コロナ危機を乗り越えるために JR東日本が取り組む「秘策」

9月に、都内の駅でQRコードによる「チケットレス化」の実証実験

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新宿駅で行われた、QRコードで通過できる自動改札機(時事通信)

JR東日本が行った実証実験の中身

JR東日本は9月9日から9月30日にかけて新宿駅と高輪ゲートウェイ駅に試験設置中の「タッチしやすい自動改札機」を用いたQRコード乗車券の実証実験を実施した。

QRコード乗車券とは切符の券面に印刷したQRコードを自動改札機に設置した光学センサーで読み取って入出場の判定を行う乗車券で、既に沖縄のゆいレールや北九州モノレールで導入例がある。大都市圏の鉄道でも阪神電気鉄道や近畿日本鉄道、大阪メトロなどが導入に向けた実証実験を行っており、JR東日本もこれに続いた格好だ。

今回の実験の目的は、QRコード読み取り部の「分かりやすさ」と「使いやすさ」の評価、ICタッチ部とQRコード読み取り部の「認識しやすさ」と「配置の適切さ」の評価、そして自動改札機でQRコード乗車券を使用した際の流動状況等の評価だという。新宿駅についてはJR東日本社員が、高輪ゲートウェイ駅については車いす使用者や視覚障害者を含む一般モニターが実験に参加した。

同社によれば今回の実験は「将来的なチケットレス化を目指すにあたり、QRコードを含めて様々な乗車方式の検討を進める段階のもの」といい、現時点でQRコード乗車券の導入の可否や導入時期は決まっていないという。だが、一般利用者を対象にした実証実験の実施は、QRコード乗車券導入に向けた検討がかなり進んでいることをうかがわせる。

首都圏では2001年にICカード乗車券「Suica」がサービスを開始。2007年には私鉄・地下鉄が「PASMO」を導入し、鉄道のチケットレス化が推進されてきた。既に利用者の多くがICカードを利用しているにもかかわらず、なぜQRコード乗車券の導入を検討しているのか、疑問に思う読者もいるだろう。

鉄道のチケットレス化にあたって最大のメリットはコストの削減である。磁気乗車券用の自動改札機は精密機械の塊であり、製造コストは1台あたり1000万円にもなるという。さらに可動部や接触部が多数あるためメンテナンスコストもかさむ。

一方、ICカード専用の自動改札機はICカードと通信するリーダー・ライター部があれば作動するため、コストを大幅に削減できる。またICカードはチャージして繰り返し使用できるため、券売機の使用頻度も下がり、券売機の台数を大きく削減する事にも成功した。近年、切符売り場の空いたスペースを流用してATMなどが設置されているのは、このためだ。

だが、ICカードで磁気乗車券を完全に置き換えるのは困難だ。チャージ残高や使用履歴などのカード内に格納するデータのセキュリティを確保しつつ、高速無線通信によりデータの読み書きをするICカードは製造に1枚当たり500円程度かかるといわれ、1回限りの利用には向かないという欠点がある。そのため、利用の9割近くがICカードになっても、高コストの磁気券を併存させておかなければならなかったのである。

JRの券売機で切符を買う乗客たち。近い将来、券売機がなくなる可能性も?(時事通信)

自宅でも発券が可能になる?

そこで登場するのがQRコード乗車券だ。磁気乗車券との最大の違いは、切符本体に情報を書き込まないことにある。磁気乗車券は自動券売機が切符に書き込んだ日付、乗車駅、乗車区間等の情報を自動改札機で直接読み取って判定を行っているが、QRコード乗車券の場合、印字されたQRコードと紐づいた切符の情報はネットワーク上に保存される。

使用履歴はネットワーク上で管理されているため、QRコードを複製しても二重に使うことはできないという仕組みだ。処理速度についてもICカードとまではいかなくても、磁気券と同等かそれ以上を目指すという。

もうひとつ大きなメリットは、切符の発行場所に制約が無くなるという点だ。従来の磁気乗車券は、切符に磁気情報を書き込む必要があるため駅の窓口や旅行代理店にある専用の機械でなければ発行できなかったが、QRコードであれば自宅のプリンターでも印刷が可能であり、スマートフォンの画面に表示して使用することもできる。どこでも切符を発行できるようになれば、海外や地方に販路を広げることが可能な上、駅の窓口も規模を縮小することができ、コスト削減につながる。

実はその一部とも言うべきサービスが始まっている。JR東日本が今年3月から開始した「新幹線eチケットサービス」はネットで新幹線を予約する際に、手持ちのICカードのIDを入力すれば、ICカードがそのまま乗車券・特急券の代わりになるというサービスだ。Suicaをタッチした際にカードのIDを読み取り、IDと購入記録を照合して判定を行うシステムだが、この仕組みをQRコードに置き換えればQRコード乗車券が成立するというわけだ。

JR東日本はQRコード乗車券のシステムについて詳細は未定としているが、筆者はSuicaシステムの中に組み込まれる形で導入されるのではないかと考えている。

JR東日本は新型コロナウイルス感染拡大の影響により、2021年3月期の連結最終損益が民営化後初となる4180億円の赤字になる見通しを示し、今後1500億円のコストダウンを行うことを明らかにしている。一方で設備投資も削減するとしているが、業務の省力化や販路の拡大にメリットの大きいQRコード乗車券の導入は早まることはあっても遅くなることはないだろう。

  • 取材・文枝久保達也

    鉄道ジャーナリスト)埼玉県出身。1982年生まれ。東京地下鉄(東京メトロ)に11年勤務した後、2017年に独立。東京圏の都市交通を中心に各種媒体で執筆をしている。

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