菅田将暉&小松菜奈W主演の映画『糸』に感じる”違和感の正体” | FRIDAYデジタル

菅田将暉&小松菜奈W主演の映画『糸』に感じる”違和感の正体”

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映画で共演した小松菜奈とは熱愛報道も飛び出した菅田将暉
映画で共演した小松菜奈とは熱愛報道も飛び出した菅田将暉

映画『糸』は、不思議な映画だ。

主役を演じる菅田将暉と小松菜奈の熱量ほとばしる演技もさることながら、菅田演じる漣のがんで亡くなる元妻・香を演じる榮倉奈々の鬼気迫る芝居にも目を奪われてしまう。それなのになぜか、ぬぐいきれない違和感を覚えてしまうのは、なぜだろうか。

「映画『糸』は、中島みゆきが知人の結婚式を祝して作り、‘92年にリリースされたアルバム『EAST ASIA』のエンディングを飾った楽曲。‘98年に放送された金曜ドラマ『聖者の行進』(TBS)の主題歌に起用され、シングルリリースされました。

平成を代表する名曲として認知されるようになったのは‘04年、Mr.Childrenの桜井和寿がプロデューサーの小林武史と結成したチャリティ・プロジェクト”Bank Band”のカバーアルバムの中で取り上げたことがきっかけ。その後、数々のCM曲に取り上げられ、これまで120組を超えるカバーバージョンがリリースされて来ました」(ワイドショー関係者)

この映画は中島みゆきの楽曲「糸」から着想を得て、平成元年に生まれた男女が時代に翻弄されながらも、北海道・東京・沖縄・シンガポールを舞台に壮大なラブストーリーを紡いでいく物語。違和感の正体は、”楽曲に寄り添い過ぎる”ことにあると指摘する声がある。

「映画の原案・企画プロデュースを手掛けた平野隆氏は、歌詞の一節『織りなす布は いつか誰かを 暖めうるかもしれない』『いつか誰かの 傷をかばうかもしれない』に着目。この映画のメインテーマに据え、具体的な設定について『遠い空の下 ふたつの物語』の歌詞から二人を離れ離れにしようと考えたと明かしています。

さらに脚本を手掛けた林民夫氏は、冒頭の歌詞『なぜ、めぐり逢うのかを 私たちは なにも知らない』が染み渡る物語にしたい。そのためには、トリッキーな構成ではいけないと思い直したと告白。その上で王道を恐れずに、ただひたすら『糸』としか呼べない物語を作ろうと考えたと話しています。映画で楽曲をモチーフにすることはよくあります。しかしこの作品は、楽曲の世界にあまりにも忠実に寄り添い過ぎたおかげで、観客の最大の楽しみでもある”想像する喜び”を、残念ながら奪ってしまったのかもしれませんね」(放送作家)

将来はプロのサッカー選手になって世界を飛び回る夢を語っていた漣(菅田)が結局、北海道の田舎町のチーズ工房で働き、この街で”普通に”生きていくつもりだった葵(小松)が、養父による虐待がきっかけで街を逃げ出し、東京、沖縄、シンガポールへと羽ばたく展開は見応え充分。その折々、二人が再開しては別れていくシーンも印象的に描かれていた。

「他にも札幌に引っ越した中学生の葵を探しに来た蓮が虐待の実態を知り、二人で雪の中を逃避行する場面や、母の居所を探しに来た葵が蓮と街の市役所で再会。函館の叔父(竹原ピストル)の元を訪ね、母の死を知るロードムービーも中々の秀逸。さらに亡き妻・香(榮倉)と、蓮の親友・竹原直樹(成田凌)がカラオケで中島みゆきの歌『ファイト』を歌う場面は、語り合うよりも強いメッセージが伝わってきました」(前出・放送作家)

そして何より、菅田、小松を始め、榮倉奈々、斎藤工、二階堂ふみ、成田凌といったドラマや映画で主役を演じる俳優たちが10人以上も結集。熱い演技バトルを繰り広げていただけに、壮大な伏線回収となるはずだったラストシーンは残念でならない。

「平成最後の日。津軽海峡を渡る連絡線の函館フェリーターミナルで蓮が葵の名前を叫びながら探し回る場面をクライマックスとして成立させるためには、もっとストーリーにいろんな可能性を残してハラハラドキドキさせて欲しかった。平成の30年間をかけた壮大なラストシーンにするためには、楽曲『糸』に対するもっと違ったアプローチがあっても良かったのではないでしょうか」(制作会社プロデューサー)

中島みゆきの「糸」は、『縦の糸はあなた 横の糸は私 逢うべき糸に 出会えることを 人は 仕合せと呼びます』という歌詞で締めくくられている。ここで、素朴なこの歌に深みを与えているのが”仕合せ”の三文字。”仕合せ”とは、良い巡り合わせの”幸せ”とは違い、”良くない巡り合わせ”も含まれる奥の深い言葉。また「希望はあるけど約束されたものではないとも」とも解釈できる。

「バブル崩壊のタイミングにリリースされた『糸』は、知的障害者たちを聖者にたとえた野島伸司脚本の問題作『聖者の行進』の主題歌として注目を集め、やがて東日本大震災直後に被災者に寄り添ったまさに平成の名曲。果たして今回の映画が映画史に爪痕を残せるのか気になるところです」(前出・制作会社プロデューサー)

8月21日に公開され、初登場で興行収入1位を記録。現在、140万人以上の人達が足を運んだ映画『糸』。平成時代を彩る名作として、令和にその名を刻むことができるのか。今後の評価を待ちたい。

  • 島右近(放送作家・映像プロデューサー)

    バラエティ、報道、スポーツ番組など幅広いジャンルで番組制作に携わる。女子アナ、アイドル、テレビ業界系の書籍も企画出版、多数。ドキュメンタリー番組に携わるうちに歴史に興味を抱き、近年『家康は関ケ原で死んでいた』(竹書房新書)を上梓

  • PHOTO坂本信二

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