温暖化の影響!?「観測史上初」多発の意外すぎる理由 | FRIDAYデジタル

温暖化の影響!?「観測史上初」多発の意外すぎる理由

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最近よく耳にする「観測史上初」というフレーズ。この言葉がニュースから流れる度に、「気候は人類にとって苛烈の一途をたどっているのではないか」「これも地球温暖化のしわざか? 地球はどうなってしまうのか」と不安に思う人も多いのではないだろうか。しかし、「観測史上初」が多発するのはそう珍しいことではないという。それはなぜなのか。気象庁に詳しく話を聞いてみた。 

「観察史上初」は、毎年50件ほど発生する!? (写真はイメージ)
「観察史上初」は、毎年50件ほど発生する!? (写真はイメージ)

類を見ない大雨をもたらした令和2年7月豪雨 

2020年の梅雨はいつもより過酷だった。熊本県、鹿児島県、福岡県、佐賀県、長崎県、岐阜県、長野県で大雨特別警報が発表され、球磨川や最上川などの多くの河川が氾濫し、人的被害や物的被害が相次いだ。

「令和2年7月豪雨」と名付けられた今年の梅雨どきのさなか、「観測史上初」という言葉が毎日のようにニュースに登場した。「今までに経験したことのない大雨があちこちで降っている」と恐ろしい思いをした人も多かったことだろう。

7月3日から7月31日にかけて、熊本県を中心に九州や中部地方など日本各地で発生した集中豪雨は、各地に多くの被害をもたらした
7月3日から7月31日にかけて、熊本県を中心に九州や中部地方など日本各地で発生した集中豪雨は、各地に多くの被害をもたらした

「観測史上初」の記録更新は意外とよくある!?

それにしても、最近「観測史上初」という言葉をやたら聞くような気がする。これは地球の気候が私たちの想像を超えた方向に向かっているからなのだろうか。

かつて、気象庁に「観測史上初」は年間何件発生してみたのか聞いたことがある。そのときの回答は、「年間50件ほどであればさほど多いとはいえない」というものだった。

年間50件が多くないだなんて、信じられない!

そう思う人も多いことだろう。しかし、「観測史上初」という言葉の定義を知れば、確かにそうなのである。

実は、気象庁の定義する「観測史上初」とは、その観測所で観測を開始して初めて出た観測値のことをいう。日本にはアメダスなどの観測所が全国で約1300ヵ所あるし、観測項目も気温、雨量や積雪深など、複数ある。だから、1300ヵ所×観測項目の数は膨大な数に上る。母数がそのくらいあれば、年間50件くらい記録更新しても確かにおかしくなさそうだ。

実際、気象庁のホームページには、「毎日の観測史上1位の値 更新状況」というページがある。ここには観測史上1位の値を更新(タイ記録、すなわち1位に並んだ記録を含む)した観測所と観測値が過去1週間分表示されているのだが、1日数件程度はどこかの観測項目で「観測史上初」が発生していることがわかる。

しかも、観測地は移転することもある。「毎日の観測史上1位の値 更新状況」のページで表示されているのは、観測開始または移転等により観測環境が変わって10年目以降の場所であるのだが、50年間観測を続けた場所ならまだしも、10年程度の観測での観測史上1位なら、「そんな値を出す年もたまにはあるよね」という印象だ。

ちなみに、今回、実際に2019年7月と2020年7月の最大1時間降水量と最大24時間降水量で「観測史上初」を記録した場所は何件あったのかを気象庁に問い合わせてみたところ、下の図のような回答をもらった。

表のデータは気象庁提供。統計開始から10年目以降の地点を対象としている
表のデータは気象庁提供。統計開始から10年目以降の地点を対象としている

これを見る限り、確かに2020年は「令和2年7月豪雨」と命名されたほど例年になく梅雨が長く、しかも広い範囲で大雨が降ったこともあって「観測史上初」の件数は多い。しかし、例年と比べて特に顕著な大雨をもたらしたわけではなく、したがって「〇年豪雨」などと命名されなかった2019年7月の梅雨時期でも「観測史上初」は何件か発生しているのだ。

そして、観測史上初を記録した地点は2019年と2020年ではほとんど重複していないことに注目したい。2019年7月と2020年7月の両方で「観測史上初」の記録を更新した場所は上の表で赤字で示した「久留米」だけである。2019年7月に「観測史上初」を記録し、2020年8月(8月21日時点)で再度「観測史上初」を更新したのも「久留米」と「鳥栖」の2か所だけだ。

