義理の息子殺人 初公判でわかった長島悠介被告の「嘘まみれ人生」 | FRIDAYデジタル

義理の息子殺人 初公判でわかった長島悠介被告の「嘘まみれ人生」

さいたま地裁 写真:時事
さいたま地裁 写真:時事

「英会話塾から息子が帰ってこない」

昨年9月17日の夜8時過ぎ、さいたま市見沼区の集合住宅に住む女性から110番通報が寄せられた。これを受け警察が捜索に当たったところ、空室だった女性宅の向かいのメーターボックス内から、女性の息子である小学4年男児(9=当時)の遺体が発見された。

男児を殺害し、その遺体を遺棄したとして程なく逮捕されたのは、あろうことか女性の夫であり、男児の義理の父だった。彼は息子の首を自宅にあった電気コードで絞めて殺害し、その遺体を遺棄していながら捜索に参加していた。

経歴を偽って出会い、結婚

その長島悠介被告(33)に対する裁判員裁判は9月30日からさいたま地裁(任介辰哉裁判長)で行われた。公判では「間違いありません」と起訴事実を認めたが、これまでに供述を変遷させてきた過去があった。逮捕直後には認めていたというものの、のち否認に転じ、さらに「死体遺棄はやったが殺していない」「殺したが遺棄はやっていない」など二転三転させていたのだという。

公判で分かったのは、長島被告が、取り調べの時だけでなくそれまでも“嘘にまみれた”人生を送ってきたということだった。

まず今日に至るまで、一度も仕事に就いたことがなかったにもかかわらず、経歴を偽って元妻と出会い、そして結婚していた。

地元・広島の高校を卒業後、2008年に東洋大学に入学した被告は、大学の近くにアパートを借り、一人暮らしを始めたが、まもなく後輩女性とアパートで同棲するようになる。大学にも行かなくなり、2013年に除籍された。しかしその後も働くことなく、それまで通りに母親から仕送りを受けながら、無職で同棲生活を続けていた。

男児の母であり、シングルマザーだった元妻と知り合ったきっかけは婚活アプリだ。2018年夏頃から、被告はアプリで女性を探すようになり、そこで出会った元妻と何度かデートを重ねた。男児とも会い、同年11月に結婚を申し込んだという。だが、被告はこのアプリに『元保育士で、女性だけに家事をさせません。音楽関係の仕事をしています』と、全く嘘の経歴を書いていた。元妻には「大卒で、保育士と社会福祉士の資格を持っており、avexという音楽関係の会社の社員」だと細かな嘘をつき、結婚に至っている。

元妻だけでなく両親もその経歴を信じていたのは、結婚の報告の際に対面した被告の実母が、これらの嘘を黙っていたことにも起因するという。元妻とその家族が全てを知ったのは、被告が逮捕されてからだった。

経歴を偽った理由を弁護人に問われ、グレーの半袖Tシャツに短パン、裸足というラフなスタイルな被告は、高く弱々しい声で答える。

被害者との出会いまで続いた、大学時代からの同棲生活

「細かくは省きますが……高校の時に、保育士に憧れて、大学に入って通信教育を受けていました。憧れが大きかったってのはあります。音楽関係というのは……大学の時に所属していた劇団で音響を担当していたので、そのことも職業選択の一つであって、やりたいなと思ったということがあります」

要するに“なりたい自分”を書いていただけのようだ。同年12月に元妻との同居を始めるまで、アパートでは大学時代からの彼女と同棲を続けていたが「叔母のところに引っ越すから部屋を引き払う」と彼女にも嘘をつき、元妻との“新しい生活”を始めた。

「まあ、アパートでの暮らしを脱却したかったことと、気持ちをリセットしたかった」

こうして二重の嘘により生活をリセットした被告は2019年3月、元妻と入籍し、その息子で今回の被害児童と養子縁組する。「avexの上司のパワハラがひどくて自宅待機をしている」と元妻に嘘をつきながら就職活動を続けていたというが、その際も「東洋大卒。保育士と社会福祉士の資格あり。avexに2019年3月まで勤務」という全く嘘の履歴書を書いていた。

