきた経営手腕+プロレス愛が新日本を牽引する

最優先事項はプロレスの価値を上げること

1972年、アントニオ猪木による旗揚げ以来、業界トップを走り続けている新日本プロレス。2000年代、総合格闘技ブームに押され低迷する時期はあったが、経営がブシロードグループパブリッシングに譲渡された’12年以降はV字回復し、昨年4月には格闘技の聖地と言われるアメリカのマディソン・スクエア・ガーデン大会を成功させた。さらに今年1月には、史上初の東京ドーム2Daysを実施し、延べ7万人のファンが会場へと足を運んだ。

かつての低迷を脱却し、プロレスブームだった’80年代にも負けない人気も集めている。

そんななかで起きた、世界規模の新型コロナウイルス感染拡大。新日本プロレスも、今年2月下旬から6月14日まで予定していた53大会の中止を余儀なくされた。これは年間興行の約1/3にあたる試合数で、経営的には大きなダメージとなった。この間、無観客で興行を実施する団体もあり、「新日本も無観客で大会をやるべき」という声も一部から挙がっていた。それでも、大会を開催しなかったことには、大きな理由がある。

「もし感染者が出て広がれば、せっかく近年お客様が増え、上がってきたプロレスの価値を下げることになってしまう。国内最大手のプロレス団体として社会的責任を重視した上での判断でした」

大会が開かれなかった時期には、動画配信サービスを利用しテレビ朝日との合同企画に「Together Project」を実施。選手のライブトークショーや過去の名勝負にライブの実況・解説を加えた「テレプロレスリング」を配信し、少しでもファンに楽しんでもらう試みをしていた。これと並行して、大会再開へ向けた準備も進行。スポーツ庁の助言を受けながら、興行を行うためのガイドラインを策定し、選手やスタッフの健康管理と定期的な検査を実施するなど、神経をすり減らすような思いで徹底した感染拡大防止対策にあたり、6月15日の興行再開へたどり着いた。

万全の準備をして興行再開。7月11日の大阪大会からは有観客もスタートしたが、8月13日、宇和島大会で試合開始直前に中止を発表するアクシデントに見舞われた。

「会場入りした選手が発熱したんです。結果として、新型コロナウイルス陰性でしたが、それは後の抗体検査、抗原検査、PCR検査によって判明したもの。当日には、陽性である可能性は否定できませんでした。試合開始の5分前でしたが、会場内にいらっしゃるお客様の安全を最優先に考え、中止の決断をしました」

地方のプロレスファンにとっては、年に1度かもしれないプロレス興行。待ちわびる多くのファンがいることはわかっていたが、日本のプロレス業界を引っ張るリーディングカンパニーとしての責任を優先した苦渋の判断だった。

8月29日には、21年ぶりに明治神宮球場での大会を実施。21年前の神宮大会をスタンドで観戦していたという内藤哲也選手が、メインイベントで勝利するという「ドラマ」もあった。

神宮球場で行われた、真夏の屋外ビッグマッチ。「声を出した応援は禁止」など制約もあるなか、4700人が観戦した

感情移入できる序章をファンに伝えるのが、経営者の仕事

「私は、プロレスを映画に例えることがあります。クライマックスだけを見ても楽しめる映画はあるじゃないですか。でも、クライマックスに至るまでにどんなドラマがあったかを知っているほうが、感情移入がしやすく、最後の感動や驚きも大きくなります。

プロレスも同じで、試合だけ見ても楽しいのですが、リング上で戦っている選手の背景や思いを知ることで、試合の見方や楽しみ方が違ってきます。神宮大会での内藤選手のように『21年前にスタンドにいた青年が今メインイベントで戦っている』ことを知れば、思い入れも強くなる。

だから私たちは、動画配信だったり、インタビューだったり、SNSだったりを駆使して、さまざまなエピソード、物語を発信しなければいけない。それが重要な役割になっていると思います」

神宮大会のメインで勝利し、IWGPヘビー&IWGPインターコンチネンタルの2冠王者に返り咲いた内藤哲也選手。その物語にファンは胸を熱くする

コロナ禍にあってもビッグイベントを開催し、プロレス界を引っ張っていく新日本プロレス。9月19日からは、今年で30回目を迎える伝統の大会「G1 CLIMAX」がスタートした。新型コロナウイルス感染拡大の影響で出場が危ぶまれた外国人選手などもエントリーされ、20人の選手が10月18日に決勝進出、そしてメモリアル大会の覇者を目指し熱き戦いを展開中だ。

「AブロックとBブロック、2つのブロックに10名ずつ参加選手が分かれるのですが、新型コロナウイルス感染拡大防止策としてAブロック公式戦開催大会にはBブロックの選手は出場しません。交代制です。約1ヵ月におよぶ長く過酷なシリーズで、より体調管理が難しくなることやリスク分散といった面から、今回のG1 CLIMAXはこういった対策を取ることになりました」

真夏の祭典として知られる「G1 CLIMAX」だが、今年は延期された東京オリンピックの関係もあり、秋に移行。さらに、新型コロナウイルス対策もあり、例年とは異なる雰囲気だが、ファンにとっては開催されることが一番の喜びになっている。最善の策を講じたうえで、ビッグイベントを開催する裏には、強い信念がある。

「エンターテインメントは楽しみや喜びを与えてくれて、人生をより豊かにしてくれるものですが、食料品や医療などと異なり、なくてもなんとか生きていけるものです。あまりにも長い間空白の時間が続くと、情熱が途切れてしまう、他の楽しみに関心が移ってしまうファンもいらっしゃるでしょう。だからこそ、コンテンツは生み出し続けないといけない、歩みを止めてはならないと思っています」

新型コロナウイルスと共存しつつ生きる日々にあって、感染拡大防止に最大限の策を講じながら日常を取り戻すことが大切と感じているメイ社長。今後も、プロレスを知る、または好きになってもらうきっかけを増やすことを使命に掲げて、プロレス界をリードしていくという。

「最高のものを提供し続け、流れを絶やさない。それが一番重要です」

大小合わせて100近くの団体がある日本のプロレス界。そのトップを走る新日本プロレスは、日本のみならず世界中に向けて、ファンがワクワクするような面白いコンテンツ、物語をどんどん発信し続けるに違いない。

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  • 取材・文松野友克写真提供新日本プロレスリング株式会社

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