テレ東発・話題沸騰「異色のグルメ番組」制作者が出した結論
世界のヤバい飯を現地レポート ダメ社員だったディレクターが一人で企画&取材 ギャラクシー賞受賞の「異色のグルメ番組」
何を撮るかは現地判断
「この番組は、既存のテレビに対するアンチテーゼのつもりで作りました。今の日本の旅番組は、海外と比較して『日本はすごい』という視点で作られているものばかり。でも実際に海外に行ったら、そうじゃないじゃないですか。僕はそんなテレビ界に飽き飽きしていたんです」
伸ばしたアゴヒゲにオシャレニット帽……およそサラリーマンとは思えない風貌だが、この人物はれっきとしたテレビ東京の正社員である。
『ハイパーハードボイルドグルメリポート』(以下『ハイパー』)ディレクターの上出(かみで)遼平氏(31)。
’17年10月、テレ東の深夜枠で突如放送された同番組は、その衝撃的過ぎる内容で瞬(またた)く間に話題を集めた。『ヤバい奴らのヤバい飯』をテーマに、ロシアのカルト宗教集団やケニアのゴミ山で暮らす青年など、世界各国のヤバい人たちの食事に密着。
上出氏曰(いわ)く「視聴率は大したことない」らしいが、昨年7月15日放送の『ウルトラハイパーハードボイルドグルメリポート』が第57回ギャラクシー賞のテレビ部門で優秀賞を受賞、有吉弘行や田原総一朗など、著名人からも絶賛の声が上がっている。
異色すぎる「グルメ番組」は、いかにして生まれたのか。意外にも、上出氏はこの番組を手掛けるまでテレ東のダメ社員だったのだという。
「放送が開始した当時、僕は入社6年目でしたが、それまで一度も自分の企画が通ったことがありませんでした。企画を出しても出しても『どこが面白いんだ』と突き返される毎日で、自分の感性がおかしいのではないかと疑うまで追いつめられていました。そんなときに、ちょうど深夜の枠が一つ空いたんです。それで提出したのが『ハイパー』でした。現場の先輩方が推してくれて、運良く採用されました。
不倫した人や不祥事を起こした人を悪者と決めつけて袋叩きにするという世間の風潮に、僕は疑問を抱いていた。だからこそ、〝悪人〟を撮りたいと思ったんです。彼らが僕たちと同じように食事をする風景を撮ることで、善と悪の境界線なんて曖昧(あいまい)なものなんだというのを伝えられるんじゃないかと」
野望は壮大だったが、局の判断はシビアだった。制作費は他の民放海外番組のおよそ10分の1。限られた予算のなかで、世界のヤバい奴らにどうやって辿(たど)り着くか。上出氏が考え出したのは、あまりにもワイルドな取材方法だった。
「通常、海外番組を作るときは事前に入念なリサーチをします。撮影の前に現地を『ロケハン』して、台本を作ってから大掛かりなクルーを送り込む。でも、『ハイパー』にはそんなカネはない。だから事前のリサーチは最低限で、何を撮るかはほとんど現地判断です。スタッフを連れて行く人件費もないので、取材も撮影もディレクター(僕)が一人でやっています。荷物も機材と『生きるため』に必要なものだけ。極力少なくしています」
妻・大橋未歩も大絶賛
放送日が決まってから、わずか1ヵ月程度で現地へ。滞在日は長くて5日という強行スケジュールだ。
「でも、台本もないミニマムなクルーだからこそ『今からここに行ってみよう』と身軽に判断して動けるし、日本で調べても絶対にわからないその国の生の部分に触れられると思うんです。もし今後、スタッフを連れて行ける予算をもらえたとしても、一人でロケに行くスタイルを変えるつもりはありません。
むしろ大変なのは、海外に出かける際に上司の許可を得ること。『絶対安全なので大丈夫です』と、毎回、一生懸命説得しています。オンエアの後、『話が違う』と必ず怒られますが(笑)」
記念すべき第1回放送「リベリア編」では、人を食ったという元少年兵達の根城であり、警察も不介入という国営墓地に突撃。身ぐるみを剥(は)がされそうになりながらも、取材の末、売春婦として日銭を稼ぐコカイン中毒の元少女兵・ラフテーに出会う。
「現地の警察官から、『あそこだけは絶対に歩くな』と言われていたのが墓地でした。当初は近づくつもりはなかったんですが、『撮って帰らなければ』というテレビマンの悪い癖が働いたんです。墓地でラフテーに出会えたのは本当に奇跡。あの取材が僕の人生のターニングポイントになったと思います。あそこに行かなければ『ハイパー』は2作目に続かなかったと思うので、コーディネーターを引っ張って墓地に向かった判断は間違ってなかったですね」
ちなみに上出氏、プライベートでは’15年に元テレビ東京アナウンサーの大橋未歩さん(42)と結婚している。美人妻は夫の危険すぎるロケを心配していないのだろうか。
「もちろん、『少年兵の巣窟(そうくつ)である墓場を取材する』とは言わずに行きましたよ。でも、番組を観て『スゴいの作ったね』と言ってくれました。今となっては、『死ぬ気で面白いものを撮ってこい』と。あと、『生命保険には入れよ』とも言われました(笑)」
コロナ禍によって海外ロケができない状況が続いている。そんななか、上出氏は現在、国内で破天荒な取材を敢行しているという。
「今はレコーダーだけを持って話を聞く取材を国内でしています。ミニマムを追求したら、結局カメラが邪魔だなって。音声だけだから入っていける場所もあるんです。
僕は常にいろんなものに怒ってて、そういう思いを『ハイパー』には詰め込んでいる。制作側の意図が伝われば最高ですが、番組を観た人たちが、シンプルにゾッとしてくれたり、面白いと思ってくれれば満足です」
上出氏のハードボイルドな旅は続く。
リベリア 元人食い少年兵の晩御飯
フィリピン 残飯フライドチキンを売る子供たち
ケニア ゴミ山暮らしの若者飯
ロシア 極北カルト飯
ボリビア 人食い山の炭鉱飯
アメリカ 極悪ギャング飯
ブルガリア 密漁キャビア飯
台湾 マフィアの贅沢中華
『FRIDAY』2020年10月23日号より
- 撮影:沼田学(上出氏) その他の画像はテレビ東京提供