韓国で映画版『キム・ジヨン』公開が巻き起こした物議 | FRIDAYデジタル

韓国で映画版『キム・ジヨン』公開が巻き起こした物議

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韓国で社会現象を巻き起こした小説を映画化した『82年生まれ、キム・ジヨン』/10月9日(金)より新宿ピカデリーほか全国公開中  (c) 2020 LOTTE ENTERTAINMENT All Rights Reserved.
韓国で社会現象を巻き起こした小説を映画化した『82年生まれ、キム・ジヨン』/10月9日(金)より新宿ピカデリーほか全国公開中  (c) 2020 LOTTE ENTERTAINMENT All Rights Reserved.

韓国に“ママ虫”という言葉がある。ろくに育児もせず遊び回っている母親を害虫扱いした用語だ。

女性をいたく傷つけるが、韓国はこの数年間で大きく変わった。フェミニズムが進み、女性たちがモノを言う社会になっている。“ママ虫”なんて言葉を女性に投げつけようものなら返り討ちに遭うだろう。

フェミニズムが加速したきっかけといわれるのが、2016年の「江南(カンナム)通り魔殺人事件」だ。駅近くのトイレで23歳の女性が見知らぬ男に刺殺された。男は「社会生活の中で女性を憎んでいた」と供述し、韓国の女性たちはミソジニー(女性嫌悪)による殺人と感じて震撼した。

数カ月後、一冊の小説が発売される。チョ・ナムジュ著『82年生まれ、キム・ジヨン』(以下、『キム・ジヨン』)だ。

儒教の影響で男尊女卑の風習がいまだ色濃く残る韓国。小説に登場するキム・ジヨンは女性に生まれたというだけで日常的な差別を感じ、心が壊れていく。小説はキム・ジヨンを診察した医師のカルテとして綴られている。

“フェミニズム小説”と称された『キム・ジヨン』は韓国で130万部の大ベストセラーとなり、社会現象を巻き起こした。日本でもすでに21万部を突破している。

韓国では小説を称賛する声ばかりではない。男性たちも黙ってはいなかった。

そもそも韓国には“兵役の義務”がある。男性は厳しい軍生活を経験し、同年代の女性より2年遅れで社会に出ることになる。結婚すれば家族を養わなければならない。

男性にしてみたら、よほど損しているのは自分たちだという被害者意識がある。また、女性の中にもそうした男性に同調する声が少なくない。

『キム・ジヨン』が発売された頃、韓国では朴槿惠(パク・クネ)前大統領への退陣デモが行われていた。ここは女性に生まれただけで損をする社会。フェミニズムの波に乗った女性たちの多くは、そんな社会を変えるべく、デモに加わった。

こうした女性たちの支持もあって、文在寅(ムン・ジェイン)政権が誕生した。小説の日本語版カバーには「文在寅大統領もプレゼントされた!」と紹介されている。盛り上がるフェミニズムは文大統領にとって追い風でもあった。

だがハリウッドからMeToo運動の波が押し寄せると、状況は一変。韓国のMeToo運動は検察から政界、芸能界にいたるまで、様々な分野で巻き起こり、告発の嵐が吹き荒れたのだ。

当初、文大統領は「女性たちの運動を積極的に支持する」と表明したが、あろうことか自身の後継者である忠清南道(チュンチョンナムド)知事まで秘書に性暴力を告発され、現在は服役している。

今年に入ってからも、文大統領の側近だった釜山市長が女性職員へのセクハラで辞任。やはり次期大統領候補といわれたソウル市長もセクハラ行為を告発され、7月に自殺している。

今も続くMeToo運動で、よりによって文大統領に近い人物が次々と失職するという最悪の展開となった。

一方、『キム・ジヨン』は映画化が決まるとさらなる物議を醸し、公開中止を求める声が相次いだ。主演女優のチョン・ユミもネット上で勝手に“フェミニスト認定”され、批判されたのだ

『キム・ジヨン』が発売された2016年は、日本でも「保育園落ちた、日本死ね」という匿名ブログの言葉が話題に。(c) 2020 LOTTE ENTERTAINMENT All Rights Reserved.
『キム・ジヨン』が発売された2016年は、日本でも「保育園落ちた、日本死ね」という匿名ブログの言葉が話題に。(c) 2020 LOTTE ENTERTAINMENT All Rights Reserved.

映画を支持する女性と、公開を反対する男性。場外バトルが繰り広げられたが、映画は367万人を動員するヒット作となり、今月9日(金)からは日本でも公開されている。

映画は小説とは違った展開になっており、同書の翻訳家・斎藤真理子さんは「小説がカルテなら、映画は処方箋」と解説。たしかに小説のままでは男女ともに救いが感じられない。

フェミニストの韓国人女性に「映画の公開に反対した男性に対して何か一言あるか?」と聞いてみた。

彼女は間髪入れずに言い放った。
「そんな男はつべこべ言わず、足の裏でも洗って寝てろ」

韓国で勢いを増すフェミニズム。男性にとって新たな時代の序章ともいえるのだ。

  • 児玉愛子(韓国コラムニスト)

    韓流エンタメ誌、ガイドブック等の企画、取材、執筆を行う韓国ウォッチャー。
    新聞や雑誌、Webサイトで韓国映画を紹介するほか、日韓関係についてのコラムを寄稿。

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