結成38年! 名古屋の還暦パンクバンドを追った「奇跡の映画」

the原爆オナニーズのドキュメンタリー『JUST ANOTHER』は「今」を生きづらい中年世代におすすめ!

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the原爆オナニーズ。左からEDDIE(ベース)、TAYLOW(ボーカル)、JOHNNY(ドラム)、SHINOBU(ギター) (撮影:HAL)

監督本人も認める、「わかりにくい」映画

10月24日、結成38年を迎えるパンクバンド「the原爆オナニーズ」に1年間密着したドキュメンタリー映画『JUST ANOTHER』が公開される。ひと言で言うと、ひとりでも多くの人に観てほしい。

「the原爆オナニーズ」は、ベースのEDDIEとボーカルのTAYLOWを中心に、1982年に結成された。2019年に還暦を迎えたこのふたりと、ドラムJOHNNY、ギターSHINOBUの4人から成る。過去には、元ブランキ―・ジェット・シティのドラマー中村達也も在籍していた。

このバンドの特徴は、結成時からメンバー各人が仕事とバンド活動を両立しており、名古屋から動かず、プロは目指さないこと。過去のメンバーの脱退理由も「海外転勤」だったりする。

この突拍子もないバンド名は、イギリスのパンクバンド「セックス・ピストルズ」をもじったものだ。結成当初は、広島の反戦運動家から「バンド名が許せない」とクレームを受けたこともあった。

しかしTAYLOWは「あなた達と同じような気持ちで、核、反戦について問題意識を持ってもらえればと思ってこのバンド名を付けています」と説明して和解したという。あえて、こう名乗ることで嫌悪感などの反応を呼び起こし、問題提起となることを目的としているそうだ。

そんな彼らの映画を撮影したのは、本作が劇場公開2作目となる30代の大石規湖(のりこ)監督。

「なぜthe原爆オナニーズは愛知県を拠点にし続けているのか」
「なぜバンドに専念しないで仕事をしているのか」
「なぜ60歳を過ぎて今なお激しいパンクロックにこだわっているのか」

という疑問が、この映画制作のきっかけになったという。

「この映画を観ると、その答えが見つかるのか!?」「何かを長く続けることのお手本になるのか!?」と言うと、そうでもない。答えは見つからないし、お手本にもならないかもしれない。大石監督に取材で会うと、開口一番「わかりにくいものを撮ってしまって…」と言っていた。

しかし、考えた。「わかりやすい」ことばかりを、私たちはわかりたいのだろうか?むしろもっと、「わかりにくい」のに考えてしまう、どうしても追ってしまう、そういうものに惹かれるのではないだろうか?

人生を変えた!?受験直前18歳の時の説教

実は高校生の頃、このthe原爆オナニーズのライブに通っていた。見るからに子どもっぽかった私は、嫌がらせにもあった。どつかれて前に行けなかったり、無理矢理モッシュピットに押し出されて窒息しそうになったり。そうすると、TAYLOWが手を伸ばしてステージに上げてくれた。当時の彼氏には「俺とあのおっさんと、どっちをとるんだ!?」と言われて喧嘩をした。「発狂目覚ましくるくる爆弾!」と歌って飛び跳ねているTAYLOWは、私には「おっさん」ではなかった。閉塞感ばかり感じていた青春の、救世主のように見えた。

高3になるとまわりは受験モード。親の庇護の下、勉強をして大学に行くのは、「パンク」じゃないと思い込んだ私は、ライブ後にTAYLOWに「もう受験をやめたい」と愚痴ってしまった。するといつも寡黙な彼にいきなり、「自分の与えられた場所で、自分がすべきことをちゃんとやるのがパンクでしょ!俺は大学行ったし、今は会社員やってる。でもバンドもやってる」と言われた。そして、「受験が終わるまで、もうライブには来るな」と言われた。

仕方なくライブに行くのをやめ、自分がその時すべきこと、つまり勉強をすることにした。いつかライブに行ける日のことを考えて、ただひたすらにやった。今、こうしてこれを書いているのも、あの時のTAYLOWの言葉のお陰かもしれない。

(撮影:HAL)

