座間「9人殺害事件」初公判 白石被告が凶行に走った背景 | FRIDAYデジタル

座間「9人殺害事件」初公判 白石被告が凶行に走った背景

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送検時の白石被告
送検時の白石被告

2017年10月30日に、神奈川県座間市のアパート居室内で9人の遺体が見つかったことから発覚した座間9人殺害事件。この部屋の住人だった白石隆浩被告(29)の裁判員裁判初公判が9月30日、東京地裁立川支部で開かれ、白石被告は「起訴状の通り、間違いありません」と全ての起訴事実を認めた。

8件の強盗強制性交等殺人、1件の強盗殺人、そして9件の死体損壊と死体遺棄罪に問われている白石被告は、官品と思しき黄緑色の作業服上下にマスク姿。肩甲骨のあたりまで伸びたボサボサのロングヘアで証言台の前に立ち、検察官による長い起訴状読み上げの間、体をゆっくりと左右に傾けていた。上半身の後ろ姿は、着ぶくれしているかのように、肉付きよく見える。

起訴事実を全て認めた白石被告だったが、弁護人の主張は異なっていた。

まず、犯行時は精神病のため心神喪失状態にあったか、少なくとも心神耗弱状態だったと主張。ほか、各犯行について殺意を持って殺害したことは争わないが、全ての被害者から承諾を得ており、承諾殺人が成立するとも主張していた。加えて、殺害後に被害者から奪っている現金や、被害者に負っていた債務に対しても、それぞれ被害者らに承諾を得ていたのだと主張している。

8人の女性、1人の男性、計9人の被害者の氏名等については秘匿の措置が取られ、公判中はそれぞれアルファベットでA〜Iさんと呼ばれていた。事件発覚のきっかけは2017年10月24日、Iさんに対する行方不明届を高尾署が受理したことだ。

捜査の過程で失踪間際にIさんが白石被告とSNSで連絡を取り合っていることが分かり、同月30日、署員が白石被告の自宅を訪問した。Iさんの行方を訪ねる署員に対して当初「知らない」と答えていた白石被告だったが、その後間も無く観念し「金と性欲目的で9人を殺害した」ことを自白。室内に置かれたクーラーボックスから人体の頭部が発見され、一連の事件が明るみになった。

起訴状や検察官冒頭陳述によれば、各被害者に対する犯行手口は、ほぼ同じだった。

「頸部を手で絞めて失神させたのち、性交のうえ、居室内ロフトに上がるはしごにロープをくくりつけ、輪を作り、その輪に被害者の首を通して吊り下げ、頸部を絞めつけて窒息死させた」(起訴状)

男性であるCさんに対しては強制性交を行なっていないだけで他の手口は同様。Fさんに対しては、寝ている状態のFさんを緊縛し、ロープに首をかけようとしたところで目を覚ましたため、そのまま首を絞め、失神させた。そのあとは上記態様と同じである。殺害後は所持金を奪い、浴室で遺体をバラバラにしたのち、肉片は投棄。頭部は「投棄すると発覚すると考え」(検察側冒頭陳述より)たことから、鍋で煮るなどしたのちに自宅居室内のRVボックスやクーラーボックスなどに入れ保管していたという。

一連の犯行は「ヒモになりたい」という欲望からスタートした。

「被告は高校卒業後、スーパーやパチンコ店での勤務を転々としていた。2015年10月ごろ、インターネットで出会った女性を風俗に紹介するスカウト業を始めた。2017年2月、このスカウトに絡み、職業安定法違反で起訴された。翌月に保釈され実家に戻り、父と二人暮らしをしながら、倉庫会社でアルバイトをしていた。

被告は『折り合いの悪い父のもとを離れ、働かず、女のヒモになりたい』と考えるようになり『自殺願望のある女なら、いいなりにしやすいのではないか』と思い、3月15日にTwitterを始めて女性とのやりとりを開始し、自殺願望があると嘘をついて女性を誘い始めた」(検察側冒頭陳述)

そしてAさんと知り合った白石被告は、説得してAさんの自殺を思いとどまらせた。その後同棲を持ちかけてAさんから金を借り、現場となったアパートに入居する。ただ、すでに「ヒモになれなかったら殺そうと、ロフト付きの部屋にした」と、殺害することも念頭に置いていたという。最終的に、いずれはAさんは自分の元を離れるのではという思いから、殺害を決意した。

その後も同様に「自殺願望のある女性を自宅に誘い込み、金づるにできるかどうか見極め、金づるになる見込みがなければ失神させて姦淫し、殺害して遺体を徹底的に損壊しよう」と犯行を重ねていった。当初はあくまでもヒモ目的だったが、Aさんの事件時、失神させて姦淫した際に「通常の性行為では得られない快感を得られた」ことから「働かず金が手に入り性的欲求も満たせる」と、殺害前に必ず姦淫するようになった。一人の被害者に対しては死後にも姦淫している。

一連の事件時は、職業安定法違反により有罪判決を受けた直後で、執行猶予中だった。

冒頭陳述が終わり、続けて行われた検察官請求証拠の取り調べでは、逮捕当時のアパート居室内の写真や、頭部や大腿骨などが収められていたクーラーボックス等の写真も、法廷の壁に取り付けられた大型モニターに映し出された。加えて、高尾署の署員がアパート居室内で遺体を発見するまでの詳細も明らかになった。

「Iさんの行方に心当たりがないか警察に尋ねられた被告は『あります。2〜3日前のことですよね』と言い『会ったその日に別れました。別れた場所はここです』と答えた。リビングにはクーラーボックス等の収納箱や衣類が雑然と置かれ、その中に女物のバッグがあった。

警察らの追及に、被告は当初うつむき、黙り込んでいたが、『正直に言いなさい』と言われたことから『すみません、正直に言います。私が殺しました。逮捕してください』と話し始めた。遺体の処分について問いただすと『頭部はクーラーボックスに入れた』と言い『あの子はここです』と玄関にあるクーラーボックスを指差した。“あの子”という言い方から、他にも遺体があるのかと追及したところ『9人です』と答えた」(証拠書類より)

クーラーボックスにはそれぞれ、猫砂が敷き詰められ、遺体の頭部が1つから3つ、おさめられていたという。証拠からは、被告がスマホでブラウザやYouTubeを開き「包丁 殺し方」「人間 解体」などのキーワードでたびたび検索していたことも分かっている。また8月中旬から逮捕直前まで、近隣のホームセンター等で、猫砂やペットシート、入浴剤などを頻繁に買い求めていた。

公判は12月15日に予定されている判決を含め、計24回開かれる。今後、9人の被害者を複数にグループ分けして、複数回の中間論告を挟みながら審理が続けられる予定だ。

初公判閉廷後、裁判所敷地外で記者らの囲み取材に応じた白石被告の弁護人は、罪状認否で主張した「心神喪失もしくは心神耗弱状態にあった」ことについて、被告が事件当時、何の病気だったのかと尋ねられ「何らかの精神疾患がある」と回答していた。

  • 取材・文高橋ユキ

    傍聴人。フリーライター。『つけびの村 噂が5人を殺したのか?』(晶文社)、『暴走老人・犯罪劇場』(洋泉社新書)、『木嶋佳苗 危険な愛の奥義』(徳間書店)、『木嶋佳苗劇場』(宝島社)、古くは『霞っ子クラブ 娘たちの裁判傍聴記』(新潮社)など殺人事件の取材や公判傍聴などを元にした著作多数。

  • 撮影結束武郎

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