敏感すぎて疲れる「繊細さん」に向いてる仕事向かない仕事 | FRIDAYデジタル

敏感すぎて疲れる「繊細さん」に向いてる仕事向かない仕事

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HSPは普通の人なら気にならない音や光、においなどに大きなストレスを感じ、周囲の人の感情にも敏感なため、怒られないか嫌われないかと常にビクビクしてしまいがち 写真:長田洋平/アフロ
HSPは普通の人なら気にならない音や光、においなどに大きなストレスを感じ、周囲の人の感情にも敏感なため、怒られないか嫌われないかと常にビクビクしてしまいがち 写真:長田洋平/アフロ

最近HSP(Highly Sensitive Person)という言葉が注目を集めている。HSPとはあらゆることに敏感すぎて、生きづらさを抱えている人のことだ。彼らは感覚が非常に鋭いため、普通の人なら気にならない音や光、においなどに大きなストレスを感じる。周囲の人の感情にも敏感なため、怒られないか嫌われないかと常にビクビクしている。

「性格が変わっているから」「能力が低いから」と自分を責め、うつ病に似た症状を引き起こすケースの根底にHSP特有の気質があることも多いという。HSPとはどういうことなのか、また、HSPの鋭敏な感覚をプラスに変換する職業について、十勝むつみのクリニック・院長・精神科医の長沼睦雄氏に聞いた。

ーーHSPとはなんでしょう?

「HSPは、米国の心理学者エレイン・N・アーロン博士が1996年に提唱した概念です。恥ずかしがり屋、内向的、恐がりといった性質をその背景にある『感覚処理過敏性』に注目し、概念化したものです。

最近では『繊細さん』の本がヒットしたことで、HSP関連の本を読む人が増えています。私のクリニックにもHSPに関する取材が増えていますし、専門のカウンセラーたちも活躍していることから、社会全体でHSPに関する認知が広がっていると感じています。

また、HSPは子どもの頃から敏感なケースが多いことから、HSC(Highly Sensitive Child、敏感な子ども)への関心も高まり、近年専門のアドバイザーも誕生しています」(十勝むつみのクリニック院長・精神科医 長沼睦雄氏 以下同)

ーーHSP特有の“感覚の鋭さ”とは?

「人間は五感のほかに、触角や温冷感などの体性感覚、磁場や周波数などの超感覚、内臓感覚をあわせると12以上の感覚を持っていると考えられています。なので、敏感さの種類も様々。また、人間が感じるのは外からの刺激だけでなく、脳内の記憶や内臓など、身体の中から受けるものもあります。つまりHSPは、身体の内外からの膨大な刺激に晒され、疲れ果てていることが多いんです」

ーー生きづらさを抱えがちと言われるHSPに向いている職業には、どのようなものがありますか?

「HSPの持つ豊かな情感やイマジネーション、鋭い感受性やひらめきなどは、画家や音楽家、詩人、小説家、写真家、俳優、舞台監督や映画監督など、芸術にたずさわる人たちには欠かせない条件。

より実現可能で現実的な選択としては、デザイナー、カメラマンやコピーライター、イラストレーターなどのクリエイティブな仕事が挙げられます。

共通しているのは、ひらめきやセンス、感受性といったものが要求される点と、1人で机や作業台に向かって自分のペースで行える作業であるという点。HSPはほかの人たちが見過ごすような小さな変化や異常にも、鋭敏さと直観力で気づきます。敏感な感覚と直観力の持ち主であるHSPなら、ミスやリスクをカバーできるシーンも多いでしょう。

仕事全般でいえば、与えられた様々なタスクを早く正確にこなすよりも、目標だけが決められそこに至るプロセスは自分で選べる仕事のほうがいいですね。自分なりの工夫ができることはHSPにとって重要です」

ーー逆に彼らにとって苦手な仕事はどんなことでしょうか?

