『不登校新聞』編集長が、コロナ時代の子供たちへ伝えたいこと | FRIDAYデジタル

『不登校新聞』編集長が、コロナ時代の子供たちへ伝えたいこと

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「なんのために学校に行っているのか、よくわからなくなった」

「学校が楽しくない」

そんな子どもたちの悲鳴が上がりだしたのは、コロナウイルス対策による在宅学習期間が明けたすぐ後だった。

当初は、生活環境の急変や外出自粛によるストレスが原因であり、以前のような“日常”が戻ってくればだ自然と落ち着くだろうと思われていた。しかし未だ感染は治まらず、マスク着用やソーシャルディスタンスの確保など、withコロナ下での生活が続いているため、なかなか元のペースに戻れない子どもたちが増えているという。

現在、不登校新聞の編集長を務める石井志昴氏(38)は、中学2年から不登校になり、フリースクールに通ってそのまま不登校新聞の編集部に入社したという人物。withコロナ時代を過ごす親子へ、「学校に行けない」という子どもの気持ちを知る石井氏からのメッセージを伝える。

不登校新聞編集長・石井志昴氏
不登校新聞編集長・石井志昴氏

子どもたちを追い詰める長時間授業とテスト

――不登校新聞(http://www.futoko.org/)では、実際に不登校を経験した子どもやその親の体験談を多く扱っています。その記事を読むと、「学校」に集められて「多くの他人と一緒になにかをやる」ことに、違和感や苦痛を抱いている人が多い。

また、授業が再開された都立高校では、体育祭や文化祭などの活動が取り止めになり、生徒たちは授業を受けるためだけに学校に行っているという状況で、インターネットでは「学校が楽しくない」というつぶやきもよく目にします。

「学校に行って、みんな同じ方向を向いて授業を受ける」ことのメリットとデメリットはなんでしょうか?

「米国出身の日本文学者であるロバート・キャンベルさんは、『一斉授業』という日本の学校システムのメリットとして、一番偏差値が低い子と一番偏差値が高い子との格差が少ない、つまり学力格差が小さいことを挙げています。

一方デメリットとして、生徒全員が同じ方向を向いて授業を受け、学習の理解度をそろえていくのは、非常に効率が悪いやり方であることだと私は思っています。今回のコロナ禍で、それが明らかになりました。

不登校の取材をしていて実感しているのは、やる気になれば、9年間の義務教育分の勉強はごく短期間で修得できることです。私も中学校2年生から不登校になって一切勉強せず、不登校新聞に入社してから学び直しました。自発的なやる気を持てないから、9年もかかるんです。短期間で、義務教育分の勉強を終えた不登校の子どもはたくさんいるんですよ」(不登校新聞編集長・石井志昴氏 以下同)

――不登校新聞で出会った子どもたちは、実際にどのくらいの時間で修得したのでしょうか?

「半年から1年あれば十分です。でも『やる気になってからやればいい』という姿勢は、親の立場では抵抗を感じるし、周囲に遅れをとってしまうという焦りもあるでしょう。集団生活で『我慢』を覚えるために学校に行かせるという意見もありますが、ストレスで円形脱毛症になったり、爪をずっとかみ続けるなどの自傷行為に至ることもあります。

そんな辛い思いをしながら学ぶ勉強や我慢は、本当に必要でしょうか。実は今回の在宅学習期間で、親も子も『学校』に対する意識が少し変わったのかもしれないと感じます」

――これまで不登校体験者とその家族が感じてきたものと同じ思いを、他の多くの人が実感できたということですか?

「その通りです。3ヵ月ほどの在宅学習期間中の、お子さんの様子を思い出してみてください。家事も手伝わないし勉強もしないし、目を離すと変なかっこうでゲームで遊んでいたりして、なんだか腹が立ったということが、1回くらいはあったと思うんです。

でも不登校家庭では、それが日常の風景。親子は近づけば近づくほど衝突が多くなるので、不登校家庭の親が一番に学ぶのが『お互いに見ない』技術なんです。そうしないと、家庭内が悲惨な状態になってしまうんですね」

――子どもではなく、まずは親自身の意識を変える必要があるんですね。子どものストレス過多や行き渋りがある場合、具体的に親はどんな意識で子どもと接すればよいのでしょうか?

