「電子書籍」と「紙の本」どっちがいいか 脳科学の専門家の見解
「学び効率を最大化する」読書法を精神科医に聞く
電子書籍が誕生してから、ずっと論争されてきた「電子書籍VS紙の本」問題。結局、どちらを読むかは好みの問題なのだろうか? ある調査では、記憶力、集中力は「紙」の本が勝っているという結果が出たという。ならば、教科書のタブレット化は問題がないのか? Facebook、YouTubeなどデジタルツールを活用しながら「日本一、情報発信する医師」として話題の精神科医・樺沢紫苑(かばさわ・しおん)氏に、賢い使い分け方を聞く。
「紙の本」で育った世代への調査で、「紙の本」が優位になるのは当たり前!
パソコンやタブレットが一般化したとき、「これからはペーパーレスの時代」と、盛んに言われた。しかし、それから何十年も経っているのに、ペーパーレス化はあまり進んでいないように思える。実際、ビジネス書は紙の本が90%、電子書籍のシェアはわずか10%に過ぎないという。
紙の本と電子書籍については、さまざまなところで研究されており、いずれも紙の本のほうが記憶しやすいと結論づけている。
その理由の一つが、電子書籍で読むと、疲労感が大きく、注意力が散漫になり、読み飛ばし、斜め読みする傾向にあるということ。
また、紙の本には重みや厚さなどの感触があるため、どのくらい読み進んだかを体感するため記憶に残りやすく、文章を思い出すとき、本のどのあたりに書かれていたか、イメージとして浮かび上がるという説もある。
重さや手触り、紙の匂い、ページをめくるときの音、装丁などによって、視覚的、触覚的、嗅覚的、聴覚的など五感を刺激するため、それらの情報とともに、無意識のうちに記憶するとも言われる。
こうしたことを聞いていると、紙の本のほうが圧倒的にいいような気がするが、
「そうしたデータの被験者となっているのは、長く紙の本に触れてきた人がほとんどです。紙に慣れた人にとっては、紙のほうが記憶しやすいのは、当然のこと。デジタルネイティブにとってどうなのか、それはわかりません」(樺沢紫苑氏 以下同)
たしかに。教科書のタブレット化に関しては反対意見も多いが、生まれてきたときから電子書籍に親しんでいれば、簡単には決められないと言う。
しかし、紙の本は五感を刺激するなら、小さい子には絵本を見せたほうが脳の発達によさそうだ。
「今の子どもたちは電子書籍を器用にスクロールして、我々の使い方を凌駕している。小さいころからデジタル機器を使い慣れた子どもにとって、電子書籍がいいか悪いかはわかりません」
iPadが誕生したのが2010年、そのころ生まれた子供たちも、そろそろ中学生になる。
■情報通信機器の世帯保有率の推移:(出典)総務省「通信利用動向調査」
パラパラ読みできない電子書籍は、ビジネス書、実用書に不向き
樺沢氏も紙の本体験が長い。小説と漫画以外は紙の本を読むことが多いと言う。
「電子書籍のいちばんのデメリットは、 “パラパラ読み”ができないことです。
本は1ページ目から読んでいくのが当たり前と思っているかもしれませんが、小説はともかく、実用書やビジネス書の場合、最初から読んでいくのは、ものすごく効率の悪い読書法です。私は、まず目次を見て、自分が知りたいこと、興味のあるテーマを見つけたら、そこから読みます。
また、パラパラとページをめくりながら、重要なポイントだけ読んでいきます。そうすると10~15分で、だいたいの内容と、自分がもっとも知りたいことがどのへんに書いてあるかわかる。パラパラ読みをしたあとで、最初から読んでいくと、構成や内容をすでに把握しているために、圧倒的に深く読めるし、読書スピードは2倍以上にアップします」
小説や漫画は最初から読んでいくものなので、電子書籍でも問題ない。
「しかも、保管に場所をとらない。小説や漫画はしばらくすると読み返したくなるので、とっておきたい。電子書籍なら、保管場所は必要ないし、携帯に便利。旅行などに本を何冊も持っていくのはたいへんだけど、電子書籍なら、タブレット1台で1000冊以上も携帯することができます」
“アウトプット”しなければ、紙の本でも電子書籍でも記憶に残らない
紙の本は記憶を定着させやすいというが、ただ読むだけでは紙の本も電子書籍も変わりないのではと言う。
「記憶は、付箋をつける、アンダーラインを引く、書き込みをする、感想を書いたり、人に話したりするなど、“アウトプット”することによって、定着させることができます。とくに書くことは大事。字を書くためには、脳でとても複雑な処理をしているので、書くことによって覚えられる。
電子書籍でもアンダーラインを引いたりコメントの書き込みもできますが、実際に手を動かして『書く』ほうが脳を活性化します。私がビジネス書や実用書で紙の本を選ぶ理由もそこにあります」
紙の本に付箋を貼っておけば、大事なことがどこに書いてあるかひと目でわかる。電子書籍も付箋機能や検索機能がついているが、
「私は紙の本に慣れているから、紙のほうが使いやすいけれど、電子書籍を使いこなせる人なら、電子書籍のほうが便利かもしれません」
電子書籍は発展途上
慣れていないせいもあるけれど、どうしても紙のほうが読みやすいと思ってしまう。
「それは紙の本をそのまま電子書籍化しているせいもあると思います。紙の本は開いたとき、いちばん見やすいようにレイアウトされていて、電子書籍向きに組み直されていない。そのため読みづらいと感じてしまうのです」
目の疲れも気になる。
「光る画面やブルーライトのせいで脳に対して負荷がかかるからだと思います。読書をすると、副交感神経が優位になって脈拍数が減り、リラックスした状態になります。だから、本を読みながらベッドに入っていると、自然に眠くなる。けれど、電子書籍の場合は、ブルーライトによって睡眠ホルモンであるメラトニンが抑制され、逆に眠れなくなってしまうということもあります」
うーん、ではやっぱり紙の本がいいのか……。
「電子書籍が発展途上だということはあると思います。ただ、これから進化して、電子書籍でも読みやすいレイアウトになったり、目や脳を疲れさせないデバイスが進化したら、どうなるかわかりません」
電子化することで便利なこともたくさんある。
分厚い業務マニュアルや辞書も電子化することで、つねに持ち歩くことができる。紛失してしまう心配もない。何度も読み返したい本も電子書籍だったら、いつでも読むことができる。
「要は、どんな目的で、どんなシチュエーションで読むかで選べばいいと思います。それぞれにメリットがあるので、その人が使いやすいほうを選べばいいのです」
樺沢紫苑 精神科医、作家。札幌医科大学医学部卒。2004年からシカゴの イリノイ大学に3年間留学。帰国後、樺沢心理学研究所を設立。SNS、メールマガジン、YouTubeなどで累計40万人以上に、精神医学や心理学、脳科学の知識・情報をわかりやすく伝え、「日本一、情報発信する医師」として活動している。『学び効率が最大化するインプット大全』『学びを結果に変える アウトプット大全』(いずれもサンクチュアリ出版)、『読んだら忘れない読書術』(サンマーク出版)、『脳のパフォーマンスを最大まで引き出す 神・時間術』(大和書房)など著書多数。
- 取材・文:中川いづみ
ライター
東京都生まれ。フリーライターとして講談社、小学館、PHP研究所などの雑誌や書籍を手がける。携わった書籍は『近藤典子の片づく』寸法図鑑』(講談社)、『片付けが生んだ奇跡』(小学館)、『車いすのダンサー』(PHP研究所)など。