河野太郎はなぜ総務大臣ではなかったのか…菅内閣誕生のウラ側
小サプライズはあった
9月16日、菅義偉政権が誕生した。橋下徹氏らの民間人を登用するといった大きなサプライズはなかったが、いかにも玄人好みの「仕事師内閣」の布陣であり、「小さなサプライズ」は見て取れる。早期の解散・総選挙は遠のいたとする見方が出ている中、菅政権はどこに向かうのか。
今回の組閣で注目を集めていたのが、河野太郎・前防衛相の去就だった。河野氏は結局、行政改革・規制改革・沖縄北海道担当大臣に任命されたが、組閣前夜には「総務大臣」起用説が一斉にメディアで流れた。
政界事情に精通する永田町関係者はこう言う。
「河野氏の就任に、党執行部と族議員が難色を示したという説も流れました。しかし、これは後付けの解説である可能性があります。党執行部はさておき、総務畑の『族議員』がクレームを入れて河野氏の総務相起用がひっくり返るという説明には無理があるからです」
そのため、現在では「河野太郎総務相起用説はそもそもフェイクだった」とする見方が有力だ。しかし、フェイクだとした場合、NHKをはじめとする大手メディアが軒並み「誤報」を出したというのは、ちょっとした驚きだ。
そこで、もう一つの可能性として、河野氏に代わって総務大臣に就任したのが武田良太・前国家公安委員長であることに着目する説も指摘されている。
武田氏といえば、亀井静香氏の秘書を務めた後、4回目の国政挑戦で初当選を果たした苦労人。地元福岡では、過去の衆議院補選や福岡県知事選等の経緯から、麻生太郎副総理兼財務大臣の「天敵」として知られている。
その武田氏(二階派)が河野氏(麻生派)に代わって総務大臣に就任したのだ。
菅氏擁立にあたって主導権を握った二階派に対して、9月2日夕刻、麻生派・細田派・竹下派の三派が合同記者会見を開いたことは記憶に新しい。その際、河村建夫元官房長官(二階派会長代行)が「事前の声がけ」がなかったとして、不快感を示していた。
その流れを受けた今回の総務相人事、あたかも三派会見を主導した麻生氏に対する「倍返し」のようだとする声もあがっているのだ。それだけ二階俊博幹事長の威光が轟いているということだろう。
河野行革大臣は就任会見でさっそく、順繰りの閣僚会見をやり玉に挙げ、「こんなもの、さっさとやめたらいい」と喝破。自前のサイトに「行政改革目安箱(縦割り110番)」を設置するなど、エンジン全開モードだ。オーバーヒートしないか心配する声もあがっている。
他方で、今回の組閣では、「幻と消えた岸田官房長官説」も注目を浴びた。岸田文雄氏は、総裁選で89票をとってなんとか面目を保った形となったが、地方票はわずか10票。「貸株」ならぬ他派閥からの「貸票」があったともされ、影響力の低下は否定できない。
「もともとは安倍前総理と麻生副総理肝いりの後継候補だった岸田氏ですが、禅譲路線にあぐらをかき、総裁選でコケてしまいました。しかし、政治的致命傷を負わせる形にするのはよくないという判断から、『官房長官の打診』がなされたのではないかという噂が囁かれました」(先の関係者)
そうだとしても、「形だけの打診」だった可能性がある。それを岸田氏が拒否したのかどうか真相は不明だが、結局のところ岸田氏は無役となり、宏池会で「岸田下ろし」が勃発する可能性が出ている状況だ。岸田氏にとってこれからが正念場となろう。
小さなサプライズはもう一つある。平沢勝栄氏(二階派)が遂に入閣を果たしたのだ。
東大生時代に安倍前総理の家庭教師をやっていた平沢氏だが、「小学生だった安倍氏の頭を定規でバシバシ叩いた」とか、「安倍氏が祖父や父の母校である東大に入れなかったのは定規で叩かれたせいだとして、母親である洋子夫人に嫌われた」とか、これまで入閣を果たせなかったことに色々な噂が飛び交ってきた。
実際には、公明党現代表の山口那津男氏を選挙(東京17区)で2回負かしている過去の経緯があることから、安倍前総理が山口代表に配慮して入閣を見送ってきたとも言われている。
今回の入閣は、創価学会・公明党に太いパイプを持つ菅首相ならではの「お待ちかねご褒美人事」といったところであり、復興大臣は適任だろう。
最後に、小泉進次郎氏が環境大臣に留任したことも、実は小さなサプライズだ。
「河野総務大臣+小泉行革大臣+小泉氏の後任として井上信治環境大臣」
という当初の構想が、武田総務大臣の起用によって繰り下がり、
「河野行革大臣+小泉環境大臣留任+急遽新設した万博担当相に井上氏」
という次善の策に代わったという指摘もあるが、小泉氏のずば抜けた発信力を活かすのに環境大臣が適切かという疑問は残る。
いずれにしても、「主要5派閥の支持を受けて当選した無派閥の総裁・総理」という、極めて難しい立ち位置の菅首相としては、妥協と計算を重ね尽くして作った布陣ということだろう。
その菅政権では今後、デジタル庁創設、マイナンバーカードの徹底活用、携帯電話料金の引き下げ等の「IT・デジタル系政策」と「規制緩和」が主戦場に躍り出ることになる。
改革の先陣を切るのは、河野大臣や武田総務相と並んで、IT担当相に返り咲いた平井卓也氏だ。
平井氏といえば国会審議中に「ワニ動画」を見ていたことで名を馳せた人物だが、複数省庁に所管がまたがるデジタル庁新設は容易ではない。ワニ並みの重厚な突破力で、縦割り行政を打ち破れるかが注目される。
新型コロナの状況にもよるが、菅内閣の改革路線を牽引する河野大臣や平井大臣らが、年内の臨時国会あるいは来年1月招集の通常国会までに、その働きぶりをどの程度国民に示せるかで、解散・総選挙の道筋が決まってくるということになろう。
取材・文:レイモンド・ベーダー