怪死「紀州のドンファン」に田辺市から4000万円振り込み?の謎

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次々起こる不可解な出来事

和歌山県田辺市の資産家で、「紀州のドン・ファン」こと野崎幸助氏が自宅で謎の死を遂げてから、2年半が経った。色々と動きがあったものの、いまだに事件の真相は解明されていない。

怪事件だけに、死後もドン・ファンの回りではトラブルが続出した。その一つが「遺産相続問題」である。

死後、ドン・ファンの「遺言」なるものが裁判所に提出された。そこには「全財産を田辺市に寄付します」と書かれてあり、田辺市はこの遺言を受けて、遺産を寄付として受け入れることを表明した。

しかし、なぜドン・ファンが生前に田辺市に全財産を寄付すると決めたのか、その理由は不明だった。あまりに奇怪な点が多いことから、ドン・ファンの遺族は「この遺言は無効」との訴えを裁判所に起こし、現在、その真偽を巡って係争中である。

私は、生前のドン・ファンと親交があったことから、遺族らからもこの「遺言」について相談を受けていた。私が取材を進めたところ、遺言を入れていた封筒に不可解な点があったり、筆跡にも違和感があったりと、かなり不明瞭な点が見受けられた。

この遺言の行方については裁判所の判断が待たれるが、この遺言をめぐる取材のなかで、私はまたドン・ファンをめぐる「トンデモないこと」に出くわしてしまった。なんと、ドン・ファンの通帳に、田辺市から4000万円が振り込まれたらしき跡が残っていたのである――。

「あの土地、売ったで~」

繰り返すまでもないが、ドン・ファンは田辺市の資産家であった。金貸し業で財を成し、田辺市や周辺にいくつもの土地を所有していた。そのひとつが、田辺市の東山にある土地約60坪だ。少し複雑だが、この土地とドン・ファンとの因縁を説明しよう。

この地は「田辺市庁舎の移転先」候補であった。田辺湾の海岸沿いに建つ田辺市役所は、老朽化が進み、大地震と津波がくれば甚大な被害を受ける可能性があった。そこで市は長年、高台を中心に移転先の候補地を探していた。その一つが、ドン・ファンが所有していた東山の土地周辺だったのだ。

生前、私はドン・ファンから何度か「あの東山の土地な、田辺市が欲しがっとるんや」という話を聞いていた。最初は乗り気ではなかったようなのだが、2016年7月、ドン・ファンが東京にやってきたときのことだ。ドン・ファンは私に会うなり突然、

「あの東山の土地な、あれ、田辺市に売ったで~」

と嬉しそうに話し出したのだ。ドン・ファンは嬉々として、振り込み記録を見せてくれた。

とはいえこのときは、私はさして重要な話でもないと思い、気にも留めていなかった。

さて、話が不可解なのはここからだ。前述のように、私は遺族と「疑惑の遺言」について調査する過程で、ドン・ファンが所有していた土地についての情報も、関係者からもらっていた。

そのなかに、件の東山の土地の登記簿があった。それをじっくりと見てみたのだが、驚いた。この土地は、2016年6月に、「オークワ」という企業に所有権が変わっていたことがわかったのだ。

オークワは、和歌山県を中心にスーパーなどを展開する地元の有力企業だ。オークワは東山に商業施設「オーシティ」を建設。ドン・ファンが持っていた東山の土地は、現在、オークワが運営する総合施設「オーシティ」の駐車場になっている。あれ、ドン・ファンはこの土地を「田辺市に売った」と言っていたはずなのだが…?

そして、登記簿をよく見るとまたまた驚くことが。今年1月に、その土地の所有者が「田辺市」となっているのだ。

もちろん、ドン・ファンが自分の土地をオークワに譲っても、何の問題もない。しかし、私には「田辺市に売った」と明言していた。あれは、ドン・ファンの言い間違えだったのだろうか…。

ちなみに、田辺市は2017年の3月に新庁舎の建設地を東山にすることを決定。その後、オークワが所有していた一帯の土地を続々購入しており、現在は田辺市の所有物になっている。

私は、ドン・ファンから見せられた「振り込み明細」のことを思い出した。そこで、つてをたどってドン・ファンの通帳を確認した。

すると、やはり2016年7月6日にドン・ファンの口座に「タナベシ」から4000万円の振り込みがあったことが確認されたのだ…!

筆者が入手したドン・ファンの通帳記録。タナベシから4000万円が振り込まれていたことがわかる(一部編集部が加工)
ドン・ファンが所有していた土地にはいま、新たな施設が建設されている

整理しよう。ドン・ファンの持っていた東山の土地約60坪は、2016年6月に、オークワが取得。その後、2017年に田辺市は新庁舎の建設地を東山に決定。昨年から、オークワが所有していた東山一帯の土地を、田辺市は次々に購入。庁舎移転の準備を進めている。

そこからさかのぼること2016年7月6日、ドン・ファンの通帳に「タナベシ」から4000万円が振り込まれていた。これについてドン・ファンは生前、「田辺市に土地を売った。そのおカネが入っていた」と話していた――。

まったく奇妙な話である。4000万円もの大金がドン・ファンに振り込まれていたのだとしたら、そこにはなにかあるのではないか…と疑わざるをえない。そこで、私は田辺市の2016年度の決算書を精査することに。この決算書には血税をどこにいくら使ったか、年度単位の歳入・歳出記録が残らず掲載されている。

ところが、ドン・ファンこと野崎幸助氏への支払いが市からあったことについては、何の記載も発見できなかったのだ――。

血税の行方について疑念が浮上した以上、行政には説明責任があるだろう。そこで真相を探るべく、現・田辺市長の真砂充敏氏に話を聞いた。真砂氏は2005年から市長を務めている。

9月中旬、田辺市で開かれたあるイベントに出席中の真砂市長に、「野崎氏の土地について調べているのですが、田辺市は2016年にあの土地を購入したのでしょうか?」と尋ねると、突然の取材に困惑しながらこう答えた。

「それはお答えできません。こんなところ(イベントの会場)で答えることはしていません」

――では、どうすればお答えいただけますか?購入したかどうかだけ知りたいのですが。

「ですから、このような場所での回答は差し控えていますから」

こうなれば、正面を切って市に回答を求めるしかない。私は、田辺市の広報課に「田辺市から野崎氏に振り込まれた4000万円はなんの対価か。なぜその記録が決算書に記載されていないのか。こちらの認識に誤りがあるなら指摘・返答してほしい」等を記した質問書を送った。

ところが、田辺市からは建設部土木課を通じて「弁護士とも協議しておりますが、個人情報に関することですのでお答えは控えさせていただきます」との返答があるのみだった。税金の使用先について聞いているのに「個人情報だから答えられない」とは…。行政としてあるまじき対応ではないだろうか。

田辺市の新庁舎移転に伴う問題などを追及している前田佳世市議も、市の対応に疑義を呈する。

「野崎氏の通帳に、田辺市からの振り込みの記録が残っているのなら、市には説明する責任があるでしょう。しかし、決算書に記載されていないのであれば、なにか公表できない事情があるのか、と疑ってしまいます。議会などを通じて真相を解明していく必要があるでしょう」

生前のドン・ファンの「田辺市に売った」という一言がなければ、この一件は表には出ていなかったかもしれない。遺言の件も含めて、田辺市とドン・ファンの間には、どうにも説明のつかないことが多すぎる。一点の曇りも疑わしいこともないというなら、田辺市は明確な説明を行う責任があるだろう。

  • 取材・写真吉田隆(ジャーナリスト)

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