GoToイートで再び激化するグルメサイトの「覇権争い」

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10月1日から始まった「Go To Eatキャンペーン」が混乱を呼んでいる。

Go To Eatキャンペーンとは「感染予防対策に取り組みながら頑張っている飲食店を応援し、食材を供給する農林漁業者を応援する」施策を指す。「食事券」と「オンライン飲食予約」の2本柱で成り立っており、現在、話題になっているのはオンライン飲食予約の方である。 

オンライン飲食予約は、予約サイトを経由して飲食店を利用すると、一人当たりランチ帯は500ポイント、ディナー帯は1000ポイントが付与され、次回、飲食店を利用するときに活用できる制度だ。

それを逆手に取ったのが、いわゆる「トリキの錬金術」に他ならない。事態が明るみに出る10月6日まで、鳥貴族では席だけの予約ができた。そこを悪用し、低価格の料理だけを注文して支払った料金以上のポイントをもらう輩が現れたのだ。こうした事態を受けて、現在、Go To Eatキャンペーンを所轄する農水省は制度の見直しを行っている。 

目を引くニュースが多いため、Go To Eatキャンペーンでは飲食店側にスポットが当たる機会が多い。しかし、その裏では「ぐるなび」や「ホットペッパーグルメ」「食べログ」「Retty」などのグルメサイトの熾烈な覇権争いが繰り広げられている。「グルメサイトの歴史」と「送客手数料」という2つのポイントを整理しながら、その最前線に迫っていく。

感染予防対策に取り組みながら頑張っている飲食店を応援し、食材を供給する農林漁業者を応援するため、10月1日から始まったGo To Eatキャンペーン。コロナ禍により、落ち込んだ飲食店の売上を回復させる起爆剤として、寄せられる期待は大きい

グルメサイトの歴史 

これまでグルメサイトの勢力図は目まぐるしく入れ変わってきた。その歴史を2000年代、2010年代、現在の3つのフェーズに分けて解説していく。

2000年代の主役は「ぐるなび」と「ホットペッパー」だ。株式会社ぐるなびが運営するぐるなびは、日本最古参のグルメサイトと言われている。1996年からWEBでサービスを提供しており、その歴史はかなり古い。一方、株式会社リクルートライフスタイルが発行する「ホットペッパー」は2000年に創刊されると、クーポンでお得に飲食店を楽しむ文化をつくり上げて一時代を築く。2005年にはWEBサービス「ホットペッパーグルメ」を開始し、今なおその影響力は強い。

2000年代に「ぐるなび」と「ホットペッパー」の存在感が高まった訳は、マーケット環境と深い関係を持つ。当時、ワタミ、モンテローザ、コロワイドの「居酒屋新御三家」が隆盛を極めていた。各社の代表的なブランドの「和民」や「笑笑」「甘太郎」は、いわゆる「総合居酒屋」と呼ばれている。駅前の一等地に大型店舗を構え、サラダや刺身、焼き鳥、揚物、つまみ、ご飯ものなど、幅広いメニューを提供しながら多様な客のニーズに応えていた。

しかし、総合居酒屋は損益分岐点が高いビジネスモデルだ。駅前の一等地なので家賃が高いのはもちろん、大型店舗なのでスタッフをたくさん抱える必要があったり、さらにメニューが多いので仕入れ数も膨大だったりした。そうした弱点があるため、宴会ニーズこそが経営の生命線だった。あらかじめ予約で宴会が入ると売上の見込みが立てやすい。

また、コースが主流なので仕入れのロスが少なくなるだけでなく、必要なスタッフの数の予測も立つ。つまり、いかに宴会ニーズを取り込めるかが総合居酒屋の命運を握っていたのだ。

それを実現したツールが「ぐるなび」と「ホットペッパー」に他ならない。グルメサイトを活用しているかどうかで集客に差が生まれる。総合居酒屋の経営に欠かせない存在として、両サービスは急成長を遂げたのだ。

ところが、2010年前後になるとマーケットは大きく変化する。特に大きな変化が2008年のリーマンショックと2011年の東日本大震災だ。リーマンショック後、デフレの深刻化に合わせるように「金の蔵Jr.」などの単一価格で勝負する激安居酒屋が台頭。一方、飲食店の専門店化が進む。そこで存在感を高めたのが「鳥貴族」や「串カツ田中」「ダンダダン」といった専門チェーンだ。

