「コロナ禍でもホームレスに仕事を」ビッグイシュー17年目の思い | FRIDAYデジタル

「コロナ禍でもホームレスに仕事を」ビッグイシュー17年目の思い

「10万円」は届かなかったー誰もが「落ちる」可能性のある自助ニッポンに暮らすということ

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『THE BIG ISSUE』を掲げる販売者。細やかな「心得」を守り、路上に立つ
『THE BIG ISSUE』を掲げる販売者。細やかな「心得」を守り、路上に立つ

景気悪化が止まらない。失業する人が増えて、自殺する人が増えて、この国はどうなってしまうんだろう。新しい総理大臣が掲げるのは「自助」だ。自分でなんとかしろという。なんとかできない人たちは家を失い、文字通り、路頭に迷う。

「ホームレスの人に仕事を、という日本でのビッグイシューの試みは17年になりました。駅前などで雑誌『THE BIG ISSUE』を売って、その売り上げの半分以上がそのまま販売者の収入になる仕組みです。今、全国で110人ほどが販売をしています」

創刊当時から関わる、ビッグイシュー東京事務所の佐野未来さんは続ける。

「新型コロナの影響で3月から、街に人がいなくなってしまい、路上での販売部数は激減しました。けれども、販売をやめたら収入がゼロになってしまうし、『ステイホーム』といわれても、そもそも『ホーム』がないんです。

生活保護は、家族に連絡がいくことへの抵抗や、劣悪な環境の寮に入れられた経験などさまざまな理由で利用をためらう人が多い。どうやって生き延びればよいのか、という不安も耳にしました」

これから、増えるかもしれない

「ビッグイシューはホームレス状態の人が『自分で働いて稼ぐ』事業なんですが、今回ばかりはそれを一時的に返上しました。通信販売の呼びかけをしたところ、思った以上に多くの方が賛同してくださり、4月から6月にかけては毎月5万円、7月から9月にかけては毎月3万円を販売者に販売継続協力金として渡すことができて、なんとか乗り切れました」

「コロナ緊急3ヶ月通信販売」は、第1次におよそ9500人、7月からの第2次にも5000人の参加があったという。

1991年にイギリスで創刊された『THE BIG ISSUE』。『日本版』もインタビューや特集企画、料理まで雑誌としてのクオリティに定評がある
1991年にイギリスで創刊された『THE BIG ISSUE』。『日本版』もインタビューや特集企画、料理まで雑誌としてのクオリティに定評がある

「ありがたかったです。販売者は感染予防対策をしながら販売を続けていますが、減った収入を協力金で補填することができて、安心につながっているようで、雰囲気も明るいです。でも、ホームレスの当事者が、自分で雑誌を売って稼ぎ、部屋を借りて自立できるよう応援するのが本来の姿。それに、街頭で販売して常連のお客様と一言二言、話をするのが生きがいという人もいます」

路上での販売自体は、注意深く進めていく。さらに「今後、収入や家を失い販売を希望する方が増える可能性も大きい」という。

厚生労働省の2020年1月の調査結果によると、全国の路上や公園などで暮らす「ホームレス」は全国で「3992人」といわれている。が、

「路上生活者だけが、ホームレスではありません。家がない人、たとえば居候や、ネットカフェで寝起きしている人はホームレスです。家がありませんから。2017年に東京都がネットカフェやサウナなどで寝起きする人の数を調査したところ約4000人いらしたそうです。4月の緊急事態宣言で、ネットカフェが営業自粛の対象となったとき、この人たちの多くは泊まる場所を失いました」

