藤井聡太も…?年収1億円棋士たちに備わる「キレ」の正体 | FRIDAYデジタル

藤井聡太も…?年収1億円棋士たちに備わる「キレ」の正体

日本将棋連盟将棋親善大使のサッカー元日本代表、波戸康広氏が語るプロ棋士の強さの秘密

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空前の大ブームを巻き起こしている藤井聡太二冠(写真:時事通信)
空前の大ブームを巻き起こしている藤井聡太二冠(写真:時事通信)

プロ棋士は「サッカー日本代表になるより大変」

「将棋はスポーツ!」

こう断言する人がいる。2002年に日韓共催で行われたサッカーW杯の日本代表常連だったDF波戸(はと)康広氏だ。小学3年生から本格的に将棋を指し始め、アマチュア二段の有段者。その実力から2014年日本将棋連盟から将棋親善大使に任命された。

18歳1か月で二冠獲得と八段昇格という最年少記録を打ち立て、空前の大ブームを巻き起こしている18歳・藤井聡太二冠(王位・棋聖)や現役最強で「魔王」の異名を持つ渡辺明三冠(名人・王将・棋王)らトップ棋士は今年、年収1億円する可能性があるという。一度の対局で「体重は2㎏落ちる」という棋士もいるほど、実は体力がモノいう世界なのだ。サッカー元日本代表の視点からプロ棋士の本質を語る。

「将棋の世界はサッカー日本代表になるより明らかに大変です。どのプロスポーツの世界より厳しい。そして東大に入学するより大変ではないかと思います。

将棋のプロになるためには年齢制限がある。26歳の誕生日まで!です。強いプロ棋士に勝ち、30代でプロになった方も特例としてありましたが、26歳になったら基本的にはもうプロにはなれない。しかも年間わずか4人までしかプロにはなれないんです。今は高校生タイトルホルダーになった藤井棋聖が、注目されていますよね。それは彼が10代から勝ち続けてきたからです」(波戸氏)

確かにプロ棋士への道は難関だ。まず「新進棋士奨励会」(奨励会)に入ることが義務づけられる。日本将棋連盟によるプロ棋士養成機関である。入会にはプロの推薦が必要で、毎年8月に行われる入会試験では筆記試験もあるが、現役の奨励会員相手に最低でも1勝することが条件だ。

小学生の時期に入会することが、プロへの第一段階。全国大会でトップ3に入る棋力(将棋の実力)が不可欠で、小学生までに同会に入ることができなかったら「もうプロになることは諦めた方がいい、といっていいレベル。入会時に最低でも僕が持っている、アマチュア2段程度は持っていないと無理です」(波戸氏)

奨励会に入会できても、今度は月2回の対局日があり、そこでも勝ち続けていかないと「有段者」になれない。プロ棋士の弟子になることも条件に加わってくる。「師匠につく門下生です。相撲部屋と似ています。一門と呼ばれる組織がある。師匠はタイトルがないプロ棋士の方でも大丈夫なのですが、小学生からいつでもどこでもとにかく勝つことのみ要求されます」(波戸氏)

ちなみに、将棋界の歴史で中学生プロ棋士になったのは渡辺三冠、藤井二冠、引退後もバラエティー番組に引っ張りだこの加藤一二三氏ら、過去にわずか5人しかいない。

「トップのプロ棋士の方々は実は“将棋オンリー”ではない。藤井棋聖はピアノも弾けるそうですし、足も速くて50mは5秒台後半と聞きました。それはサッカー選手と比較しても速いタイムです。渡辺王将はマラソン大会に出場したり、フットサルもします。私もよく一緒にプレーするんですが、サッカーをしていたら相手の攻撃の『手』を潰すこと、いいボランチ(守備的MF)になりますよ。なぜサッカーをするのかうかがったら、渡辺三冠は『勝つためにはリフレッシュすること、それには汗をかくことが一番』と仰ってました」(波戸氏)

対局中の渡辺明三冠(写真:時事通信)
対局中の渡辺明三冠(写真:時事通信)

プロ棋士はいくら稼ぐか。プロを名乗る上で重要な価値の一つだ。日本将棋連盟では年間獲得賞金、対局料のベスト10を公表している。藤井二冠は昨年1年で2108万円(9位)、渡辺三冠は6514万円(3位)にランクされた。しかしこれは彼らが手にする年収のすべてではないという。スポーツ紙の記者が明かす。

「賞金が公表されているのは竜王戦(4400万円)と朝日杯将棋オープン戦(750万円)のみ。それ以外のタイトル料は非公表です。藤井二冠の場合、名人への挑戦権をかけて行われるリーグ戦の対局料があり、2019年のC級1組からB級2組に昇格した藤井二冠は、タイトルを獲得するごとに対局料も3割ほどあがります。

対局料だけで推定2500万円、二冠(王位戦:推定1200万円、棋聖戦:推定700万円)の賞金をあわせ、将棋でかせいだのは4400万円ではないかと思われます。一方、棋聖戦で藤井二冠に敗れた渡辺三冠ですが、7月16日時点で推定4000万円稼いでいて1億円突破は確実とみられます」