そうした社会環境の変化によって、宴会ニーズを取り込む「ぐるなび」と「ホットペッパー」の存在感が相対的に低下。変わって覇権を握ったのが株式会社カカクコムの運営する「食べログ」である。食べログは2005年からサービスを開始しているが、本格化したのは2009年だ。同年2月に申込店舗数が1万店を突破。それを契機にして有料サービスを開始すると、飲食店の専門店化の流れを受けて急成長を果たす。

しかし、ここ数年、食べログは飲食店の経営者から芳しくない評価が聞かれた。ユーザーから投稿されたレビューの削除が難しかったり、店の意思とは無関係に店舗ページを作られてしまったりといった問題が採り沙汰されたのだ。中には心ないユーザーからの投稿で、店の売上が激減してしまったケースも少なくない。

そうした背景もあり、近年、徐々に存在感を増しているのがRetty株式会社の運営する「Retty」だ。Rettyは口コミサイトであるが、その投稿はすべて実名である。どういったバックグラウンドを持つユーザーが、どんなお店を評価しているのかが分かるため匿名よりも信頼性は高い。10月30日にはマザーズへの上場を控えており、今後、その勢いはさらに増していくと予想されている。

こうした状況下で開始されたのがGo To Eatキャンペーンだ。これから先のグルメサイトの主導権を握るため、各社の思惑が複雑に絡んだ展開を見せている。

2020年4月度の既存店の売上高が前年同月比で96.1%減となった鳥貴族。制度を悪用した客につけ込まれてしまったが、Go To Eatキャンペーンで少しでも売上を戻したいと考えているに違いない

送客手数料の負担 

Go To Eatキャンペーンを展開するグルメサイトを語る上で欠かせないのが送客手数料だ。そもそもグルメサイトのビジネスモデルは、主に掲載料金と送客手数料の二つで成り立つ。掲載料金は、文字通り、それぞれのグルメサイトの掲載に掛かる料金だ。いくつかの掲載プランが用意されており、基本的に高額になるほどサイトでの露出が上がる仕組みを持つ。

しかし、近年、グルメサイト内で店舗を探すのではなく、SNSなどで気になった店を直接Googleなどで検索するユーザーが多くなったため掲載順位を重要視しない動きもある。さらにGo To Eatキャンペーンでは新規の掲載に関して、グルメサイト側は掲載料金を取れない。そこで各社が注目しているのが送客手数料だ。

送客手数料とは、グルメサイト経由で予約が入った場合、一人当たりに発生する手数料を指す。例えば、「ぐるなび」ならランチ帯だと50円、ディナー帯は200円かかり、「食べログ」だとランチ帯は100円、ディナー帯だと200円の送客手数料が発生する。

コロナ禍でグルメサイト運営各社も苦しい経営が続く。だからこそ、Go To Eatキャンペーンによる飲食店の利用増加に合わせて送客手数料で稼ぎたい。しかし、送客手数料を負担するのは飲食店だ。ただでさえコロナ禍で売上が減ってしまっている。できる限り送客手数料を負担せず、高い集客を実現しようと目論む。

そうしたニーズを受けて、Rettyは送客手数料を取らない決断を下す。また、予約台帳サービスを提供する「トレタ」は、飲食メディアやオンライ予約サービスを提供する株式会社favyと、オリジナル電子マネー発行プラットフォーム「pokepay」を開発している株式会社ポケットチェンジと協同事業体「FTP(フードテックパートナー)」を組んでまで、送客手数料無料を実現した。

トレタの創業者である中村仁氏は、もともと飲食店経営者だ。実をいうと、Go To Eatキャンペーンには予約とポイント付与のどちらの機能も持つグルメサイトしか参加できなかった。しかし、中村氏は飲食店の負担が大きい施策に疑問を持ち、他社と組んでまでGo To Eatキャンペーンへの参加を決めた。そのような背景もあり、FTPは飲食店経営者からの支持が高い。

とはいえ、どのグルメサイトを使うか選ぶのはユーザーだ。Go To Eatキャンペーンを利用して飲食店を使おうと考えているユーザーを取り込むため、各社がさまざまな施策を打つ。