つまり、特に歴史に残るような顕著な気象現象が起きなくても「観測史上初」は発生している。そして、「観測史上初」は頻発されているようにみえても、同じ観測地でどんどん記録が更新されているとは限らない。今まで「観測史上初」が出ていなかったところがあらたに「観測史上初」を出していることがほとんどだ。

温暖化で「観測史上初」は増えていくのか

というわけで、「観測史上初」が連発されるからくりはわかった。しかし、だからといって大雨が降りそうな予報が出たときに油断してもいいわけではない。

気象庁が開催した異常気象分析検討会の検討結果を受けて、2020年8月20日に発表した「令和2年7月の記録的大雨や日照不足の特徴とその要因について」という報道発表資料によると、2020年7月の降水量は、東北地方および東日本・太平洋側、西日本・日本海側、西日本・太平洋側では平年の 2.0~2.4 倍だった。やはり2020年の梅雨は今までにないレベルの降水量を記録していたのである。

なぜ、こんなに多くの降水量を記録したのか。それは梅雨前線が同じ場所で長期間停滞したことと、九州西岸への水蒸気の流れ込みが多かったことが原因だ。

では、このような長雨と大雨は地球温暖化の影響によるものなのだろうか。気象庁球環境・海洋部 気候情報課の後藤敦史氏に話を伺ったところ、

「梅雨前線が同じ場所に停滞し続けたことや、梅雨明けが遅れたことについては地球温暖化の影響を受けたものかどうかはわかりません。ただ、雨の量が多かったことには、温暖化の影響を受けた可能性があると思われます」とのことだった。

9月には、地球温暖化への対策求めヨーロッパ各地でデモが行われた。写真はイギリスを中心に活動する「エクスティンクション・レベリオン」
9月には、地球温暖化への対策求めヨーロッパ各地でデモが行われた。写真はイギリスを中心に活動する「エクスティンクション・レベリオン」

なぜ、温暖化が大雨とつながるのか。それは、空気中に含むことができる水蒸気量は、気温が高くなるほど多くなるからだ。理論上、気温が1℃上昇すると、その空気の含むことのできる水蒸気量が7%程度増加することが知られている。

上記の報道発表資料によると、気象研究所で7月3日~4日の熊本県を中心とした大雨について、過去 40 年の気温上昇量を除去したときと除去しないときのそれぞれのパターンで、高解像度の気象モデルを用いた再現実験を速報的に行ったところ、過去 40 年の気温上昇量を除去しないときのほうが除去したときよりも降水量が多くなったという結果も出たという。

また、2017年に発表された「気象庁地球温暖化予測情報には、特に温暖化対策を行わずに今のペースで地球温暖化が進めば、1日の合計が200ミリを超える大雨(つまり、土砂降りが長時間続くような状態)や1時間50ミリ以上の大雨(短時間の滝のような大雨が降ること)の全国平均の年間発生数は2倍以上になるという記述もある。さらに、現在ではほとんど観測されないような、年最大日降水量(1 年間で最も多い1日の降水量)の値が例年のように出現するとも予測されている。

気象庁では「観測史上初」の数の推移の統計は取っていないので、「観測史上初」が昔に比べて増えているのかどうかはわからない。しかし、今後は地球温暖化に伴って大雨の回数が増え、強さも増す可能性が高いという予測が出ているため、観測史上初を記録する回数は増えるかもしれない。

今は台風と秋雨前線で豪雨災害が発生しやすい季節だ。過去の経験を振り返って「この場所は大雨でもひどい災害は発生したことはない」と油断するのではなく、念には念を入れた防災対策が必要となってくるだろう。

■気象庁ホームページの「毎日の観測史上1位の値 更新状況」はコチラ

■2017年に発表された「気象庁地球温暖化予測情報」はコチラ

  • 取材・文今井明子

    サイエンスライター。京都大学農学部卒。気象予報士。得意分野は科学系(おもに医療、地球科学、生物)をはじめ、育児、教育、働き方など。『Newton』『AERA』『東洋経済オンライン』『暦生活』『Business Insider Japan』などで執筆。著書に『天気と気象の特別授業』(共著、三笠書房知的生き方文庫)、『異常気象と温暖化がわかる』(技術評論社)などがある。気象予報士として、お天気教室の講師や気象科学館の解説員も務める。

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