講談師・神田伯山が初めて語るYouTube大成功のウラ側
襲名披露興行の舞台裏をレポートし、ギャラクシー賞を受賞 コロナ禍にも負けず、チャンネル登録者数15万人
二ツ目時代から独演会で寄席を満員にし、真打昇進襲名披露興行もたちまち完売。「日本一チケットの取れない講談師」と言われる神田伯山(37)がフライデーに初登場だ!
新型コロナ拡大を受けて、3月11日以降の襲名披露興行は中止となったが、興行開始に合わせて開設した公式チャンネル『神田伯山ティービィー』が、ユーチューブ史上初のギャラクシー賞を受賞した。伯山をユーチューブの世界に引き込んだ関口ケント(『神田伯山ティービィー』運営会社CEO)と、大成功の裏側を語り尽くした。
関口 一番最初の動画は、汚くて暗い僕の事務所で撮ったんですよね。あのときは、まだ、何をやるかって、そんなには決まってなかった。ただ、伯山先生が「徳の高いユーチューブを作る」って最初におっしゃったときに、ピンときて。方向性は決まってましたね。
伯山 ユーチューバーって、本当に素人芸で、〝板に立ってない〟人たちのしゃべりだなって、それが凄いと思うんですよ。もちろんディスってるわけじゃないんですけど、これが人気出ちゃったら、文化ってどうなるのかなって思いはあるわけです。その素人芸が優勢になっているところに講談という真逆の芸能を入れていった時に、どういう化学反応が起こるか?っていうのが、僕と関口さんの狙いでしたよね。関口さんが、最初は、あえてサムネイルをちょっとダサめに作る、って言ってたのも面白かった。
関口 (映像の)プロが入ったコテコテの感じにしちゃうと、不安定さがなくなっちゃうので。
番頭にカメラを渡して

伯山 で、いきなり襲名披露のパーティ準備に行くじゃないですか。この日、『情熱大陸』の取材とかも入ってたんですけど、「それとは別物なんだな」って話しましたよね。『情熱大陸』さんは素晴らしいんですけど、やっぱり短い。そしてどうでもいいところを撮らない(笑)。
関口 尺のこともあるけど、テレビ的に「これ、映しちゃって良いの?」という場面を、伯山ティービィーは映したんですよね。舞台裏で、番頭や若い衆に伯山先生が「手伝ってくれてありがとう」ってお金を渡してるとこ。こんなの普通見せないだろう、と。あそこで、「あ、このチャンネルいけるわ」って僕は思いました。
伯山 そうなんです。金配ってるところ、どうでもいいです。最高にどうでもいい、今まで削られてきた映像(笑)。それが新しかったですね。そうすると、こっちも自分の皮膚感覚で編集に関わらせてもらうことがけっこう大事で。
関口 ユーチューブって、たとえば野球の試合で、選手がブチ切れてる様子を観客席から撮った動画とかが、けっこう視聴数伸びるんです。テレビじゃ見えないところに需要がある。それが、まさにここ。お金を渡してる光景なんて、たぶんテレビで出たことなかったと思うんです。
伯山 そう。で、俺、講談師じゃないですか。講談師なのに、なぜここに落語家さんがいるの? どういう関係性なの? っていうのを本や活字で説明すると面倒くさいんですよ。映像のほうがわかりやすい。伯山ってのは、落語芸術協会ってとこに入っていて、落語家さんと寄席で揉まれて育ってきて、そこでお披露目してるんだ、っていうのが映像でわかる。
関口 楽屋で番頭にカメラを回させるのは、伯山先生のアイデアでしたね。
伯山 楽屋は神聖なところなんで、外部の人が来ると、芸人は、よそゆきの感じになるんですよ。たとえばNHKが入ると、NHKっぽい感じに映ろうとする。
ところが仲間が撮っていると、ふざけてるところとかも映って、素の状態になります。だからできるだけカメラが回ってることを意識させないで撮りたかった。もちろん、それだって多少意識はしてますよ、皆、芸人だから。でも極力、意識させない寄席の楽屋の風景というのは、これはドキュメンタリーとして貴重だし、アーカイブで残るし、自分の真打披露で、しかも、これ、ぎりぎりコロナ前ですよ。今、こんなの、できないです。こんなぎゅうぎゅうに集まって。
関口 密、密、密で。タイミング的にも、ご時世的にも、撮り方も、いろいろな奇跡の上で、こうなりましたね。
僕たちもいろんなユーチューブのチャンネルをやっていますが、伯山ティービィーに関しては、一生遺(のこ)すんだ、とスタッフ一丸となった。これってユーチューブとして普通の扱い方ではないな、と思いました。
伯山 その後、お披露目が末廣亭、浅草、池袋と来て、コロナで国立演芸場の公演がなくなっちゃったんですね。で、いよいよここから『畔倉重四郎(あぜくらじゅうしろう)』が始まるんです。要するにもうお客さんとしても、「舞台裏じゃなくて、ネタ、そろそろ見たいなぁ」っていうときに、19席という連続物を一日一話、上げていった。
関口 これもこれで、すごかったですね。
伯山 今、伯山ティービィーの中で一番再生回数が多いのって、『畔倉』の1話目で、84万回を越えてるんです。これが4Kの高画質で残って、連続物の楽しさを体験してもらえる。全部で7~8時間ありますから、テレビの尺では、とうてい収まりきらない。それを一話ずつ。だいたい昼ぐらいに配信したんだけど、リアルタイムで「次どうなるんだろう」、「まだ配信されてない」とか、つぶやきがあって嬉しくなりましたね。まさに昔の講釈をネット上で再現できた。ところが、『畔倉』は、1回、グーグルに消されたんですよ。
関口 グーグルのAIが、「これ、どっかのDVDから取ってきて転載してるんだろう」って判断して、全部外しちゃったんですよね。普通、ネットには、こんなに綺麗に動画が残ってないから。グーグルに急いで電話して、「本当の高座中継なんです」って一生懸命説明しました。
最終的には、生で聞く感動みたいなのがあると思うのでそこまで繋げたいです。
ラジオの人気者をユーチューブに

