インフルエンザ&コロナ…冬の「W感染対策」のひとつの答え

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今年も10月1日からインフルエンザワクチンの予防接種が始まる。8月25日、厚生労働省はこの秋冬のインフルエンザワクチンの供給量は、昨季より7%増やした、約6356万人分になると発表した。

今までは季節性インフルエンザのワクチンを接種していなかった人でも、新型コロナウイルスが同時流行する可能性を考えて、今期だけは受けておこうと思う人が増えるだろう。果たしてインフルエンザワクチンは足りるのか。医療現場は混乱しないのか。内科医の谷本哲也先生に聞いた。 

今度はインフルエンザワクチンが足りない?

足りないからといってすぐには増産できないのがワクチンの難しいところ

インフルエンザワクチン供給量発表の翌日、厚労省は接種が始まる10月前半は65歳以上の高齢者らを優先とし、それ以外の希望者には10月26日まで接種を待ってもらうように呼びかける方針を決めた。

これはワクチンが品薄になることを見越しての協力要請だと思うが、そもそも7%増の6356万人分という概算は、どこから出たものなのか。 

「インフルエンザのワクチンは、例年はみなさんそんなに打たないんです。子どもや高齢者で5〜6割、それ以外の人は3割弱、全体で4割程度といわれています。

インフルエンザウイルスでは流行株と呼ばれる、シーズンごとの微妙なウイルスのタイプの変化が起こります。そのため、流行しそうな株を事前に予測して、新しいワクチンを毎年作り直すのです。つまり、ワクチンはその年限りのものになります。

昨年のワクチンが余ったからといって、今年流用することはできません。作りすぎると損失が出るので、過去の需給状況から概算して、その年の供給量を出しています」(谷本哲也先生 以下同)

日本は国産ワクチンに拘っていて、足りなくなっても海外から輸入することは原則できない。増産するとなると工場設備のほか、ワクチンを作るために必要な鶏の有精卵も多く用意しなければならず、さらに有精卵にウイルス株を接種してから原液を製造するまでに6ヵ月ほどかかる。必要になったからといってすぐに増産することはできないのだ。

「今年はもっと必要だろうというのは、日本だけではなく海外でも言われています。可能な範囲で増やした結果、昨季の7%増に落ち着いたのではないかと思います」

小池都知事は、65歳以上の都民のインフルエンザワクチン費用の自己負担をゼロにすると発表した

怖いのはコロナとの重複感染。ぜひワクチン接種を!

元々インフルエンザワクチンは、医療機関側がいくら呼びかけてもなかなか接種率は上がらなかった。とはいっても、コロナ禍では、やはり接種しておいたほうがよいのだろうか。

「医学的には接種すべきです。まずインフルエンザと新型コロナは症状がよく似ており、診断がなかなか難しいという問題があります。インフルエンザの流行を抑え、入院や重症化を減らす効果がワクチンにあることは証明されています。 

さらに“重複感染”といって、新型コロナにかかったうえにインフルエンザにもかかってしまう人もいます。北半球の2019〜2020年の冬シーズンや南半球のデータを見ると、重複感染はまれだと報告されています。しかし、インフルエンザB型とコロナに同時にかかると重症化しやすいというデータもあるようなので、そこは懸念されるところです。 

新型コロナとインフルエンザが同時に流行すれば、医療機関の負担が大幅に増え、混乱が起こる可能性もあります。そのためにも、インフルエンザには極力かからないよう注意していただきたいと思っています。その有効な予防手段のひとつとしてワクチンがありますので、できるかぎり接種したほうがいいでしょう」

そもそもインフルエンザのワクチン接種がなかなか浸透しない背景には、2つの理由がある。

インフルエンザワクチンの人気がない理由のひとつ目は、若い人の場合はインフルエンザにかかっても重症になる人は滅多にいないことがあるでしょう。また、たとえかかっても、ある程度症状を和らげる治療薬が広く使われていることもあります。さらにふたつ目として、ワクチンが大して効かないという問題も挙げられます。例年の有効率は5割前後と言われており、ワクチンを接種したのにインフルエンザにかかってしまった、という経験をお持ちの方も多いでしょう。

北半球では2月頃にWHOが株の推奨を行い、それに合わせて感染症研究所などが参加した厚生労働省の審議会が日本用のものを決めます。事前に〝当たり〟を予想して作るので、年によっては外れることもあり、そうなると効果が2〜3割しかなかったということもあり得ます。 

ご高齢の方やがんなどのご病気をお持ちの方、乳幼児や妊婦は必ず接種していただきたいところです。しかし、それ以外の一般の方が打てなかったからといって、個人のレベルではそれほど大騒ぎするものでもない、というのがインフルエンザワクチンなんです。万が一ワクチン不足になったとしても、パニックになる必要はありません」 