「親が家庭で、学校の教師の役割をする必要は一切ありません。学校でがんばってきた子どもを笑顔で迎えて、世間話をしたり不満を聞いたりして欲しいですね。

子どもは、親の笑顔が大好きです。親が笑っていれば、子どもも気持ちが明るくなって笑顔になる。子どもを笑顔にするのは、親にしかできない仕事だと思います」

ーー「勉強しなさい!」と言うのは、親が教師になり替わってしまっている行為だということですね。

「もう1つ心構えとして、どんな子も、親の見えないところで大なり小なりトラブルを抱えていると思ってください。

文部科学省の調査(https://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/31/10/1422020.htm)では、平成30年度の小・中学校の長期欠席者数は全国で約16万4千人います。前年度と比べ、小学校では28%、中学校では9.8%増えて過去最多を記録していますし、子ども支援を行っている日本財団(https://www.nippon-foundation.or.jp/)によると、不登校傾向にある子はその10倍いるという話もあります。

子どもが苦しんでいたら、一目散に『私はあなたを守るんだ』という目で子どもを見つめていただけたら、すごく苦しい状態の少し手前で止められるのかなと思います。学校や友だち付き合いは、場合によっては“戦場”にもなります。『スクールカースト』や『受験戦争』という言葉もありますが、戦いに行く場合には、その大前提として安全に過ごせる基地が必要で、それが家なんです。目に見える現実としては、気兼ねなくダラダラしていられる場所ですが(笑)」

ーー親としては、ある意味「ダラダラしている子どもの姿」から目を逸らし、「やる気が出たらやるから」と怒りをおさめてやり過ごすことも必要なんですね。

「私自身の経験、それからたくさんの不登校経験者を見た立場から言うと、やる気はいつか必ず出ます。ただしやる気が出るのは親が思っているような分野ではなく、ゲームや株など子ども自身が強く興味を持ったものですね。

ゲームにそんなに情熱を注げるなら、勉強にもと思うかも知れませんが、大人も興味が持てないものに力を入れるのは難しいので、子どもなら尚更。親と子は別人なんだという気持ちを持つと、子どもを受け入れやすくなると思います」

Withコロナ時代での親と学校との付き合い方

ーー不登校問題に関わってきた経験から、学校や教師に変わって欲しいことはありますか?

「『通学することに意義がある』という、通学依存の教育体制の見直しです。

さらに学校では、自分の机と椅子が用意された教室で授業を受けることが必須で、保健室や図書館では出席扱いにならないんです。コロナウイルスによる外出自粛で、通学依存体制の脆弱さがはっきりしました。

さらには、通学しないと親も家を空けて働きに出ることができないため、経済が回らないという議論にまで発展して。いつのまにか学校の問題が経済の問題になってしまっていることも、明らかになりました」

ーー通学依存は、そのまま日本社会の通勤依存にも繋がっていると思います。大人の場合は、リモートワークやテレワークの導入で一定の成果が出せることがわかってきましたが、子どもたちのリモート学習に関しては、「ただ授業の動画を見るだけ」「出された大量のプリントをやるだけ」という内容が多く、あまり身になっていない感じがしました。だから、すぐに通学依存に戻った気がします。

「実は1年前に、オンライン授業に関する議論の場が持たれたことがありました。そこで、オンライン授業は実施するけれども、通信制中学校はやらないと文部科学省が結論を出したんです。理由は『心が育たないから』。

学習方法についての議論じゃなかったのかと怒りを覚えましたが、withコロナ時代で再び見直すべきだと思っていますし、実際に経済産業省が音頭を取って、企業と共にオンライン授業を始めようという動きも、水面下で静かに進んでいるようです。

通学以外の学習方法や選択肢の追加は急務ですし、時間的なゆとりを持たせることも必要。3ヵ月間休んだだけで、教師も生徒も授業をこなすだけで精一杯になってしまうのは、そもそもゆとりがない授業の組み方が原因なので」

ーー授業時間を減らすということですか?

