パ・リーグ「打点王争い」日ハム中田翔は犠飛でタイトルを奪取する

犠飛と打点の深くて不思議な秘密!

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8月11日の千葉ロッテ戦で犠牲フライを放つ中田翔(日本ハム)

新型コロナ禍、3ヵ月近く遅れて始まったNPBも終盤を迎えている。パ・リーグでは日本ハムの中田翔と楽天、浅村栄斗の打点王争いがヒートアップしている。

10月22日終了時点で中田102打点、浅村は99打点とわずか3点差。2人はともに大阪桐蔭高校出身。中田が1989年生まれ、浅村は1990年生まれ。1学年違いで高校時代はそろって中軸を打った因縁浅からぬ間柄だ。

ともにパ・リーグ屈指のクラッチヒッター(チャンスに強い打者)として知られ、すでに2度ずつの打点王に輝いている。いわば、打点王本命同士の戦いなのだ。

しかし2人は打者としては少しタイプが違う。

中田翔は通算打率が.252、3割をマークしたのは一度だけで、ほとんどのシーズンは.260前後なのに対し、浅村栄斗は通算打率.285、3割を3回マーク。アベレージヒッターでもあるのだ。

打点を稼ぐという観点で見れば、打率が高いほうが有利なはずだ。

今季も中田の打率は.246、浅村は.290。では得点圏打率が中田の方が高いのか、と調べてみると中田.312に対して浅村.339と浅村の方が高い。

打率も得点圏打率も浅村より低い中田が、なぜ互角の打点王争いができるのか?

実はその秘密は「犠飛(犠牲フライ)」にあった。今季、中田翔はパ・リーグ最多の9犠飛、浅村は1犠飛だけ。中田は安打で返す率は低いが、犠牲フライでこれを補っていたのだ。

無死、1死で三塁に走者がいるときに、犠飛は「打者の最低限の責任」と言われる。安打や本塁打が出るに越したことはないが、犠飛を打てれば1点は入る。犠飛は打数にはカウントされないから、打率は下がらない。犠打と同様、自分がアウトになる代わりに走者を活かす貢献度の高いプレーとして評価されているのだ。

犠飛が多いのは、大きなフライを打つことができる強打者だ。また「この状況で自分は何をすべきか」という状況判断ができる打者ともいえる。

NPBの歴代犠飛10傑 %は試合数に占める犠飛の比率

1野村克也113 (3017試合)3.7%
2加藤秀司105 (2028試合)5.2%
3王貞治100 (2831試合)3.5%
4門田博光95 (2571試合)3.7%
5長嶋茂雄90 (2186試合)4.1%
5張本勲90 (2752試合)3.3%
7山内一弘88 (2235試合)3.9%
7落合博満88 (2236試合)3.9%
9大杉勝男86 (2235試合)3.8%
10新井貴浩81 (2383試合)3.4%

錚々たる強打者が並んでいるが、ほとんどの打撃部門で1位に君臨する王貞治が3位野村克也が1位。野村は得点機にフライを打つことができる打者だったのだ。2位には阪急などで活躍した強打者の加藤秀司加藤は通算347本塁打しているものの一度も本塁打王になっていないが、打点王に3度輝いている。そして最多犠飛は6回も記録している。試合数に占める犠飛の比率は5.2%と野村や王よりもはるかに高かった。犠飛のオーソリティと言えるだろう。

現役の犠飛10傑はこうなる。

1内川聖一69 (ソ/1977試合)3.5%
2中田翔65 (日/1408試合)4.6%
3福留孝介64 (神/1909試合)3.4%
4中島宏之63 (巨/1769試合)3.6%
5栗山巧60 (西/1944試合)3.1%
6浅村栄斗54 (楽/1362試合)4.0%
7鳥谷敬52 (神/2205試合)2.4%
8松田宣浩49 (ソ/1739試合)2.8%
9坂本勇人47 (巨/1769試合)2.7%
10中村剛也40 (西/1730試合)2.3%

ソフトバンクの内川が現役では1位だが、中田は内川より569試合も少なくて4差につけている。試合数に占める犠飛の比率は4.6%と現役では断トツだ。

現役では、中田に次いで犠飛の比率が高いのは、浅村だ。浅村の4.0%も高い数字だが、中田の方が一日の長があると言えるだろう。

犠飛が多い打者は、本塁打が打てなくても何とかすることができる、心強い打者と言うことができよう。打率が低くてもこういう「本当のクラッチヒッター」は打線から外せないのだ。

中田は2018年に、歴代2位のシーズン13犠飛を記録している。(1位は1970年の東映、大杉勝男の15犠飛)。NPB史上でも屈指の犠飛ヒッターなのだ。このペースで犠飛を量産すれば、2000試合の時点では93犠飛、40歳近くまで現役を続けて2500試合まで選手寿命が延びれば115犠飛となり、野村克也を抜くことになる。

ただ、懸念材料は、選手生活晩年になって犠飛がぱたっと出なくなる打者が多いこと。

加藤秀司は、1984年にリーグ最多の9犠飛を打ったが、あとは引退までの3年間で6犠飛だった。現役の中島宏之も30歳までに最多犠飛2回を記録し、50犠飛だったが、アメリカから日本に復帰した33歳以降の5年間では13犠飛にとどまっている。パワーや打撃技術が落ちて、飛球が高く上がらなくなるのだ。

ただ王貞治と野村克也だけは別格だ。王貞治は引退した1980年に40歳でリーグ最多の8犠飛、野村も42歳の1977年にリーグ最多の8犠飛を記録。この2人は「ホームランになるはずの飛球がフェンスに届かなくなって犠飛になった」ということか。

31歳の中田翔は、打席でもどっしりと構え、風格が出てきた。今季の打点は、昨年までの143試合に換算すれば140打点近くになる。目立たないが打点を荒稼ぎしているのだ。

今後も長打や本塁打を期待したいのは当然だが、それとともにいざというときには犠飛が打てるパワーと技術を磨いてほしいものだ。

  • 広尾 晃(ひろおこう)

    1959年大阪市生まれ。立命館大学卒業。コピーライターやプランナー、ライターとして活動。日米の野球記録を取り上げるブログ「野球の記録で話したい」を執筆している。著書に『野球崩壊 深刻化する「野球離れ」を食い止めろ!』『巨人軍の巨人 馬場正平』(ともにイーストプレス)、『球数制限 野球の未来が危ない!』(ビジネス社)など。Number Webでコラム「酒の肴に野球の記録」を執筆、東洋経済オンライン等で執筆活動を展開している。

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