南半球のブラジルでは、冬に向かう3月から5月にかけて、インフルエンザワクチン接種を促すキャンペーンが行われた

インフルエンザと新型コロナ、症状だけでは区別がつかない

そうはいっても今年はコロナの影響で、逼迫する医療現場のキャパシティも心配なところだ。コロナと同時にインフルエンザも流行してしまうと、キャパオーバーになる可能性がある。

「もしもインフルエンザが大流行し、そこにコロナも入ってくると、どの医療機関もいっぱいいっぱいになってしまいます。そこで2020〜2021年の冬シーズンに備え、準備は夏から進められています。その一つは検査体制の拡充です。高熱などの症状があった場合、インフルとコロナの両方を同時に検査できるようにするためです。 

また、コロナの検査では感染リスクを避けるため、検査する側は防護服にアイシールドを着用と、かなり厳重に対策をとらなければいけません。しかし、インフルエンザとコロナは症状だけでは区別がつかないので、両方の可能性を念頭においた上で検査を進める必要があります。準備の整わない診療所などで今までと同じように気軽にインフルエンザの検査をして、それがもしもコロナだったら検査をする医療機関側に危険が及びます。 

そのため日本医師会では3月の時点では、インフルエンザの疑いがあった場合、検査は必須ではなく、臨床的な判断のみでタミフルなどの薬を処方してもよいという指針を出していました」

中国やイタリアでは多くの医療従事者が新型コロナで亡くなり、日本国内でも医療機関内での集団感染や医療従事者の死亡例がある。タミフルにはあまり副作用はなく、ジェネリック薬が出て価格も安くなっている。インフルエンザにかかっているのに検査では陰性になってしまう偽陰性も2、3割程度とけっこう多い。このため、インフルエンザ治療では検査に100%頼る必要はない、という医師会の判断は正しいといえるだろう。

「新型コロナに関しては、かかっていた場合の隔離などの対応方法や症状が重くなった時の治療法が、インフルエンザとは全く異なります。そのためこの秋冬シーズンでは、今まで以上に新型コロナの検査が重要になってくると思います」

アメリカ・ボストンでは、マスクに続きインフルエンザワクチン接種の義務化に反対するデモが開催された

ワクチンに加え、感染予防になるのはマスク、手洗い、ソーシャルディスタンス

医療の供給を逼迫させないためにもインフルエンザ感染は極力避けたいところだが、2019〜2020年の冬シーズンでは、日本でのインフルエンザの感染率は低かったように感じる。

「実際、日本での流行はずいぶん低かったというデータが出ています。また、南半球も同様で、パンデミック後には季節性インフルエンザはかなり減っていました。コロナの影響で、みなさんマスクと手洗い、ソーシャルディスタンスに気をつけていたのが功を奏したのでしょう。これらはインフルエンザ予防にも共通の予防法です。みなさんに気をつけていただけたら、インフルエンザの流行は今度の冬もかなり抑えられると思います」

実際、小児科では今、患者が激減しているという。みんながマスクと手洗いを徹底することで、本来子どもの間で流行する手足口病や一般的な風邪の罹患率が下がったことが原因だ。

インフルエンザワクチンは決して万能ではない。接種できなかったとしてもパニックを起こさないことが大切だ。逆に、接種できても、それだけで安心してはいけない。手洗いとマスク、ソーシャルディスタンスを頑張るのがいちばんの感染予防と心得て、この冬を乗り切ろう。

 

谷本哲也(たにもと・てつや) 内科医。ナビタスクリニック川崎、ときわ会常磐病院、社会福祉法人尚徳福祉会にて診療。霞クリニック・株式会社エムネス・バイオニクス株式会社を通じて遠隔診療などにも携わる。特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所に所属し、海外の医学専門誌への論文発表にも取り組んでいる。著書に『知ってはいけない薬のカラクリ』(小学館)、『生涯論文!忙しい臨床医でもできる英語論文アクセプトまでの道のり』(金芳堂)、『エキスパートが疑問に答える ワクチン診療入門』(金芳堂)がある。ジャーナリズムNGO・ワセダクロニクルで『コロナ世界最前線』連載中。

  • 取材・文井出千昌

    フリーライター。ファッション誌・情報誌・音楽雑誌・ウェブなどジャンルはさまざま。昨年、インフルエンザ完治後に嗅覚障害を体験する。「脳が匂いを思い出さない限り嗅覚は戻らない」と医者に言われ、必死で嗅ぎ続けること1ヵ月、次第に嗅覚は戻ってきた。あの時食べたバナナの「なにこれ粘土?」な衝撃は忘れられない。コロナ以外でも嗅覚はやられるのでみなさんご注意を!

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