指揮者・佐渡裕がベートヴェンの『第九』合唱にかける熱い思い | FRIDAYデジタル

指揮者・佐渡裕がベートヴェンの『第九』合唱にかける熱い思い

日本のクラシック音楽界を支える『第九』〜苦難の今こそ『歓びの歌』を世界に届けたい

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年末に『第九』は、日本ならではの文化。大阪城ホールでは、毎年1万人の合唱団が歌い上げるが、今年はそれが叶いそうもない ©︎MBS/サントリー1万人の第九
年末に『第九』は、日本ならではの文化。大阪城ホールでは、毎年1万人の合唱団が歌い上げるが、今年はそれが叶いそうもない ©︎MBS/サントリー1万人の第九

「ベートーヴェンの『第九』ってね、社会の宝物のような交響曲なんですよ」

世界で活躍する指揮者の佐渡裕さん。3月19日、公演先のヨーロッパからロックダウンぎりぎりで帰国して「5月まで、すべての公演がキャンセルになった」という。

「はじめは、こういうときは休めばいいかなと思って、家で楽譜を読んだりして過ごしてました。でも、だんだんもどかしさが募って。劇場は心の広場ですから、その劇場に行けない、人と接することができないのは、間違っていると感じ始めたんです」

とはいえ、海外には出られないし、国内の演奏会も再開の目処が立たないなか、恒例となった日本最大の『第九』公演「サントリー1万人の第九」の合唱団員募集の時期が迫ってきた。団員は毎年公募される。抽選で決まった1万人が8月から日本各地でレッスンを受け、当日を迎える。今年で38回目になる人気企画だ。マエストロ佐渡裕は、37歳だった1999年から総監督、指揮を務めている。

ベートーヴェンが、この困難を予測していたかのよう

20年間、ぼくはのべ20万人の人と『第九』を作ってきました。その間に、アメリカで9.11のテロがあり、東日本大震災があり、そのたびごとに重く、心に響くものがありました。そして今回の新型コロナ。これはもう、世界中の人が『当事者』。本当に、誰にとっても人ごとではない。だから『今年こそ、やらなければならない!』と決意したんです。

大勢の人が集まって歌うというのは、今、もっともやりにくいことですから、方法は慎重に考えなければならない。けれども、なにがあってもどうしても、この『第九』を僕らが作らなければならないと思いました」

2019年12月大阪城ホール。1万人の合唱団、オーケストラの真ん中で指揮をする佐渡裕さん
2019年12月大阪城ホール。1万人の合唱団、オーケストラの真ん中で指揮をする佐渡裕さん

ベートーヴェンがこの曲を作った約200年前にも、戦争があり、病があった。シラーの書いた詩をのせた第4楽章では、苦難を越える歓びが歌い上げられる。

「合唱が入る第4楽章、冒頭は、音がぶつかりあっている『きたない』ファンファーレなんです。絶望感のある不協和音。そこから『こんな音じゃない!ほしいのは、もっと心地よい音、もっと歓びに満ちた音だ』と歌い上げるのが『歓喜の歌』なんです。まさに今、人類が直面している困難を予測したかのような曲でしょう」

「そして『きょうだいたちよ、支えあって抱きあって』と歌い上げるんです。この苦難のときこそ、握手ができない今こそ、歌うべき奏でるべき音楽なんです」

年末の『第九』は、世界に誇れる日本の文化だから

日本では例年12月になると、プロアマ、大小合わせて200近くの『第九』公演が行われている。

1954年に結成、昨年第131回公演を行った「東京労音の『第九』」はじめ、アマチュア合唱団による公演もとても多い。そしてそのほとんどが中止になった。

「日本には本当にたくさんの『第九』公演がありますよね。この曲を歌える人が、僕が指揮しただけでも20万人いる。そんな国は、世界で日本だけなんです。すばらしい、世界に誇れる文化です。

人には、肉体と精神があって、その両面で『生きて』いる。体に水や栄養が必要なのと同じく、心にもビタミンのようなものは必要。それが歓びや音楽です。人生を生きて、苦難を乗り越える力になるものです」

インタビューで佐渡さんは、世界にも例のない「日本の第九文化」の素晴らしさを誇った。コロナ禍の今年も、昨年と同じこの場所から『歓喜の歌』を世界に届ける
インタビューで佐渡さんは、世界にも例のない「日本の第九文化」の素晴らしさを誇った。コロナ禍の今年も、昨年と同じこの場所から『歓喜の歌』を世界に届ける

佐渡さんと事務局は、会場の大阪城ホールに専門家チームを呼んで「煙を焚いて飛沫の流れを実験」するなど、さまざまなテストを重ね、この場所に何人がどのように集まれるかを模索している。

「1万人は難しいでしょうね。5000人か、1000人か、それも難しいかもしれない。

もしかしたら、集まること自体、やはりできないかもしれない。

でもね、僕は大阪城ホールに立ちます。リモートやなにかでつながった人たちを『指揮』するんです。12月6日。たとえ僕一人になっても、あの場所から、この世界に『第九』を届ける。約束しますよ」

全国の市民合唱団の『第九』が中止になった2020年。楽しみにしていた「なにか」を諦めた人も多いだろう。佐渡裕の『第九』は、さまざまな場所で、それぞれのなにかを無念にも見送らざる得なかった人々のぶんまでも『歓喜の歌』を高らかに響かせことができるだろうか。今、音楽の力を信じたい。

  • 写真提供©️MBS/サントリー1万人の第九

    *「1万人の第九2020」は12月19日(土)、MBS・TBS系列で放送予定

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