「HSPは様々なことを感じとり、深く考えながら1つ1つの仕事に集中して丁寧に仕上げるのを得意とし、マルチタスクが苦手な傾向があります。多くの物事に気づくため、気づいたことに片端から対応していると、処理する量が単純に多くなり疲れ果ててしまうんですね。

彼らがひとつひとつの仕事に時間がかかりがちな理由は、周囲の雰囲気を感じて自分を急がせたり、先回りしてリスクに対応しようとしたりするからです。しかしトータルでみるとこうした取り組みはミスが少なかったり、他の人が気づかない方法を編み出していたりと、結果的には他と同じスピードか、時には早いことがあります。慎重だから大きなミスがない、手戻りが少ないからスムーズなど、確実に成果につながることも。

HSPがマルチタスクでパニックを避けるには、『ひとつひとつやっていく』ことがポイント。彼らにとっては、仕事の優先順位づけそのものがさらなる『仕事』になってしまいます。重要なものをひとつだけ選ぶこと、絶対に今日やらなければならない大切な仕事をひとつだけ選んで行うことを意識するとよいでしょう」

ーーHSPが活き活きと仕事をするためのヒントは?

「HSPは仕事でぐったり疲れ、休みの日はひたすら寝て回復に充てることが当たり前になっていたり、いつも考えごとで頭がいっぱいで、休みの日も仕事のことを考えてしまうケースが多いんです。職場でも常に気を張っているので、簡単な仕事なのに1日終わると疲れ切ってしまうんですね。

こうした『考え疲れ』や『緊張疲れ』の背景には不安があるので、安心感を増やし、のびのび仕事することでこれらを減らしていくのがよいでしょう。例えば仕事中に1人になれる時間やスペースがなければ、机にパーテーションをつけてもらったり、人に背を向けて座れる席を選ぶなど、自分の不安が少しでも減る環境を探すことが役立ちます」

ーーHSPの特性を活かし活躍した著名人たちにはどのような人たちがいますか?

「HSPの特性を活かし、大活躍した人たちはたくさんいます。その代表は『ユング心理学』で知られる、スイスの精神科医・心理学者カールーグスタフーユング(1875-1961)です。彼は世界ではじめて『敏感さ』というテーマを研究した人として知られていますが、それは自分自身の敏感さに悩まされていたからなんですね。

また、16代アメリカ合衆国大統領のエイブラハム・リンカーン(1809‐1865)は、自分自身の内向型人間としての特性を活かして、人々をまとめるリーダーになっていきました。相対性理論を発表した天才物理学者アルベルト・アインシュタイン(1879-1955)も、イメージカ、感性、芸術性が高く、HSP気質をもっていたと思います。

マイクロソフト社の創業者ビル・ゲイツ、投資家のウォーレン・バフェット、インドの指導者マハトマ・ガンジー、映画監督のスティーブン・スピルバーグ、『ハリー・ポッター』シリーズの作者J・K・ローリング、スヌーピーの生みの親チャールズ・シュルツ、Googleの共同創業者ラリー・ペイジなども内向型人間だそうです。

自分の敏感さを、治さなければいけないものだと感じ、周囲に合わせようと必死に努力するだけではHSPの生きづらさはなかなか変わりません。こうした敏感さを持つ自分自身を深く知り、それを受け入れることが明るい未来を創っていくのです」

人一倍敏感なHSPの感覚は、普通の人にはなかなか理解されないため、HSPという概念に出会うまでは、「気にしすぎ」「細かすぎ」などの心無い言葉に傷ついていた、という当事者は多い。理解してもらえないことで自分を責めていた人たちが、HSPという概念に出会うことで、生きづらさを改善するヒントを得始めている。

長沼睦雄 十勝むつみのクリニック院長。北海道大学医学部卒業。脳外科研修を経て神経内科を専攻し、日本神経学会認定医の資格を取得。北大大学院にて神経生化学の基礎研究を修了後、障害児医療分野に転向。道立札幌療育センターにて14年間児童精神科医として勤務。平成20年より道立緑ヶ丘病院精神科に勤務し、小児と成人の診療を行ったのち、十勝むつみのクリニックを開院。HSC/HSP、発達障害、発達性トラウマ、愛着障害、慢性疲労症候群などの診断治療に専念し、脳と心と体と魂を統合的に診る医療を目指している。『敏感すぎる自分を好きになれる本』(青春新書プレイブックス)など著書多数。

  • 取材・文浜千鳥

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