実母からの援助を受け家を購入

結婚生活をさらに嘘で固めるべく、被告は元妻に“家の購入”を持ちかける。300万円の頭金を被告は実母に出してもらい、さらに2500万円の援助を受け、元妻と5300万円の家を買った。

弁護人 「買おうと思ったのはどんな気持ちからなんですか?」
被告 「大きかったのは、家族ができた、僕にできることはないかなと思ったのが大きかったです」

2019年4月から、男児は4年生になり、新しい家族の日常がスタートしたが、被告は男児が「自分の言うことをきかない」ことに不満を抱いていたという。そして男児に不可解な出来事が頻発する。紅白帽と、キッズケータイがたびたび紛失するようになったのだ。これを被告は「それぞれ一度だけ隠しました」と弁護人に説明していた。自ら隠したうえ「片付けないからこんなことになるんだよ」と、説教すらしていたという。

そして事件のきっかけも、被告曰く、紅白帽だった。

「帰宅時、息子は紅白帽を所持していませんでした。『どうしたの』と聞いたら『あれっ』というふうになり『探してきな』と行かせました。『なくしたんだから怒られるのは当然でしょ』と言うと、息子はパニックになりました。

『僕なんかいなくなってしまえばいいんだ、死んじゃえばいい、死にたい死にたい』と言ったのでそこで初めて怒鳴りました……。『そんなこと言ったら、ママが悲しむだろ!』と……すると『本当のお父さんじゃないくせにママみたいに言わないでよ』と言われて……絶句しました」

こうして頭が真っ白になった被告は「無意識に子供の首にコードをかけてしまった」。そして「119番通報を考えましたが彼女(元妻)の顔が浮かんでしまい、あの子が死んでるのを知られるのが怖かった」と、その遺体をメーターボックスに隠した……のだと主張する。

被告は遺体の上に黒いビニール袋をかぶせているが、その理由も“葬い”の意味であったと涙ながらに訴える。

「遺体をメーターボックスに置き、家に戻った時、和室に黒いビニール袋があるのが目に入りました。あの子が見えたら可哀想だと思い、かけてあげようという気持ちから、あの子にかけてあげました……!(嗚咽しはじめる)」

ところが、検察官からの被告人質問が始まると、供述の不審点がつぎつぎと露見することになった。

検察官 「ゴミ袋をかけたのはどういう意味ですか?」
被告 「亡くなった方の顔に布を被せるのと同じです……」
検察官 「でもゴミ袋ですよね? そもそも暗いところに入れられているだけで可哀想なんですが、ゴミ袋をかけるのはどういう心境ですか?」
被告 「わからないですぅ」
検察官 「メーターボックスの扉には小さな窓がありますね。覗き込んだ時に見えないように隠したんではないですか?」
被告 「そういうことはなかったです」
検察官 「でもあなたここに被害者の遺体をずっと入れておくことはできませんよね?どうしようと思ってたんですか?」
被告 「ばれなければ、後で出してあげようと考えてました……どこかに埋めようと……」
検察官 「何のために?」
被告 「隠したかったんだと思います」

元妻の通報による捜索で、男児の遺体が見つからなければ、人知れず別の場所に遺棄するつもりだったようだ。加えて、事件の日になくしたと被告が言う「紅白帽」についても、近隣の防犯カメラ映像には、男児が紅白帽をしっかりと被って下校する様子が映っていた。検察官は「下校した男児のかぶっていた紅白帽を、被告がこっそり窓から投げ捨てたところを見られて殺害したのでは」とみていたようだ。

