長瀬智也「最後のドラマ」にクドカンが施した仕掛け

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ただのホームドラマに終わるはずがない

TOKIO・長瀬智也(41)の新作ドラマの役柄が、父親の介護のために現役を引退するプロレスラーに決まった。

この役柄に扮するのは約3年半ぶりの主演連続ドラマ『俺の家の話』(TBS、来年1月スタート)。長瀬は同3月末にTOKIOを離脱し、同時にジャニーズ事務所も離れることが決定済みで、以降は「裏方としてゼロから新しい仕事の形を創り上げていく」と表明していることから、ひとまず最後のドラマということになる。

TOKIOではボーカルとギターを担当してきた長瀬。役者としても活動し、高評価を受け続けてきた。演じられる役柄の幅の広さが特徴の1つで、これまでにトラブルシューターや落語家兼ヤクザ、超恋愛体質の刑事、天才医師などに扮し、いずれも自分のものにしてきた。

どうして役柄の幅が広いのかというと、インテリも愚か者も演じられる希有な存在だから。どちらも自然体で演じるのはベテラン役者すら難しい。もちろん、善玉も悪玉もOK。上品な男も下品な男もやれる。最後の作品でも守りに入らず、引退したプロレスラーという新境地に挑むが、精悍ということもあり、この役もハマるだろう。

長瀬本人はこう語っている。

「磯山プロデューサーと宮藤さんと11年ぶりにタッグが組めて幸せに思います。演じる気持ちは『IWGP(池袋ウエストゲートパーク)』の頃と何も変わりません」(TBSホームページより)

そう、プロデュースするのは磯山晶さん(53)で、脚本を書くのはクドカンこと宮藤官九郎氏(50)。『池袋ウエストゲートパーク』(2000年)『タイガー&ドラゴン』(2005年)、『うぬぼれ刑事』(2010年)と一緒だ。

NHK連続テレビ小説『あまちゃん』(2012年)などを大成功させたクドカンの才能と実力はもはや説明するまでもないだろうが、磯山さんもドラマ界で誰もが天才と認める数少ない人である。

アシスタントプロデューサーのころには漫画『プロデューサーになりたい』を週刊ヤングマガジンで連載し、高い評価を受けた。おそらく漫画家に転身しても成功を収めたに違いない。

企画にゴーサインを出す編成部に異動になっていた当時は『逃げるは恥だが役に立つ』(2016年)を大ヒットさせ、制作現場に戻ると『恋はつづくよどこまでも』(2020年)をチーフプロデューサーとして大当たりさせた。視聴率が取れる人であるだけでなく、ドラマ界に新風を吹き込み続けているのである。

長瀬の秘められていた魅力や眠っていた才能を引き出した人でもある。最後のドラマはこれ以上にない布陣でつくられると言ってよい。

ストーリーはクドカンのオリジナル。小説や漫画を原作する連ドラが圧倒的に多くなってしまった中、クドカンが創作者としての矜持を見せる形だ。そのストーリーは次の通り。

長瀬が演じるのは、ブリザード寿というリングネームで活動するプロレスラーの観山寿一。リングネームに早くもクドカンらしさが表れている。

寿一は過去には大規模プロレス団体に所属する人気レスラーで、プロレスが盛んなプエルトリコのチャンピオンにまでなったが(このマニアックな設定もクドカンっぽい)、ケガや年齢の問題もあって、今は小規模団体で細々と試合に出ている。そんな寿一のもとに父親が危篤との報せが入る。

この父親が超大物。能楽師の観山寿三郎で、二十七世観山流宗家にして人間国宝であり、全国に1万人以上の門弟がいる。これは実在する能の流派、観世流のパロディに違いない。

プロレスラーになる前の寿一は寿三郎の跡を継ぐと目されていたが、あまりに厳しい父の指導に反発して家出。以降、20年以上も寿三郎ら家族と没交渉だった。

その後、寿一は寿三郎の危篤を知るや急いで自宅に戻る。その顔を見て驚く家族たち。一方、寿三郎は奇跡的に一命を取りとめる。そして寿一らに自分の介護ヘルパーの女性を紹介。その女性と婚約し、遺産もすべて譲ると言い出す。人間国宝で門弟1万人だから、遺産はさぞ莫大だろう。

一方、寿一はプロレスラーを引退し、自宅に戻り、寿三郎の介護をすることを決意。ただし、疎遠だった家族や遺産総取りヘルパー女性の存在がある。介護と遺産相続を巡る激しいバトルのゴングが鳴る・・・。

TBS側の説明によると、カテゴリーはホームドラマ。家族の姿が描かれるのだから、そう位置付けられるだろう。家族のいる人の大半が経験する介護と相続も浮き彫りにされる。そもそもTBSは『寺内貫太郎一家』(1974年)や『渡る世間は鬼ばかり』(1990年~)などを制作してきており、ホームドラマはお家芸の1つだ。

もっとも、長瀬と磯山さん、クドカンが組むのだから、既視感のあるホームドラマにはならないはず。『池袋ウエストゲートパーク』なども斬新としか言いようがない連ドラだったが、『俺の家の話』も令和期ならではの清新なホームドラマになるに違いない。

クドカンはこう語っている。

「長瀬くん、磯山プロデューサーと、またドラマが作れる。こんなにうれしいことはないです。僕にとっては長瀬くん自体が、連載少年マンガの主人公のような存在です」(TBSホームページより)

長瀬はどんな役柄であろうが、狙い通りに面白く演じてくれる、という意味らしい。さらに、こう続けている。

「『長瀬くんと次やるなら、プロレスラーが親の介護をするホームドラマがいいです』。こんな提案を受け入れてくれるプロデューサーは磯山さんだけだし、なんの疑問も持たずに肉体作りに励んでくれるのは長瀬くんしかいません」(同)

確かにクドカンの提案はぶっ飛んでいるし、受け入れた磯山さんは随分と懐が深い。長瀬は元プロレスラーらしい体をつくろうとしているという。身長185センチで均整がとれているから、十分そう見えるようになるだろう。

磯山さんは次のように語っている。

「このドラマは、長瀬くんと長期にわたって相談してきた企画であり、彼本人の思いもたくさん詰まっています。宮藤くんとは、とにかく『現時点での長瀬智也の最高傑作を作ろう!』とずっと話し合って来ました。前代未聞の設定ですが、『家族っていいな』と思える王道のホームドラマを目指しております。是非、期待してください」

TBSはこれが長瀬の最後のドラマになるとは謳っていないし、長瀬自身もそれには触れていない。

冒頭で書いた通り、長瀬はジャニーズ事務所を退所したら「裏方になる」と宣言済みだが、ぜひ反故にしてほしい。少なくともドラマファンは公約違反を責めないはずだ。これが最後では勿体ないし、淋しすぎる。

  • 取材・文高堀冬彦

    放送コラムニスト、ジャーナリスト。1964年、茨城県生まれ。スポーツニッポン新聞社編集局文化社会部記者、専門委員、「サンデー毎日」編集次長などを経て現職。スポニチ時代は放送記者クラブに所属

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