藤井二冠が1億円棋士になるのは少し先になるかもしれないが、将棋以外の仕事を引き受ければ、すでに1億円は軽く突破しているという。ある棋士がこう明かす。

「藤井二冠のもとにはCMのオファーが殺到していると思われ、すべて受けると1億はゆうに超えると言われているんです。ただ、藤井二冠はお金に興味がなく、好きな将棋に集中したい、という思いが強いのでしょう、CM同様、取材もかなりオファーが殺到しているそうですが、本業の将棋に影響が出ないよう、制限しながら受けているそうです」

2002年日韓ワールドカップ日本代表候補に常に選ばれ続けていた波戸康広氏(写真:アフロ)
2002年日韓ワールドカップ日本代表候補に常に選ばれ続けていた波戸康広氏(写真:アフロ)

年収1000万円を超える棋士は上位10%しかいない

現在プロ棋士は170名前後。大会賞金と対局料をあわせた年収1000万円を超える棋士は上位10%程度と言われている。では多くの棋士というと「対局だけではなく副業も行なっていると思います」(波戸氏)。1日の行動はもちろん自由だが、勝つために棋士は毎日7時間程度、研鑽を積む、ライバル棋士との研究会や将棋ソフトとにらみ合う棋士も多い。

勝てる棋士が重視する要素が「キレ」だいう。波戸氏は多くのプロ棋士から「『キレ』が大切なのはサッカー選手も棋士も同じです」という言葉を何度も聞いてきた。

「初めは何のことなのか、と思いました。棋士にとってのキレは『意外性』という言葉に置き換えられると思います。実は最近、藤井二冠がある対局で、どのプロ棋士からみても悪手(あくしゅ、悪い手)、凡人が指すような一手がありました。でもこの手はAIが30分近く考えた末に出した最善手の一つでした。それを彼は涼しい顔であっさり指しました。相手の棋士の方は呆然ですよね。定石とは明らかに違うんですから。

でも、AIが導き出した最善手と言われた手が、実は勝つための伏線になる好手になり、結果的に藤井二冠が勝ちました。対局後、なぜそういう手を指したかと藤井二冠に聞くと『感覚です』と。これがまさに藤井二冠のキレです。今の時代、プロ棋士でもAIには勝つことは至難の技と言われていますが、AIでも見抜けないことを、彼は感覚として指せるわけです。藤井二冠が勝ち続けられる理由を見ましたね。将棋の世界では『30歳までは確実に脳が発達する』と言われてますので、末恐ろしい18歳です」(波戸氏)

フットサル風景。渡辺三冠(中央)のボールを奪いに行く波戸氏(左から2人目、写真提供:波戸康広氏)
フットサル風景。渡辺三冠(中央)のボールを奪いに行く波戸氏(左から2人目、写真提供:波戸康広氏)
ドリブルで進む渡辺三冠(写真提供:波戸康広氏)
ドリブルで進む渡辺三冠(写真提供:波戸康広氏)

サッカー日本代表でも活躍した波戸氏は現役時代でも将棋は続けていた。サッカーをプレーしていく上で「一番の参考書」だった。

「将棋とサッカーは似ている、と自信を持って言いきれます。サッカーは最後にゴールを奪う、将棋は『王将』を奪い取る、そのためにどう組み立てるか、という考え方は重なることが多いんです。サッカーが大好きな渡辺三冠も、将棋の解説をする時に『いいビルドアップをしてますね』なんて仰ってますから(笑)

私は現役時代サイドバックでした。攻守にわたって味方の選手をどう使うか、その中で攻撃のスペースをどう作るか、ゴールを奪うための大切な手段です。ストライカーという攻撃の『大駒』に最後に働いてもらうために、他の選手のドリブル突破を演出し、僕が相手をひきつけることによってそのスペースを生み出すわけです。

将棋に置き換えるなら、私は『歩』に近いでしょうか。ひとますしか進めませんが、歩は相手をひきつけるために動かす場合が多くて、そのことによってスペースが生まれます。『飛車、角、金、銀、』といった大駒の攻撃的選手に『王将』を奪うスペースを作るには、『歩』の地道かつ献身的な働きが不可欠です。

将棋の対局は、このハイレベルの読み合いの応酬を繰り広げるため、とても体力を使います。一局終わると『2㎏ほど減る』という棋士の方もいますから」

くしくも9月23日、「棋聖」就位式にのぞんだ藤井二冠も「棋士というものはアスリートと同じく、盤上に対する姿勢を見ていただいているのかな」と双方の共通点を明かした。「盤上の格闘技」をこれからも続ける覚悟を感じさせた。

◆波戸康広氏

1976年5月4日、兵庫県南あわじ市生まれ44歳、兵庫・滝川二高から1995年サッカーJリーグ横浜フリューゲルス入団、横浜F・マリノス、柏、大宮と在籍、2001年にはトルシエジャパンで日本代表初招集、現在横浜F・マリノスアンバサダーを務める、将棋は小学3年から始めて2012年初段、2014年には将棋連盟将棋親善大使に就任した。2015年には二段の認定を受けた有段者

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