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さっと脱いで、ぱっと入って帰る「生きてるお風呂屋さん」の話

10月10日は「銭湯の日」〜ネットではわからないこと

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10月10日は「銭湯の日」。今、東京都内の銭湯は504軒。最盛期には2600軒あったという。一方でスーパー銭湯やニューコンセプト銭湯は人気上昇中とか。そんななか、レジャー施設ではない「お風呂屋さん」のこと、銭湯愛好家がぽそっとつぶやきます。

10月10日は「銭湯の日」。かつてはこんな煙突が、どの街にもあった 撮影:佐藤晴樹
10月10日は「銭湯の日」。かつてはこんな煙突が、どの街にもあった 撮影:佐藤晴樹

「孫に大人になったら何になりたいか聞いたらさ、浜松町の秋田屋で腹いっぱい焼き鳥食いたいっていうんだよ。あきれちまったよ。情けないから今から秋田屋行って一杯やらないか」「いやだよ。せっかく風呂入ったのに煙臭くなるじゃねえか」

仕事上がりに立ち寄った麻布の竹の湯の脱衣場で、じい様たちの江戸落語のようなやり取りを聞いてから外へ出ますと、番台の横に東京都浴場組合発行の「お遍路マップ」と「スタンプノート」が僕を買ってと言わんばかりにこちらを見ているのと目が合った。それが12年前。

あと50軒延べで700軒お遍路参りすれば、組合加盟のお風呂屋さんは全軒回ったことになります。今年10月の時点で加盟軒数は504軒と聞いていますから、12年間で回ったうちの約200軒はすでに廃業されたということになるのでしょう。

長いことお風呂屋さん巡りしていますと、自然に自分の好みというものが出来てきます。最近知ったのですが、私の好みは「激しぶ系」と呼ばれる範疇に入るようで、その「激しぶ系」の有名店に、葛飾区小菅の草津湯さんがあります。

ネットでは、なにもわからない

北千住から一駅、東武線小菅の駅を降りると東京拘置所の威容が目に入ります。江戸時代は将軍様の狩場だったのかなどとつぶやきながら歩くこと十数分、旧水戸街道から路地を一本入ったところに草津湯さんは鎮座しておわします。

草津湯さんを有名にしているのはまず第一にその営業時間の短さです。週5日、1日1時間だけ。初めて訪ねた時は開業時刻だけを気にしていたために目の前で窓の明かりが消えてしまい入れませんでした。終業午後5時半の入り口の貼り紙を見て子犬のように唸りました。

お風呂屋さん巡りの魅力の一つにネットの情報があてにならないというのがあります。常連さんには貼り紙か口頭だけで臨時休業の連絡をしていて、かといって行く前に電話をかけて確認するというのも大げさな気がして、地図を頼りに行ってみたら臨時休業だった、廃業していた、空き地になっていたというのも楽しみとは言わなくても味わいの一つなのですが、さすがに午後5時半で目の前で明かりが消えるというのは信じられなかったです。

昔のお風呂屋さんを覗いているような

「初めてですか? 1時間しかやってないこと知ってましたか? 前回は無駄足させましたか、ごめんなさいねえ」おじいちゃんに謝られちゃいました。宮造りの建物は年季が入っています。洗い場のむき出しのお湯のパイプには改修にご苦労されたことがしのばれます。サウナや薬湯や水風呂はありません。

種明かしをすると昼間はデイケアサービスの会社に施設貸しをしていて、それが終わってから営業しているらしいです。他にもデイケアサービスに貸してるお風呂屋さんは何軒かあるのですが、営業時間を極端に短くしているところは草津湯さんだけです。デイケアサービスを本業にして一般営業をやめてしまったお風呂屋さんは何軒かあるようです。1時間だけとはいえ一般客への営業を続けてくれているだけ有難いのです。

江戸っ子は長風呂なんかしてられるかい、と

営業時間が短いとその1時間にどっと客が押し寄せるのかというとそんなことはなくて、ぽつぽつと良い具合に淋しくなり過ぎないぐらいの数のおじいちゃんたちが来て、さっと脱いで、ぱっと洗って、そそくさと帰っていきます。私が知っている限り客回転の一番良いお風呂屋さんは同じ葛飾区金町の金町湯でここも古いお風呂屋さんで、私はカラスの行水のほうなのですがそのカラスの私が抜かされる抜かされる。江戸っ子はせっかちなんだ長風呂なんかしてられるかと言わんばかりに、そそくさと帰って行かれます。

草津湯さんも客回転早くて、脱衣場で孫の話していたら1時間の営業時間では足らないんでしょうけどお客さん同士の会話もあまりない。昔の生きてるお風呂屋さんってそんなものだった気がするのです。

今人気のお風呂屋さんと言うと、サウナがあって露天や水風呂があって早い時間から開店してて長い時間楽しめて、家にお風呂がある人にも行きたいと思わせるような工夫と努力をしてらっしゃる。

「銭湯をどう残すか」に取り組んでらっしゃる皆さんには申し訳ないのだけれど、混んでなくていつまで営業続けているかわからないようなお風呂屋さんが好きなんだよなあ。

取材・文:佐藤晴樹(銭湯愛好家)

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