伯山 関口さんって、おいくつですか?
関口 30歳です。もうおっさんですね、ネット業界的には。ただ、僕は小学校1年生で学校全部にパソコン室ができて、中学校でガラケー、高校卒業でスマホが出て、ニコ生、ユーチューブと育ってきたので、上の世代を見ると、ウェブの使い方下手だな、とか肌感でわかる。で、テレビのADをしたんですが……。
伯山 できるADでした?
関口 ポンコツです。
伯山 俺もポンコツ前座だったからわかるんですけど、他人に使われるの嫌なんですよね。
関口 そうなんです。だからADのくせに企画書とか出しちゃって。
伯山 ああ、痛いADだ(笑)。
関口 ただ、企画書出しまくってたら、たまたま通っちゃって。それが流行るか流行らないかぐらいの『妖怪ウォッチ』のユーチューブチャンネルでした。誰もユーチューブなんて知らなかったんで、俺、やりまーす!って。それが4年前です。
伯山 4年前でも誰もわかってなかった!?
関口 今でこそコロナ禍で、皆ユーチューブをやり始めましたけど、あの頃のテレビマンは意識的にネットに関わらないようにしてたんです。めちゃめちゃ隙間だな、と思って。それなりに当てました。
伯山 ところで、関口さんは自著の『メディアシフト』で「ラジオとユーチューブはすごく親和性が高い」「認知度と人気度は違う」と書いてますよね。それって面白い指摘だなと思いました。
関口 だから、僕はとにかくラジオで人気ある人のユーチューブを作りたかったんです。人気のラジオパーソナリティの番組は全部聴いて、〝ユーチューブ〟って言った瞬間に連絡する、って決めてた。
それで伯山先生、当時は松之丞さんが、『問わず語りの松之丞』で、「ユーチューブ始めようかなぁ」って言ったのを聴いてすぐ連絡したんです。
伯山 ああ、それで連絡が来たのか。そういう流れだったんですね。
関口 そうです。だからネットタレント界には、人気度だけで商売できて認知度がないタレントさんがいっぱいいます。
伯山 前、ユーチューバーは、人気あるけど自分は認知されてないと思ってプライベートも警戒してないから、すぐに撮られる、って言ってましたよね。
関口 すぐにやられます。
伯山 フライデーに(笑)。
関口 フライデー、もっとユーチューバーを狙いにいきゃいいのに、って、すごく思いますね。人気あってカネはあるわ、時間はあるわ、事務所ないわ、で自由ですからね、彼ら。
伯山 ユーチューバーってモテる?
関口 チャンネル登録者数でいうと50万超えたら、モテない日はないってくらいですよ。
伯山 生々しいな。登録数50万超えると、だいたい幾らぐらい入ってくるんですか。
関口 コンテンツにもよりますが、月に200万円は堅いでしょう。
伯山 年間2400万円か。それ税金、払うんですよね。
関口 まぁ(笑)、けっこう痛い目にあってる人はいますよね。18〜19歳ぐらいで、それぐらい稼げちゃうから。
伯山 おそろしい世界ですね。でも、関口さんの本では「ユーチューブは甘いものじゃない」って書いてますね。
関口 ぜんぜん甘くないです。今、第一線張ってるユーチューバーって、まだテレビに影響されて育ってきた子たちなんで、企画がテレビの真似事なんですね。だけど、ここからはタレントが参入してきて、その裏方としてテレビマンが入ってくる。となると、今、チャンネル登録者数100万持っている子でもオワコンになる可能性は全然ありますよ。逆に僕は、今後、先生がどうしたいと思っているのかなというのをお聞きしたくて。
伯山 う~ん、講釈師がどういうものか、このチャンネルでギャラクシー賞も取って、けっこう広まって良い流れになったんで、現時点で、ひとつの達成感はあるんです。で、今後も講談を広めていくつもりなんですけど、誰かとコラボしたりするコンテンツじゃないと思うんですね。チャンネル登録者数は、それをやったら伸びるんでしょうが、伯山ティービィーは完全に「鎖国ユーチューブ」だというのが、お互いの共通認識なんじゃないかなと。
関口 そうですね。このチャンネルの本当にいいところは、タレントさんがユーチューブをやるときに目標にしがちな「お金」とは違った〝意義〟を持ってることだと思うんです。なので今後もあまり狙わずに……ということですね。
伯山 こっから料理動画はじめたら、裏切りもいいところですもんね(笑)。




購入はコチラ




『FRIDAY』2020年10月16日号より
聞き手:関口ケント(YouTubeアナリスト)撮影:鬼怒川毅