検察官 「どこでなくなったんですか?」
被告 「本人じゃないとわからないです」
検察官 「この事件まで被害者は何度も帽子をなくし、その度にお母さんに怒られていたんですよね。それまで『死にたい』と言ったことはありましたか?」
被告 「ないです」
検察官 「なのにこの日、紅白帽をなくしただけで『死にたい』と言ったんですか?」
被告 「はい!」
検察官 「週末にはディズニーランドに行く予定だったんですよね? 学校を楽しんでたんですよね、友人もたくさんいたんですよね? 前の日にテストで100点とったんですよね? そんな子がその日に『死にたい』と本当に言ったんですか!」
被告 「あの子はパニックになると『死にたい』ということ、よくあります」
検察官 「直前まで、死ぬなんて軽々しいこと言わないようにと怒鳴ったんですよね? 命の大切さを説いたあなたがなぜ、直後に殺したんですか?」
被告 「それが分かっていれば、事件を起こしていません」

検察官が涙声になりながら質問を続けたが、被告に響いている様子はなかった。

問題の紅白帽は、かつて被告が「事件から数ヵ月前に、紅白帽を一度だけ投げた」というベランダの下の植え込みから発見されている。帽子には、男児の筆跡で名前が書いてあった。それは殺害される2日前、男児が自分で書き込んだものだという元妻の証言から、事件当日に被害者が被っていた帽子だということは明らかだ。過去に男児がなくしたというキッズケータイのうち1台も、電源を切った状態で、住宅敷地内から見つかった。

「被害者が母親の膝に座った時に突然怒ったり、被害者が自分のいうことに従わず不満を溜め込み、当日、かねてより抱いていた不満を爆発させた」と懲役20年が求刑された被告には、10月9日の判決公判で「強固な殺意に基づく犯行」として懲役16年の判決が言い渡された。

「9年間育ててきた息子はとても可愛く、愛おしい存在でした。3歳の時に離婚して、シングルマザーとして2人で生活してきました。仕事や子育ての両立は大変でしたが、疲れていても、息子の笑顔を見ることが何よりの幸せでした。

明るく優しい息子は『ママ、ご飯を作ってくれてありがとう』『洗濯物を干してくれてありがとう』と手紙を何度も書いてくれました。私はそれに励まされて元気をもらっていました。息子は何にも代えがたい存在で、生きる希望でした。愛情を注ぎ、大人になるまで成長を見届けるのが私の使命だと思っていました……」

ともに人生を歩んでいくはずだった夫により、我が子を奪われた元妻は公判で涙をこらえながらこう証言した。「事件後にネット上では私のことで事実と全く違う書き込みがなされ、それを信じた人による心ない中傷がありました。それらの書き込みを目にして、自分は死んだほうがいいと背中を押されたような気がしました」とも振り返る。ネット上の言説により、元妻の父親も仕事を解雇されたという。

判決公判で裁判長は「養子縁組からわずか半年の犯行。なんの落ち度もない被害者に対する殺害行為はあまりにも短絡的で酌量の余地がなく強い非難に値する。死体遺棄についても身勝手で悪質」と指摘した。

「許しませんよ絶対に! 息子を返してよ!」

論告求刑の日、男児の母親は被告にこう声を荒げた。わずか9歳の子供の未来を奪った行為の重さを、被告が刑務所で受け止める日はくるのか。それとも出所後もまた嘘を塗り固め、人生を歩んでゆくのか。

  • 取材・文高橋ユキ

高橋 ユキ

傍聴人、フリーライター

傍聴人。フリーライター。『つけびの村 噂が5人を殺したのか?』(晶文社)、『暴走老人・犯罪劇場』(洋泉社新書)、『木嶋佳苗 危険な愛の奥義』(徳間書店)、『木嶋佳苗劇場』(宝島社)、古くは『霞っ子クラブ 娘たちの裁判傍聴記』(新潮社)など殺人事件の取材や公判傍聴などを元にした著作多数。6月1日に「逃げるが勝ち 脱走犯たちの告白」(小学館)が新たに出版された

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