特別定額給付金は、住民票がないと申請できないため「全国民」に給付されたはずの10万円も、彼らの手には届かなかった。

コロナ禍では、すべての人がさまざまな影響を受けている。なかでも、もともとホームのない人はじめ、社会的な弱者、生活が困窮している人の受けた打撃は凄まじい。

「自助」に殺される前に

「30代前半に販売者登録をしていた男性が最近、10年を経てビッグイシューに戻ってきました。この方は自立して、全国各地で日雇いや派遣の仕事などをして11年間、日々生きつないできたのですが、この春、新型コロナの影響で仕事を失いました。数か月仕事を探しても見つからず、悩んで悩んで、ビッグイシューに戻ってきたんです。健康な若者が真面目に働いて、それでもこういうことが起きる。これは、彼個人というより、社会にとっても損失じゃないでしょうか。

生活保護は受けたくないとおっしゃって、なんとか自分でやろうとするけれど、一度ホームレス状態になってしまうとそこから自力で抜け出すのは至難の業です。そんななかで体や心の健康が損なわれたりすれば、安定した住まいや仕事を探すことはますます困難になる。この人の向こうに、今、ネットカフェで暮らしている人や非正規雇用で働いている人の姿が見えるようです」

ビッグ イシュー東京事務所には、米やすぐに食べられる食品、衣類も用意されている
ビッグ イシュー東京事務所には、米やすぐに食べられる食品、衣類も用意されている

ある日突然「住まいを失う」。それはもう、人ごとではない。

「ふつうに一所懸命生きている若者を使い捨てにするような社会って、いいわけないです。頼れる家族や友人がいなくても安心して生きられるセーフティネットが機能してなければ、いくらだって人が『落ちて』くる。それが今の日本です。これは、当事者だけでなく社会全体にも負の影響を及ぼします」

ホームレスの状態は、けっして人ごとではない

「創刊のときは、長引く不況で失業して住まいを失った『ホームレスの人に仕事を』つくり、そしていつか『BIG ISSUE』が要らなくなることが目標でした。でもやればやるほど、問題はそんなにシンプルじゃなかった。本来、仕事をして、スキルを身につけ、社会や地域に貢献できるはずの人が使い捨てられたり、一人で路頭に迷ったりすることのないように、ホームレスを生み出す社会構造を変えなければと。

『BIG ISSUE』がほんとうに要らなくなる日。それは、かりにひとりぼっちになっても社会が助けてくれる、人が安心してやりがいを持って生きられる社会が実現するときだと思います」

2008年の秋のリーマンショックが引き金となった世界経済不況のとき、日本では半年の時差でホームレスになる人が急増した。新型コロナの感染拡大から半年になる今、佐野さんたちスタッフは「ドキドキしている」という。

「ホームレスになる過程に決まった形はありません。みなさん、それぞれの事情があってそうなるんです。2007年に立ち上げたNPO法人ビッグイシュー基金では、生活自立応援のためのシェルターを用意したり、福祉につなげるなどの相談も受けています」

ビッグ イシュー基金のさまざまな取り組みがわかりやすく紹介されている掲示板。「困ったら、とにかく一度相談にきてほしい」
ビッグ イシュー基金のさまざまな取り組みがわかりやすく紹介されている掲示板。「困ったら、とにかく一度相談にきてほしい」

誰もが「落ちる」可能性があることが明らかになったこの国で、どう生きのびていくか。なにを選び、なにをすればいいのか。みんな、問われている。

「わたしたちは、販売者が誇りをもって売れる雑誌を作り、誰もが排除されない、生きやすい社会、とくに若い世代が希望をもって生きられる社会を作るのに役立つ情報発信をしていきます」

『THE BIG ISSUE』は、毎月1日と15日に最新号が発売になる。販売者は、事務所に仕入れに行き、決められた持ち場で販売をする。1冊450円。そのうち230円が、販売者の収入になる。チャリティとしてではなく、読み応えのある雑誌として購入するファンがとても多い。

*ビッグイシューでは、現在「第3次コロナ緊急3ヶ月通信販売」を受け付けている。ふだん書店ではなく路上の販売者からしか買えない『THE BIG ISSUE』3ヶ月分(6冊)が自宅に届く。

問い合わせは「ビッグ イシュー日本」https://www.bigissue.jp/2020/09/15944/

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