ベルリン映画祭、アカデミー賞が推し進める「映画業界の男女平等」

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世界的に映画業界が変わりつつある。今年8月、世界三大映画祭のひとつに数えられるベルリン国際映画祭が、女優賞と俳優賞を統合し“最優秀主演賞”と“最優秀助演賞”の新設を発表した。

9月には、アカデミー賞も作品賞のノミネーションに新基準を設けると宣言。これまで映画業界でマイノリティとされてきた女性、そして人種・民族、LGBTQ+、身体障がい者を、積極的に起用するための取り組みだ。

映画業界では急速に、男女平等を目指すジェンダー・ニュートラルが進みつつある

ベルリン国際映画祭で最後の最優秀女優賞受賞者となった、ドイツ出身の女性俳優パウラ・ベーア。写真:REX/アフロ
イタリア出身の男性俳優エリオ・ジェルマーノ。こちらはベルリン国際映画祭、最後の最優秀俳優賞の受賞者だ。写真:ロイター/アフロ

ベルリンの変革が大きく報じられたことから、ジェンダー・ニュートラルへの注目は高まっているが、それは今に始まったことではない

きっかけとなったのは、2011年にスウェーデン映画協会のCEOにアンナ・ゼルナー氏が任命されたこと。彼女は就任直後に「(同協会が)資金提供する作品のうち、半分を女性制作者に割り当てる」と宣言した。

取り組みのスピードは速く、同年には同協会が資金提供した作品のうち26%が女性監督となり、2014年に目標の50%を達成。スウェーデンの国立映画賞では、主要カテゴリーの受賞監督に、ほとんど性差がみられなくなった

スウェーデンは国際的に見ても男女平等の意識が高いことから、ゼルナー氏による提言はスムーズに受け入れられたのだ。

ベルリン映画祭、アカデミー賞に影響を与えた、スウェーデン映画協会のCEO、アンナ・ゼルナー氏。写真:Shutterstock/アフロ

こうしてジェンダー・ニュートラルを成功させたスウェーデン映画協会は、2016年にカンヌ映画祭で「#5050 by 2020」というキャンペーンイベントを実施する。

これは、2020年までに映画業界の男女比を50/50にしようという取り組みで、イギリスやカナダ、アイルランド、オーストラリア、オーストリアなどなど、政府の資金援助を受けている各国の映画協会が、次々にこのキャンペーンに賛同、追随した。スコットランドでは、映画業界に限らず、公的資金を用いた芸術分野全体を対象にして、会議室からのジェンダーバランス改善を目標に掲げている。

翌年には、欧州評議会の映画制作支援組織ユーリマージュも、さらにはブリティッシュフィルムインスティテュートも「#5050 by 2020」に賛同を示した。

そして、三大映画祭のうち、もっとも男女平等の意識が低いとされていたカンヌも、2018年には「#5050 by 2020」に賛同を示し、「映画制作者と映画祭の主な役員の性別に関する統計を公表する。また、選考プロセスの透明化を促進し、役員会の平等に向けて取り組む」と誓約した。この年に活発化した「#MeToo」や「ウィメンズ・マーチ」の影響も大きかったと推測される。

一方、市場規模の大きいアメリカでも、スウェーデン発信の「#5050 by 2020」が受け入れられてきた

2017年には、大手タレントエージェンシー(芸能事務所)のICMパートナーが「#5050 by 2020」への賛同を示し、従業員に限らず要職にも女性を等しく起用していくと誓約。次いで、クリエイティブアーティストエージェンシーもこれに賛同するなど、ジェンダーバランスへの意識は高まっていく一方だ。

さらに同年、「MTVムービーアワード」が、テレビドラマも対象とした「MTVムービー&テレビアワード」に変更されると同時に、ベルリン映画祭に先駆けて、演技賞で男女の区別を廃止している。

新設された最優秀演技賞には、映画部門にエマ・ワトソン、テレビ部門にミリー・ボビー・ブラウンと、いずれも女性俳優が選ばれたが、「ジェンダー・ニュートラル達成のために女性が選ばれた」といった批判は起きなかった。

これは、同アワードが視聴者の投票により受賞者を決定していること、またその投票者のコア層が若者であることが原因だ。むしろ、視聴者のほうがジェンダー・ニュートラルを歓迎し、高い意識を持っていると言っていい。

映画『美女と野獣』での演技で、MTVムービー&テレビ・アワード最優秀演技賞を受賞したエマ・ワトソン。「演技というのは、他の誰か、つまり“人間”の立場に立つ能力のこと。性別というふたつの異なる領域で区分けする必要はありません」とスピーチした 写真:アフロ

ベルリンの変革が発表された直後の9月に、ヴェネツィア国際映画祭が開催された。カンヌ、ベルリンと並ぶ世界三大映画祭のひとつである同映画祭も、実は2018年に業界の性比率を半々にする活動に賛同している。

ヴェネツィアの開会式で金獅子生涯功労賞を受賞したティルダ・スウィントンは、

「人間は分断することや自分自身を区分けすることに固執しがち。けれど、わたしたちは今、その道に進むべきではないとわかり始めている。性別、人種、階級で人々を分断するなんて人生の無駄。ベルリンの判断はとても賢明で、他の映画賞も追随を避けられないと思う」

と語り、ベルリンの決断を高く評価した。

また、コンペティション部門の審査員長を務めたケイト・ブランシェットも、ベルリンの変化を称賛したうえで、

「“女優”という言葉に、どこか蔑称めいたものを感じていた。だからこそ、わたしは別のスペースを要求したい。性別や性的指向に関係なく、良いパフォーマンスはただ良いパフォーマンスと評価されるべき」

と所感を述べている。

ヴェネツィア国際映画祭で、ベルリンの変化を称賛したケイト・ブランシェット(左)とティルダ・スウィントン。写真:REX/アフロ

「男女の賞を統合してしまったら、女性俳優はより賞を獲得しにくい状況になる」という指摘や、「女性受賞者が少ないと文句が出る」などの穿った意見もある。これらについて、当事者である女性俳優や女性監督は「仕事を正しく評価して欲しい」と声を揃える。

ヴェネツィア映画祭のコンペティション部門にラインナップされたフランスの女性俳優で映画監督のニコール・ガルシアも、「わたしや他の女性監督のラインナップが、正当な評価であることを願いたい」と語り、「ジェンダーノルマを達成するためのジェスチャーに利用されるのは不本意」と明かした。

男女、さらにはどちらの性にも属さないノンバイナリーやトランスジェンダーの役者や制作者が等しく公平に評価されること、女性主体の作品にも大きな需要があることをふまえて映画制作が行われていくこと。映画業界の男女平等、ジェンダー・ニュートラルがもっと進んでいくことを願いたい。

  • 原西香(はら あきか)

    海外セレブ情報誌を10年ほど編集・執筆。休刊後、フリーランスライターとして、セレブまわりなどを執筆中

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