「今を生きる」ことは、当たり前じゃない。だからまぶしい

この映画『JUST ANOTHER』の中で、TAYLOWはまず、

「生活の基盤なくして、バンドはできない」

と言っていた。文字だけで見ると、「バンドは、社会人をやりながらお金の心配なく、余暇で楽しむくらいがちょうどいい」というちゃっかりした言葉に見えるかもしれない。しかし彼は、そのまったく反対のことを言っている。本気で音楽が好き、「パンク」の精神を全うして自分らしく生きる。だから与えられた場所で、やるべきことをちゃんとやっていく、それしかない、ということを言っている。

このシーンを観て私は、18歳のあの12月に戻ってしまった。31年も前、「それはパンクじゃない」と仁王のように鋭い眼光で、逃げ道の前で通せんぼしたTAYLOWと何ら変わっていない姿が映っていた。

大石監督は、

「TAYLOWさんに『何でバンドを続けるんですか?』って聞いても、あんなに冷静なのにはっきりとした答えを聞かせてくれないんですよ」

と、困り顔で言っていた。しかし、私は「答えがない」ことに少しほっとした。TAYLOWをはじめ、メンバーには「続けている」という意識はないのではないか。続けることが目的なのではなく、ただ、自分の今を生きてバンドをやっていたら月日が積み重なっていたということではないか。

若い人たちは、「今を生きる」なんて当たり前のことじゃないかと思うかもしれない。それが、30代を過ぎ、40代になり、それ以上…となるとどんどん困難になってくる。「昔とった杵柄」ではないが、元気で容姿もよく元気で機敏に動けていた過去の方が輝いて見えるし、当時は多少つらかった思い出も、スマホアプリの美白補正がかかったかのように美しく加工される。現実に向き合うより、過去の中に身を沈める方がどんどん楽になってくるからだ。

監督はこの映画を若い人に参考にしてもらいたい節があったようだが、迷える40代以上にこそおすすめしたいと感じた。パンクや音楽に興味を持っていない人にも、「今を生きる」「答えがなくてもやる」ことの強さ、まぶしさが突き刺さってくるはずだ。「果たして今の自分は、自分の場所で精いっぱいやれているかな?」と、考えさせてくれる。

彼らは名古屋の「今池まつり」でほぼ毎年トリを飾っている。ショッキングなバンド名など物ともせず、地元は「誇り」として迎え、子どもから老人までがパンクロックに熱狂している。『JUST ANOTHER』はこの祭りで始まり、終わる。このライブシーンを観ていると、大切なことには理由など何もない、ただやり続けることこそが大切なんじゃないか、まだ自分も、もっとやれるんじゃないか、という気にさせられる。

TAYLOWは同じことをずっと言っている。たとえコロナ禍で世界が変わろうとも、きっとこれからもこう言いながらバンドをやるのだろう。

「パンクの精神とはDO IT YOURSELF。自分でやるってこと!」

(撮影:HAL)

JUST ANOTHER
10/24()より新宿K’s cinemaほかにてロードショー!以降、全国順次公開!
©2020 SPACE SHOWER FILMS

『JUST ANOTHER』ギャラリー

スタジオでの練習風景(©2020 SPACE SHOWER FILMS)
ライブハウスでのサウンドチェックの様子(©2020 SPACE SHOWER FILMS)
今でもショップに足を運んでCDやレコードをこまめにチェックするTAYLOW( ©2020 SPACE SHOWER FILMS)
かつてthe原爆オナニーズに在籍していた横山健(Hi-STANDARD・右)とライブで共演(©2020 SPACE SHOWER FILMS)
「今池まつり」のステージでファンを煽るTAYLOW(©2020 SPACE SHOWER FILMS)
  • 上村彰子

    ライター/翻訳者。カルチャー、社会、教育問題をテーマに執筆活動中。著書に『お騒がせモリッシーの人生講座』(イースト・プレス)、『大人は知らない 今ない仕事図鑑100』(講談社)。映画『イングランド・イズ・マイン モリッシー,はじまりの物語』では字幕監修、解説、『モリッシー自伝』(イースト・プレス)では翻訳を手がけた。

  • 撮影HAL

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