特に強力なのがぐるなびだ。2018年7月、ぐるなびは楽天と資本業務提携をした。現在、ぐるなびの筆頭株主は株式の15.0%を保有する楽天だ。Go To Eatキャンペーンでも、ぐるなびを活用したらキャンペーンのポイントにプラスして、楽天ポイントを含む通常来店ポイントも貯めることができる。コロナ禍でECの売上が伸びているので、Go To Eatキャンペーンのポイントと楽天ポイントを同時に獲得できるのはかなり魅力的に違いない。楽天経済圏に入ったメリットがここに来て大きく生かされそうだ。

手数料のかからないサイトからの予約がほしい飲食店。少しでもお得にGo To Eatキャンペーンを利用したいユーザー。そして、思惑が一致しない両者をつなぐグルメサイト。その綱引きの勝者側に付いたグルメサイトの存在感が、今後、さらに高まっていくのは火を見るより明らかだ。

RettyはGo To Eatキャンペーンで存在感を高めそうなグルメサイトの筆頭株だ。実名の口コミということで、飲食店経営者の信頼は厚い。そこに加えて、送客手数料を取らない決断を下した。今後、Rettyの天下となるかどうか、その動向に対する注目度は大きい

Go To Eatキャンペーンの真の目的 

ここまで読んできて、大きな疑問を抱いた読者は多いかもしれない。Go To Eatキャンペーンは飲食店を応援する施策ではなかったのか。これでは飲食店は救済されないのではないか、と。

ここで肝になるのが、Go To Eatキャンペーンを管轄しているのが農水省という点だ。キャンペーンの目的にも「飲食店を応援し、食材を供給する農林漁業者を応援する」とあるように、第一義は農林漁業者の応援に置かれている。「Go To レストラン」や「Go To 居酒屋」でもなく、Go To Eatなのはそのためだ。農林漁業者の救済に合わせて、関連する産業にもいくらかの利益が出るようにし、レバレッジを効かせた設計になっているのがGo To Eatキャンペーンなのだ。

飲食店を救済するためだったら、2019年10月1日の消費税率引上げに伴って行われた「キャッシュレス・ポイント還元事業」を応用したほうが、早くスムーズに実行できた。しかもコロナ禍で非接触のキャッシュレスに対する関心も高まっている。期間を延長すれば、さらにキャッシュレス化が進む。2025年までにキャッシュレス決済比率を4割程度にするという国の目標も前倒しで実現するだろう。

しかし、キャッシュレス・ポイント還元事業はコロナ禍の6月30日にひっそりと終了している。迅速に救済できる方法を葬った上で、新たにGo To Eatキャンペーンを作った違和感は大きい。

問題はこれだけではない。グルメサイトの活用を前提条件にしていることにも問題がある。実は、近年、外食業界ではグルメサイト離れが進んでいた。原因は人件費や食材などのコスト上昇だ。固定費の負担が増えた結果、グルメサイトなどの販促に多額な費用を投資できない状況となった。

そこでここ数年、多くの飲食店が力を入れているのがファンづくりだ。原価率の高い目玉メニューをつくったり、驚きのあるサービスを行ったり、SNSを活用して店の個性をアピールしたりして、他店との差別化を図っている。実際、コロナ禍で客の戻りがよかったのが、普段からファンづくりを行っている店舗だった。それにもかかわらず、Go To Eatキャンペーンはグルメサイトの活用を前提としている。時代に逆行した施策だといっても過言ではない。

今回、Go To Eatキャンペーンに参加しないと決めている飲食店も目立つ。また、予約が前提になっているので客席の少ない飲食店は難しい。さらには、施策の実行まで急ピッチで進んだため、置き去りにされている飲食店も散見される。飲食店と、食材を提供している農林漁業者は一蓮托生だ。飲食店の経営が苦しくなれば、苦境に立つ農林漁業者も増えるだろう。それは本末転倒ではないだろうか。

グルメサイトも同様だ。覇権を取ったものの、肝心の外食業界は衰退していたという結末では笑うに笑えない。

  • 取材・文和味明宏

    フードライター。年間200軒近くの店を飲み歩きながら、飲食業界を考察。さまざまな外食メディアで執筆しており、業界取材歴は長い。

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