死をめぐるドラマ『天使にリクエストを』に命の重さを感じたい | FRIDAYデジタル

死をめぐるドラマ『天使にリクエストを』に命の重さを感じたい

やさぐれた探偵を江口洋介が好演!

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『天使にリクエストを』に主演の江口洋介
『天使にリクエストを』に主演の江口洋介

最近、週末の楽しみが『天使にリクエストを〜人生最後の願い〜(以下、天使にリクエストを 略)』(NHK総合・毎週土曜・21時〜)だ。江口洋介、上白石萌歌、志尊淳など、まるで一本の映画のような豪華キャストたち。彼らが作品で真っ向から向き合っているのは人の“死”である。

今年は、こちらが取り残されたような気持ちに陥る“死”が続いている。偶然にも人の命について取り上げているこの作品から伝わってくるものを、ここで少しだけ振り返ってみたい。

ちょっと生意気な大人の演技は、江口の得手

まずは『天使にリクエストを』のあらすじを。

“島田修悟(江口洋介)は、元刑事で現在は探偵事務所を経営して生計を立てている。ある日「友人の最後の願いを叶えてあげて欲しい」と、裕福と思われる老女から依頼を受けて、余命わずかな人たちが人生最後の願いをサポートしていく。この行動に助手の小嶋亜花里(上白石萌歌)や、看護師の寺本春紀(志尊淳)も参加をする。”

この作品の中では、様々な“死”が交差している。

島田の前職は刑事だった。ただ、一人息子と休日を楽しんでいるときに狙っていた犯人に遭遇、つい追いかけてしまう。父親の後を追った息子は、不運にも犯人の銃弾に当たり、命を落としてしまう。その後、自分を責め立てる妻とは夫婦関係も続かず、離婚。そして探偵事務所を開いたものの、自堕落な生活のまま大して儲けもない。島田は今も罪の意識に苛まれている。

ふと思う。島田が老女からの依頼で『最後の願いを叶える』ことになったのは、息子の死に対する贖罪なのかもしれない。

普段の探偵仕事もいい加減な対応なのに、前述の依頼に関しては刑事時代に培った能力を遺憾なく発揮して、調査をする島田。江口のこういう“突っ張っているけれど、ホントはすごく情に厚い、いい男”演技が好きだ。過去に演じていた『ランチの女王』(フジテレビ系・2002年)で、突然現れた麦田なつみ(竹内結子)をなかなか認めない、頑固なシェフ・鍋島勇二郎役。それから『ヘッドハンター』(テレビ東京系・2018年)の、強引にヘッドハンティングを進めるけれど、最後は情を見せていた黒澤和樹役がこの演技のイメージに近い。

ちょっと生意気そうな大人を演じさせたら、今の日本で江口洋介の右に出る者はいない気がする。

命を断つ勇気よりも、時間にすがる努力を

第一話、第二話で島田が『最後の願いを叶える』ため最初に動いたのは、余命わずかな大松幹枝(梶芽衣子)の依頼だった。若い頃、望まぬ妊娠から捨ててしまった我が子に会いたいと言う。何かを吹っ切ったような島田の行動で発見された、息子は反社会組織のトップにいた。そして数十年ぶりの再会を果たす、

「ごめんなさい、ごめんなさい。本当はあなたとずっと一緒にいたかった」

土下座をしながら詫びる母。どんな状況で“死”が迫っていても、悔いはある。幹枝も大罪を犯してしまったことを理解しながらも、我が子には会いたいと抑えきれない欲がわいてしまう。親子の繋がりが否が応でも伝わってくる瞬間だった。

結果、幹枝は顔をぐちゃぐちゃにして泣く島田に見守られて亡くなってしまう。ここはひとつの“死”を通して、彼が立ち上がろうとする瞬間でもあるのだと思うと、前述と合わせた二つのシーンで、不覚にも涙がこぼれてしまった。

今、改めて命の尊厳について考える事件が続いている。どんな生き方をしても死ぬ瞬間に悔いは本人にも、周囲にも残る。残らないわけはない。そして“死”はいつ訪れるか分からない。後悔をするのなら、死ぬまでにやりたいことをやるべきだと思う。“断つ勇気よりも、時間にすがる努力の方がかっこいい、美しい”。第二話の視聴後にそんなことを感じた。

さらに今年は生死に関わることだけではなく、コロナ禍によって、価値観が変わった人も多いと思う。個人的にも、限られた時間と環境下で誰と過ごすのか? を深く考えた。『天使にリクエストを』はこの状況で何を大切にして、誰を守ればいいのかを案内してくれる、とても上質な作品だ。全5回の放送、ほぼ一話完結なので、ぜひ一度。

  • 小林久乃

    エッセイスト、ライター、編集者、クリエイティブディレクター、撮影コーディネーターなど。エンタメやカルチャー分野に強く、ウエブや雑誌媒体にて連載記事を多数持つ。企画、編集、執筆を手がけた単行本は100冊を超え、中には15万部を超えるベストセラーも。静岡県浜松市出身、正々堂々の独身。女性の意識改革をライトに提案したエッセイ『結婚してもしなくてもうるわしきかな人生』(KKベストセラーズ刊)が好評発売中。

  • 写真Keizo Mori/アフロ

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