「ニュアンスが少し違うかもしれませんが、アメリカの大学では『ギャップイヤー』という制度があります。入学後1年間は、学校以外の場所でボランティア活動や、勉強以外の好きなことをしてもいいという『ゆとり』があるんですね。

そうすると、同じ年齢で一斉に卒業して社会人になる『新卒神話』がなくなるんです。日本の義務教育は、9年間にぎゅうぎゅうに詰めたせいで生きづらくなっていると思いますね」

ーー逆に、今の学校教育に不安を感じている人は、積極的に子どもを塾や習い事に通わせていますが……。

「子どもは何もしない時間で育つのかな、と私は思います。それを裏付けるのが、N高等学校(通称N校)が生徒数1万5千人を突破して、日本一大きな学校になったことです。

N校在校生に話を聞くと、ネットで授業ができるということよりも、『自分なりに学べる環境がある』ことが、一番の魅力だそうです。学習的に必要な授業は1日30分〜1時間程度で、極端なことを言うと、11ヵ月遊んでいても1ヵ月本気でやれば卒業できるし、先生方もそうおっしゃっています」

ーー楽しそうですね!

「そこがいいんですよ。11ヵ月のゆとり時間になにをしているかというと、プログラミングや小説の書き方など、N校が用意した多種多様な授業の中からやりたいことを選び、それを学ぶためにキャンパスに登校するというんです。

実はキャンパスでは、卒業に必要な授業は一切やりません。そんな授業は、ネットで十分だから。キャンパスに来るなら、自分でエンパワーメントしたり、学びたいことにチャレンジしたりしてくださいという体制。現役N校生が『すごくおもしろかった!』と聞かせてくれたのが、東日本大震災の被災地・岩手に行って、起業した授業だというんです」

ーー被災地で高校生が起業したんですか?

「もちろん先生が引率していますが、『どんな事業を行うか』から考えて、漁港で買った魚を町で売るという会社を立ち上げたそうです。毎日赤字か黒字かを出して、赤字ならどうすれば利益が出るのか改善するということを繰り返す中で、いろんなことを学べたそうです。

そんな話を聞くと、学校が単位や卒業にあまりにも縛られているせいで、子どもも大人も、学校自体も苦しくなっているのかなと思わされます」

ーー選択肢やゆとりを増やすということは、子どもが興味を持ったことを自主的に学べる場を作るということかもしれませんね。

Withコロナ時代を過ごす3つの心構え

ーーまだ先行きは不透明ですが、これからwithコロナ時代を過ごすためには、親子それぞれどんな心構えでいればよいと思いますか?

「どうすればよいのかは、私にもわからないというのが本当のところですが、不登校の子どもを取材している中で、3つの前提があると思っています。

1つ目は、いくらがんばっても、不登校は親のがんばりでは予防できないこと。

2つ目は、勉強の遅れは、後からいくらでも取り戻せること。共働き世帯も増えましたし、社会人になって働き始めてから『勉強のし直し』をした経験を持つ大人が、増えてきたと思うんです。子どもも同じです。

そして3つ目は、発達心理学者の浜田寿美男さんがおっしゃっていたことですが、『人生に準備期間はない』。

子どもは、大人になるための準備期間だと捉えている方が多いと思いますが、子どもは“今”を生きている。だから“今”子どもが幸せかどうか誰かが気にしてくれたら、良いと思います。もちろんその『誰か』が、親なら一番うれしいでしょうし、子ども自身にも『今、幸せだ』と感じて欲しい。

『大人になるまで我慢しよう』と思えているときはいいのですが、あまりにも“今”が辛くなってしまったり、『もう死にたい』と思いつめるくらいなら、“今”を楽しく生きて欲しいです。人生の全部が全部、夢のような生活というわけにはいきませんが、『どれだけ“今”を楽しめるか』という視点が、私は大切なことだと思います」

ーー石井さん自身が、やる気になったきっかけはなんでしたか?

「私の場合は、学校に行っているときが本当に辛かったんです。友人や教師との関係がうまくいかず、死ぬことばかり考えていました。でも学校に行かなくなって、ゆっくり休むことができた。休んだおかげで、フツフツと自然にやる気が湧いてきました。不登校にならなかったら、危なかったと思っています」

ーー不登校新聞のHP(http://www.futoko.org/)には、石井さんのような体験談や識者のインタビューなどがたくさん掲載されています。読んでみると、本当に不登校から立ち直ったきっかけは、人によってさまざまなんですね。

「不登校新聞が常に発信しているのは、『不登校でも生きていける』ということです。自分が不登校だったことを否定して、がんばる必要はありません。『社会は思ったよりも“ユルイ”』(笑)。これが、不登校だった私からの言葉です」

  • 取材・文中村美奈子

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